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ミサイルは吸い寄せられるかのように、尾翼へ向った。エンジンに命中したのか、それとも燃料オイルか。大爆発を起こした敵ステルス攻撃機は、機体の欠片を吹き飛ばしながら炎上する。 その風圧を利用して、再度カイザーの機体は上昇する。オーグメンターを使わない、ミリタリーパワーだけで上昇しているが、体にかかるGの圧力に瞬間的に息がつまった。 血液が下半身に集まっている。血の気が引いているのだろう。つっと冷たい気配を頭部に感じながら、カイザーの機体は上昇して旋回。ヘッドアップディスプレ
この敵機は、ステレス性能を逆手に取った新型かもしれない。あえて通常の戦闘機を捕捉させて、こちらをおびき寄せ、そして奇襲のごとくレーダーに映らない闇から襲いかかる。 だが戦況がひっくり返るような状態ではない。精々びっくり箱を開けさせられた程度だ。 到底作戦と呼べる代物ではない。どうやら悪戯好きなトリッキーな連中が、面白半分でこちらをからかった結果だろう。 「っ!」 敵のアクティブレーダー誘導ミサイルを、ギリギリのタイミングで交わしたカイザーは、キャノピーの横を掠めるよう
部下たちの低次元な口喧嘩を、よくこのGのかかる空間できるものだなと感心しつつ、しかしスコードロンエースとして、注意しないわけにはいかない。 「いい加減にしろ。勝ったほうに食わせてやるが、フォックスバッド、ドードー。おまえら二人はまず反省文だ」 そういうと、無線から二人の悲鳴に似た嘆きが聞こえた。カイザーは微かな笑みを一瞬だけ浮かべるが、すぐにそれは真剣な表情にかき消される。 「ドードー、ビッグベア、十時方向へ。フォックスバッド、サイレントは二時へ。レッドファング、ベルは三
イヤホンから前線航空管制官からの発着許可のコールを聞くと共に、誘導員・マーシャラーが機体の誘導をタキシングで合図した。 ヘッドマウントシステムに敵航空機の情報が映し出されている。 予測していた敵の機体ではないらしいが、信号はローレンツ側のものであることが確認されていた。 機体を誘導路から滑走路へゆっくりとタキシングする。 その間も、次々に送り込まれてくる情報を読み取りながら、カイザーは小さな疑念を持つ。 敵の機体の移動速度が予想より速い。 敵の機体、恐らくFA-
『 ボギー、 ボギー! 第一飛行隊に発進要請。 敵航空機の可能性あり』 第一報が飛び込んできた瞬間、カイアナイト空軍レッドスピネル基地第一飛行隊エースのカイザー・オロフ・エルセン中佐は、それまで珈琲を飲みつつ、どこかぼんやりと航空雑誌を眺めていた表情を引き締めた。 それまではどこか茫洋した雰囲気で、スカイブルーの瞳をなんとはなしに雑誌に向けていたカイザーは、平時はどこか浮世離れしており、しかし一度機上の人となると鋭そうな印象を与える。そのため、長く一緒にいても、つかみどこ