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短編集

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読み切りを中心とした短編集。
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#オリジナル小説

痛み

 少々やり過ぎたかなと思ったが、依頼なのだから仕方がない。  高額な料金を請求しているのだから、こちらはクライアントが望むように最高のレベルで仕上げるしかない。  より残虐に。より残酷に。  或いはゴミのようにあっさりと。  クライアントの望むがままに殺す。それが仕事だからだ。  目の前の男はすでに虫の息だ。腫れ上がった目蓋を必死でこじ開け、涙を流しながらこちらを見上げる。じりじりと蠢いているのはそれでも私から逃げようと必死なのだろう。 「痛いか? あぁ、私も痛い。溺愛してき

許し

 白だ。ただひたすらに無限に広がる白い世界。他の色は何もない。完全なるホワイトアウト。雪山を知る人間が最も恐れる自然現象が、目の前に広がっていた。  視界は一メートルもない。吹き付ける暴風が雪をあらゆる方向から叩きつける。下から巻き上げられ、横から吹き付けてくる。  山の女神が笑う。無力な人間が、冬の雪山に入り込む愚かさを。  雪の女王が責める。領域を犯す人間よ、身を以て凍てつく世界を知るがいいと。  ピッケルを突き立てるが、まるで岩のように固くなった雪肌には一度では突き刺さ