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短編集

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読み切りを中心とした短編集。
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2020年6月の記事一覧

サプライズ!

「こっち、こっち!」  俺にわかるように千夜(せんや)は跳び上がって手を振った。そのたびにブリーチした金色の髪がふわりと舞い上がる。細身な上に中性的な顔立ちで、ただ見ただけでは物静かそうに見える千夜だが、これでいて案外男気溢れる気質だ。  よく言えば、即決即断即実行。悪く言うと短気で落ち着きが足りない。今ももう見えているというのに、もう一度跳び上がって手を振っている。 「もう見えてるよ、千夜君」 「だって星斗(せいと)はぼんやりしているから、僕を見落としてそのまま通り過ぎて行

初恋

 たぶん、初恋だった。  ずいぶん自信のない回答だが、確証を持って彼女が好きだったと言える程、強く思っていたわけではない。  入学式に一緒に写した写真。ひときわ目立つ真っ白なふわふわの髪が印象的で、僕はのちに密かなあだ名をつけた。 ――綿毛ちゃん、と……  彼女とどんな会話を交わしたのか、どんな遊びをしたのか、全く覚えていない。彼女は一緒に入学を果たしたけれど、一緒に卒業していないから。  などというと、まるで彼女が途中で事故か病気で亡くなったかのようだが、そんなことはない。