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地域の伝統産業と社会課題に向き合った新たなアートイベント開催

▶エリア:山梨県富士吉田市
▶文化財カテゴリー:伝統産業(織物)・アート
▶事業名:織物産地のブランディングによる地域観光促進事業

山梨県富士吉田市とは

どこからでも富士山を拝められる眺望スポットとして、国内外からの観光客を集めるとともに、緑豊かな景観と富士山の清涼な渓流の恵みにより、1000年を超える歴史ある織物の街。

本町通り_S1410037

文化財の価値と課題

悠々たる自然と織物産業が密接に結びつき栄えてきた街が、いま、2つの課題を抱えている。

第一に、伝統産業である機屋の衰退。多様で緻密な織物技術を誇ってきた家族経営が、職人の高齢化と後継者不足の問題を抱えている。昭和時期に生産量が全盛期を迎えたが、OEMを中心とした下請け事業であったため、安価な輸入品の流通とともに生産量が減少。当時と比べて生産量は1/5、事業者数は1/10以下までに落ち込んだ。BtoC を軸にした独自ブランド開発や、国内外の展示会参加などに注力するもなかなか結果にはつながらず、苦戦をしていた。

第二に、富士山に向けて延びた富士吉田の中心地である「本町通り」の衰退。 現在、昭和の風情を残したレトロな町並みと、富士山という絶景撮影スポットがSNSで話題となり、富士吉田に訪れる観光客が増加傾向にある。さらに宿泊事業者や飲食店団体を中心にイベントが開催され、クリエイターの移住者も増えるなど注目を集めている。 その反面、シャッター街になり活気がなくなった商店街の空き家活用は急務で、飲食や宿泊、お土産や体験コンテンツの不足により観光消費の活性化につながらない状況が続いている。

高付加価値化の実現

そこで、今回の事業では、富士吉田に移住してきたデザイナーであり、ゲストハウス「SARUYA HOSTEL」経営者でもある主催者が中心となり、富士吉田市や機屋と連携しテキスタイルをテーマにしたアート展「FUJI TEXTILE WEEK 2021」を開催。

富士山の麓に広がる中心市街地「本町通り」を舞台に、デザイナー、アーティスト、建築家などトップクリエイターを招聘し、カフェ、蔵、旧銀行など「空き家」という資源を展示場所として活用。機織と空き家資源とアートを組み合わせ、市や、地域の人々と協力し作り上げることで、地域産業のPRとともに、街全体をアート展として回遊できる環境を作り上げた。

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同時に、ビジネス向けには、バイヤーやデザイナー、アートやファッション系メディアを招聘し、BtoB商談の機会を産地で創出。産地に呼び込むことで、機屋の販路開拓、商品開発の機会を創出し、地域や歴史を踏まえたテキスタイル文化を知ってもらうことで、テキスタイル産地「富士吉田」としてのブランディングを向上させた。

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・テキスタイルをテーマにした「アート展」
・テキスタイルの「BtoB 展示会」
・2つのイベントを融合させる「交流プログラム」

上記、toC向けアート展とBtoB 展示会とのハイブリット開催で多様な客層が富士吉田中心市街地に集まり、テキスタイルというテーマを持たせることにより、アートや建築という側面から伝統産業を考えるきっかけを産地にもたらす、という価値を生み出した。

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コーチングのポイント

アートコンテンツのキュレーション、地元機屋とのコミュニケーションは既に事業者側で確立されているとしたうえで、イベントを継続して実施していくための地盤となる「流通拡大」「PRの強化」「マネタイズ」の3点を軸に展開。

・流通拡大のフォロー
流通においては、toB機屋とのマッチングを目的に、アパレルブランドのPRをはじめ、ファッションイベント企画やプロダクト開発、展示会・卸事業、コンサルティングなど幅広く展開、流通にも精通しているファッションPRエージェンシー「株式会社ワンオー」をアサイン。機屋の特徴にあわせ、セレクトショップ系、ライフスタイル系、デザイナーズ系それぞれのバイヤーやデザイナーを招聘。当日アテンドを通じて、テキスタイルの街「富士吉田」の認知と共に、今後ビジネスに繋がる機会を提供した。

・toC向け、toB向けPRの強化
初回開催ということでPRをより丁寧に、プレスリリースやwebサイトの校正、ファッション系メディアへの情報発信、SNS運用などをフォロー。特に、記録写真のクオリティ、当日・事後リリースの重要性をポイントに展開する。

・事業継続のためのマネタイズ
マネタイズの点では、次回以降、イベント継続していくにあたってのスポンサー営業、また、地域に観光消費を促すためのコンテンツ作りについてを意見交換。特に街イベントは来場者へのチケット販売や物販だけではPLが成立しないため、地銀・市からの支援や、機織業者からの参加費、地元の飲料・環境・繊維企業等からの協賛や、地元店舗や住民による一口提灯協賛など、関係各社へのメリットを明確にし、セールスメニュー開発を具体化していく。

今後さらなる体験価値の向上

アート展は全国数々あるが、地域に寄り添ったテーマ(テキスタイル×アート)でシャッター街・地場産業の衰退といった課題を解決しようとする取組み、また、アーティストから協力を得られるなど外部との関係値と、市や企業、住民と築き上げた地元との密なコミュニティの掛け合わせは、移住者による文化財の高付加価値化、その継続化においても模範になり得るであろう。

富士山を間近に感じられる素晴らしい眺望と豊かな自然に恵まれた環境のもと、「空き家活用 × テキスタイル × アート」の文化体験コンテンツ誕生は、地元住民と移住組の若い世代のクリエイターによる運営組織の熱心な取組みと、今回参加したアーティスト・来場者にとって満足度の高い体験が重なることで、テキスタイルという文化は引き継がれ、アートという形で新たな文化資源を作り出し、富士吉田のアイデンティティー、そして、テキスタイルの新たな魅力、可能性を発信していくような観光資源や環境となって、今後も育まれていくものと確信できる。

そのためには継続していくためのマネタイズ手法の構築が必要であり、機屋、地域住民、来場者、企業、アーティスト、運営組織、行政にとって、各々が満足度の高い経済・文化価値を提供できる協賛企画の開発を目指していきたい。

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(画像)
撮影:吉田周平
提供:FUJI TEXTILE WEEK

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東堤 雄宇
株式会社DREAM-Lab 取締役
株式会社NAKAMA-Lab 代表取締役社長
美容・ファッション系商材を中心に広告・PR企画から、メディアのセールスディレクターを経て、現在、映像・イベントプロデュース会社DREAM-Labの取締役。京セラドーム大阪で年2回開催のファッションイベント「関西コレクション」、阪神タイガース女性ファン向け事業「TORACO」、関西インバウンドフリーマガジン「OSAKA AToKo」、札幌発ファッション・グローカル・フリーマガジン「SCRIPT」等。
NAKAMA-Labでは自社ブランドのヘアケア剤「X TREATMENT」やアクセサリー「merme」を運営。商品開発からプロモーション、オンラインストア運営まで一括してプロデュース。

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