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臨済宗最大規模を誇る妙心寺塔頭にて、次代の担い手と共に伝統・文化・芸能を一度に体験する

▶エリア:京都府京都市
▶文化財カテゴリー:寺社、伝統芸能(笙)
▶事業名:幽玄の美に触れる夜の拝観「妙心寺 桂春院」

臨済宗総本山妙心寺塔頭「桂春院」

今回の事業の舞台となったその妙心寺内に座する「桂春院」。戦国の雄 織田信長の子、信忠の次男「津田秀則」が創建。その後徳川家旗本の石河貞政によって再興され、小堀遠州の弟子、玉淵坊が作庭した庭園は、その苔とツツジの植え込みが素晴らしく史跡・名勝に指定。

更に驚くべきは長浜城から移築された書院があり、藤村庸軒好みの隠れ茶室「既白庵(非公開)」が残り本堂には京狩野2代目の狩野山雪による障壁画が400年余の歴史とロマンが今も息づく寺院であり、その価値は非常に高く生きた文化財です。

さて、文化財保全と活用に関しては京都のみならず全国で悩みとされている課題があります。

「拝観料や入場費用が異常に安い」
文化財に対して我々日本人はお金という対価交換になりづらい対象です。
神社などは最早タダ当然で入り放題。これに疑問を持つ人も少ないでしょう、理由としては幾つかありますが、あまりに身近すぎて建物や歴史の素晴らしさや保全の難しさを知らないのです。

「一般が入れない特殊な世界?」
このジャンルは決まり事やルールも多く、障壁の高い分野でもあり、アイデアや企画を作れても、実現する人材が足りない。

「不便な場所に」
都心とは違い、地方では少し離れた場所に位置している事が多く交通機関との連携も難しい悩みがあります。

今回の高付加価値化事業を通じてこれら課題を踏まえた取り組みをお話致します。

挑戦とコーチング3つの狙い

基本的に寺社の本分は、修行や信仰の場であり観光ではなく、日中は法務で忙しい。また、寺社の多くは夕方16時頃には閉まります(一部除く)ので時間が短い。

そこで、狙いの1つ目
「閉門後のアイドルタイムの利用」です。閉門以降特に稼働していない空き時間2〜3時間を活用して集客を図る方法です。

「ではどのように活用するか?」
よく豪華絢爛なライアアップで夜間拝観や特別拝観などを行われる所もありますが、それは資金があったり、人気のエリアにあるなど特殊な例です。山の中や住宅地の寺社では最初からそのような強みもなく、企画して運営が出来る人材もおりません。

ここで狙いの2つ目
観光系の企画運営が出来る若いチームとの連携です。アイデア豊富で挑戦を好む若いメンバーを起用し新しい仕掛けを考えます。今回の企画では、「足す」のではなく「削る」という日本古来の美意識を根底に置きながら「新しい驚きと発見」がある企画を創り出せるか?

そこで考え出されたのが、
3つの文化体験を一度に開催するという企画です。

通常、これらの文化体験企画は、その膨大な作業・準備を考えると
1つずつで行われます。それらを短時間で1度に開催するには、事業者の能動的なコミュニケーションと、桂春院さんの企画への深い理解が必須でした。その為には、事前の準備も大事ですが、開催中の現場で置きたトラブルや課題を常にメンバーとお寺側に随時共有して改善していくことです。

それでは3つの同時体験の中身を説明します

- 体験①
季節に合わせ派手ではなく、秋月明かりで見えるか?程度に試行錯誤で考えられたライティングコーディネーター牛込慎介氏による庭のライトアップ。

本堂1

- 体験②
書院では、その気さくで柔らかい人柄で全国にファンを持つ京都の若き裏千家の女性茶人 三窪宗笑さんの侘茶席。

三窪笑り子氏

- 体験③
日本が誇る世界最古の合奏音楽「雅楽」雅楽鳳笙(ほうしょう)は国内外で
幅広い演奏活動を行い様々なアーティストとコラボレーションも行う女性奏者、井原季子氏の演奏。

井原季子氏2

最後に、狙い3つ目、「高付加価値商品化」

「高付加価値体験」とは、限られた人が限られた人数で特別な体験をする。ここは非常に重要なポイントです。

今回は、美しく光る苔庭を貸し切り、3つの文化体験によって作られた幽玄という世界観によって喧騒を離れ心がホッとする時間を特別に提供。更に、日本を代表する和食の名店「京都吉兆」さんによる手間暇かけた温かい特製松花堂弁当を料理長自らからの説明を受けながら食事が頂けるという、これまでに無い非常に贅沢な時間を作り出しました。

図111

冒頭お話したたった閉門後の2〜3時間「アイドルタイム」を活用するだけでも付加価値を創れる可能性が十分にございます。

日本が世界に誇る最強コンテンツ!「日本文化」

今回のイベントは庭・お茶・食・雅楽を一度に体験出来る、1席8名の少人数で開催する夜間の特別企画でした。また伝統文化の継承と普及を図るため、茶人や笙の奏者に若手の文化継承者を起用。

大変ありがたい事にコロナ禍であっても予約はほぼ満席で大盛況でした。

コロナ禍でありながら成功した理由は再三申し上げておりますが、桂春院さんと演者と京都春秋(事業者)さんとの間で行われていた「日頃のコミュニケーション」と、お寺側が今の時代を知り生きる「若い力」を信じて任せた事が大きな要因と考えます。

その想いを感じて、安楽島(あらしま)ご住職のお計らいで桂春院所蔵の一休宗純墨蹟、千利休と千宗旦の茶杓を特別公開として、ご提供くださいました。「よしこれもやろう!」「これはどうだ?」いう気持ちにさせるチームの皆様の日々の交流から盛り上がって生まれたナレッジです。

2022年からは、今回同様、アイドルタイムを利用して近隣宿泊事業者と連携し、宿泊+特別体験・拝観ツアーや、季節に合わせた企画に留まらず、今後、海外観光客が復活してくる事も見据えております。

目線を海外からで考えると、国家レベルは元より観光分野において、日本は世界トップクラス。もちろん、アニメ・漫画としても有名ですが、なにより文化財・体験・伝統工芸へのリスペクトと人気は絶大です。

文化財は国内需要+海外需要の両者を狙える素晴らしいコンテンツです。今後も全国にあるまだ見ぬ文化・伝統に出会える事を楽しみにしております。

(画像)撮影 鈴木文人
Photo FUMITO SUZUKI

図1

村山和正
京都村正
京都の代々社家の家に生まれる。大学はアメリカにて天体物理学を専攻。帰国後は北海道・東京のCLUBレギュラーDJやお台場のFM局製作ディレクターとして番組製作。大手イベント制作会社で企画・制作・運営に従事。30代を機に「ものづくり」の世界へ入りディスプレイや什器・印刷物の制作技術を学ぶ。現在は京都・東京の2拠点で製薬・自動車企業のプロモーション、ラグジュアリーブランドのイベント企画、世界遺産比叡山延暦寺や国立博物館などで文化施設のPRや事業企画を担う。


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