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八ヶ岳のMEGUMI(恵み)を感じる山小屋ステイの高付加価値

▶エリア:長野県茅野市
▶文化財カテゴリー:ユニークベニュー(縄文文化・山小屋)、景観(自然)
▶事業名:太古の縄文文化を象徴する八ヶ岳の保全に資する新たな"高付加価値山小屋ステイ"開発事業

八ヶ岳のMEGUMI(恵み)を感じる山小屋ステイの高付加価値

長野県茅野市。ここには、山梨県ともつながる『八ヶ岳連峰』という日本最大級の連峰がある。初心者からプロに至るまで、山を愛する人々が季節に応じた表情を望みに来る。
また、八ヶ岳連峰は、多様な地形と土壌の豊かさにより”苔生した山”や”噴火あとの岩肌”など、様々な”風合い”を体感しに訪れる場所として昭和の山岳ブームより栄えた。
時は5000年以上前、八ヶ岳連峰。縄文人が生活を営んでいた時代。現代の気温より5度ほど高い時代のことである。

現代の八ヶ岳連峰は昔、縄文人の多くが暮らしていた場所であったそうだ。その多くは山の麓に集落をつくり、山では噴火によって生まれた黒曜石を用い、矢じりやナイフなどを作り狩猟を行った。また、山頂は神が住むと信仰された場所でもあると現地の研究者は語る。

そんな山好きがこよなく愛する八ヶ岳には、33箇所の山小屋があり、1日で2箇所以上のピークハントができるほどコンパクトに纏まっている。この条件もまた、日本最大級の山岳地帯と言わしめる所以でもある。

山小屋は山岳者達にとって、大雨や強風・遭難を回避するための緊急避難場所でもある、一方で、ライフラインの最適化を目指した結果、一部の山小屋ではレトルト食品を使用した食事、大部屋といった大人数をいかに宿泊させるかという側面が発展。設備面では水資源が限られるためトイレは旧式の汲み取り式で、若者や女性・高級なツーリズムを経験したい層には向いていない。

視察から見えてきた課題

まずは現状を把握すべく、視察に向かった。
山に関わるメディアとして、特に初心者・女性をターゲットとした雑誌を発行している『ランドネ』は、八ヶ岳連峰に存在する33箇所の山小屋から3箇所を実施対象として絞り込み、女性が興味を持ち、初心者にもインパクトを与えられるプロジェクトを立案されていた。

1, 星空のことを熟知されている山小屋の店主がいる『高見石小屋』
2, 苔に関する知識を有し、ガイドも可能な店主がいる『麦草ヒュッテ』
3, 冬の雪山で、アイスキャンディーという凍った人工氷瀑を登る事ができる『赤岳鉱泉』

それぞれ山小屋も世代交代が始まっており、今までの山小屋のスタイルよりは多少アップデートされているものの、やはり山小屋特有の”シャワーなどがない” ”トイレが臭い” “お酒を飲みたくなる雰囲気ではない”など、学生の合宿所感が漂う。
そして、山小屋としても物資を山に運ぶためには自力で背負うか、高額のヘリ輸送のどちらかしかない。
また改めて感じたのは、山をこよなく愛する登山家たちが高級で雰囲気の良い山小屋を求めているわけではなく、今まで通りの山小屋を好む傾向であったり、金額が上がることを求めていなかったりする。山小屋を経営する立場としては、高付加価値の顧客がいないと経済的に回らない現状であるが、一方で、山のファンが離れてしまうことにも懸念を抱いていた。

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上記の問題点をもとに、今年トライをすることになった項目は・・

まずは、現状の関係人員、従業員のルーティーン、リソースでできること。

コーチング1 心地よくセンスの良い空間で過ごす

皆が集まる場所やリビング・ダイニングのインテリアを厳選し、壁面や窓に掛かっているカーテンや写真、ペナントなどもセンスよくレイアウトすること。また、ライティングを蛍光灯ではなくランプやLEDの白熱の色温度を有するものを使用するなどして雰囲気をつくり、リラックスし、会話が弾み、お酒が進むような空気感を生み出す。

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コーチング2 料理のクオリティ向上

山小屋で鍋が食べられたり、地元の野菜を使った料理に寄せたり、店主自慢の料理やツアー限定のスペシャルメニューを作ることでリッチな気分になれるメニューを山小屋とともに開発。通常の山小屋では考えられないクオリティの料理を提供するため、金額が高くても問題はない。美味しい料理を賞味されたい富裕層とは親和性が高く、お酒も進むことで、売上が更に向上する。

食事レタッチ

コーチング3 トイレや寝具のアップデート

やはり、トイレの清潔感は大きな問題のひとつ。ドミトリーのように大部屋や相部屋で、布団で見知らぬ方と並んで就寝というのも、女性の初心者や富裕層にはハードルが高い。
そこで、高級羽毛布団やマットレスという寝心地が良い環境とプライベートな時間を過ごすことのできる個室を一部用意することにした。また、トイレを水洗トイレにすることは物理的にも経済的にも無理があるため、消毒等で臭いが発生しないように工夫。便座には常にクリーンなカバーが付いていたり、ライトやアメニティを整備するなど、初心者で清潔に暮らしたい女性に対しても、富裕層に対しても少しずつアップデートしていくこと。

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コーチング4 “知識“という最高の体験

“体験価値を上げる”というのは、体を動かしたり、スゴいものを見せることだけが体験価値なのではない。

『そこにある“そのままを”どう伝えることができるのか』
『どのような意味や意図があって、なぜそこにあるのか?』
『それによって、人々の暮らしはどうだったのか?』
『それによって、歴史と今はどう繋がっているのか?』

上に挙げたのは一部だが、人は知識を体験として価値を見出すことができる存在。特に、知識欲のある富裕層や自然体験を好む方は、プロにしかわからない山の知識や特定のエリアに根を広げる植物の特性、それによる文化形成の経緯などを見聞し、知識を深めるといった文化的価値に興味がある。
そういった面を興味がそそられるようなユニークな伝え方を採用したり、クイズっぽくしてみたり、目に見える色々に触れる方法などをガイドのプロフェッショナリズムと合わせて行えばエンターテイメントとなる。

その際に注意すべきは『一方的に伝えない』『聞き取りやすくする』『疲れさせすぎない』といったこと。お金を払ってでも知識を得たい人にとって適度な疲れは心地良いと思える。しかし、疲れ過ぎると知識欲も削がれ、ただただ疲れるフィットネスとしての価値になってしまう。体験者を見てガイディングのペースや通常の山岳ガイドと異なる伝え方や手法を積み上げてもらう。

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モニターツアーの展開、そしてさらに見えてきた課題

参加者は女性インフルエンサーやインバウンド関連会社・登山ツーリズム会社・光学機器メーカーで星空観賞のコンテンツ立案を行ってきた方などを設定。

1, 高見石小屋については、食事や寝具のアップデート。星にまつわるワークショップ時には、8000mスーツと言われる全身を覆うダウンスーツによって氷点下の夜空の観察がとても快適だった。このツアーのみに限っては双眼鏡の貸し出しもあり、一人で星空を満喫でき、的確なガイドと星空の見方を知ることができ大満足。
しかし、晴れよりも曇りの日が多い八ヶ岳において、星空が見られない場合の面白さをどこまで高められるのかが今後の課題と言える。そして、最大6名程度となるツアー中に展開される山岳ガイドの声が聞こえ辛かったりなど改善の余地がある。
そして、縄文時代との接続として先に、黒曜石を取り巻く歴史をインストール。縄文の暮らしと現代との情報的接続を行い、より深い縄文時代の知識を得ていただく。さすれば、目の前の景色が縄文人と同じ目線であることを感じられ、ガイドの流れがより良くなると確信した。

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2, 苔に照準を合わせた麦草ヒュッテは、ダイニングにおける空間インテリアとライティングのアップデートが行われた。店主のこだわりの苔のテラリウムが空間内に追加され、雰囲気が一新し、料理もとても良かった。お酒も進むと感じる。
そもそも、苔のガイディングツアーを無料で提供することもあった店主が今後、苔のツアーやテラリウムワークショップなどを高付加価値で販売・浸透させていくには緻密な線引が必要と感じる。

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3, 赤岳鉱泉は、モニターツアーに参加はできなかったものの、実施報告を受けた印象では、やはり初心者にはなかなかアイスクライミングはきつそうだなと感じたこと。そして、個室のアップデートがいつもの個室利用者以上の高付加価値を感じさせるのが難しそうだと感じた。
しかし、このツアー自体の山岳ガイドが世界レベルのため、部屋がどうこうというわけではない。そもそもガイドとの交流に価値があるので、集客は問題なさそうである。

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今後期待すること、さらなる体験価値向上へ

1, 現状の高付加価値の生み出し方も、リソースを多く追加せず、今ある現場の空間のアップデートと、ガイドのアップデートの組み合わせることが有効だと感じる。本事業における高付加価値化の手段を他の山小屋も応用すべきだと思う。自社メディアにおいてもムーブメントとしてピックアップし、費用を少し高く設定したとしても、意味のある価値を創造をすることに未来がある!という認識を、現地の山々に関わる全ての人に感じてもらえるように努力していただきたい。

2, 綺麗な山小屋として再整備し、高いお金を出してでも快適に過ごしたい方(別荘や山岳リゾートを好む層)のニーズは今後もどんどん増えていくと予測。そのため、必要なインフラと食事のアップデートは常にチャレンジいただきたい。

3, 八ヶ岳を代表する文化として縄文文化があると思います。太古の縄文時代との接続を山の麓のコンテンツと山の上のコンテンツとでバランス良く組み立てられれば、別の暮らしとしての面白さを感じさせられる可能性があると感じている。

最後に、この事業は日本全国の山岳コンテンツや山小屋・ガイド育成・自然体験コンテンツにとって、とても意味・意義のある事業だと言える。今後も、現地のDMOや山小屋・ネイチャーガイドなどとメディアやプロデュース領域を担う都会のコミュニティが連動する事業は親和性が高いと感じる。是非、横展開を全国レベルで目指していただきたい。

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小松 隆宏  
WATOWA株式会社
「ファッション」、「アート」、「デジタル」、「今」の感性をミックスして、魅せる・伝えるのプロフェッショナル。"わ"と"わ"を繋ぐクリエイティブコミュニケイションカンパニーWATOWA INC.の代表。
現在の日本のストリートカルチャーやファッション、あるいは独創的かつ先進的なテクノロジーやジャパニーズフィロソフィーを取り入れた新しい感性を持つ若手の作家を中心に、アート・コミュニケーションの場を提供するアートプロジェクトプロデュース集団「WATOWA GALLERY」のオーナープロデューサー。2017年に開校した、インターネットの農学校「The CAMPus inc.」社外取締役。渋谷のラジオで毎週月曜放送『渋にぃ』のプロデューサー兼、メインパーソナリティーとしても活躍中。

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