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【写真家の凸凹雑記 #13】11年を迎えるちょっと前に丨 Funny!!平井慶祐

 毎年、3月11日はお仕事もやるべきことも全部おやすみ。大切な人たちと穏やかな時間を過ごすことにしている平井慶祐です。

今日は、11年目の3月11日を迎えるちょっと前に少しだけ。

先日2年ぶりに実家に帰省して来ました。両親と会うのも2年ぶり。お家の仏壇に手を合わせて、お墓参りもして、実家の前の見慣れた風景の中で家族写真を撮りました。目の前の田んぼはむぎが芽吹いて緑の絨毯。奥に見える象頭山。あの海の神様、金比羅さんの登り口が見えます。

2年ぶりに会った両親は少し小さくなった気がしました。自分が幸せでありたいというよりも、両親にとにかく幸せであって欲しいなぁと強く強く思いました。

「幸福」ってなんなんでしょうね?この1年間ずっと考えててました。この間、写真集作りの本当の最後の最後になって、あとがきに今思うことを綴ってみました。

ぜひ読んで欲しいと思います♪

あとがき

 どんなにいいカメラを持っていても、どんなに写真の技術があっても、写真ってひとりじゃ撮ることができません。撮る人と、撮られる人との共同作業だからです。撮らせてくれる人たちがいなければ写真を残すことすらできません。写真家なんてそんなもんだと思うんです。初めて一眼レフカメラを手にしてから20年が経とうとしているタイミングで、移り住んで10年になるここ石巻で、そんな当たり前のことを、もう一度、手のひらにしっかり握りしめながらシャッターを押し続けた1年でした。

 この写真集は数えきれない人たちの力が集まって形になったものです。記念写真に収まってくれたみなさん、まだカタチの無い写真集をクラウドファンディングや先行予約で購入して応援してくれたみなさん、そして一緒に手を動かし続けてくれた10年の幸福写真実行委員会のみんな。決してひとりではつくることができなかったからこそ、僕はそのことを心から誇りに思うし、そのことが何よりも嬉しい。ひとりじゃ無いってホント素敵ですよね。

 実は2021年3月、震災から10年を迎えるタイミングで開催した写真展で、タイトルに『幸福』という言葉を選んだとき、それが良いのか悪いのか分からず正直迷いがありました。きっと、なにが“当たり前”なのかが人によって違うのと同じように、なにが『幸福』なのかは人によってきっと千差万別だよなって感じていたんだと思います。ひとりひとり違うものを、ひとまとめにして「これが幸福です。」だなんてとてもじゃないけど言えない。写真展の会期が終わっても迷いが消えることはありませんでした。

 ただ「幸福ってなんだろう?」って考えることは決して諦めませんでした。ずっと頭の中でグルグル考えながら40組の撮影を続ける中で、「いつ?どこで?誰と撮りたい?」って質問を投げかけてみると、ふとしたときに「こんなのいいかもなぁ。」って小さなアイディアが湧いてくる瞬間が毎回あったんです。それはとても個人的で些細なことばかりだったように思うけれど、その小さなアイディアが呼び水となって撮影イメージが膨らんでいきました。大切にしたかったのは、ひとりひとり、ひとつひとつ。途中から呪文のように唱えていたような気がします。

 写真集に入らなかったカットの中にも、とても印象深いものがあります。子どもをおもちゃにして怒られるパパ、孫の悪ふざけに付き合うお爺ちゃんの嬉しそうな顔、自慢のおそろいのTシャツ、照れくさそうに仲間が作ってくれた誕生日ケーキのロウソクを吹き消す瞬間、お弁当を分け合う老夫婦の会話、久しぶりの再会に興奮を隠しきれない父をなだめる娘、船の上で感じるひんやりとした風、つい自分もスマホで撮影したくなる気持ち、近所の子の成長を見たときの、まるで親戚のおっちゃんになったかのような気分。

数え上げたらキリが無いけれど、それが僕がシャッターを押したいと思った瞬間でした。同時にそれは、生まれてから死ぬまでの間に、誰にでも起こりうる平凡だけど特別な瞬間だったなとも感じています。

 きっと『幸福』はひとりひとり違っていることの方が自然だし、今日の『幸福』が明日の『幸福』とは限りません。そのときは気付かずに、あとから気付くこともあるでしょう。そう思えば人の数だけ、その瞬間の数だけ“幸福のカタチ”があった方が、「幸福とは何か?」が分かってしまうよりも、世界は誰かの幸福な瞬間で溢れてるように感じられるはずです。だから「幸福ってなんだろう?」の答えは要らない。それが僕の答えです。

あなたの『幸福』は、あなたが気付いてあげればいいんじゃないかな?

 この写真集を手に取ったあなたが、どこかのページに目を留めて「あ〜、なんか分かるわぁ。いいなぁ〜。」って些細な共感ポイントを見つけてくれたり、震災から11年目に写ってくれた人たちの姿が、どこかの誰かの意味あることになったとしたら、そんなに嬉しいことはありません。

みんな幸福であって欲しい。
それが願いです。


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