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焼酎の可能性を求めて。鹿児島の挑戦

▶エリア:鹿児島県鹿児島市
▶文化財カテゴリー:伝統産業(焼酎)、ユニークベニュー(名勝 仙巌園)
▶事業名:本格焼酎と文化財を活用した新たな「稼げる」複合的観光資源創出事業

「おじさんが飲むお酒」から「オシャレな人が飲むお酒」に

いま焼酎が面白い。「おじさんが飲むお酒」としてのイメージがついてしまった焼酎のどこが良いのか、東京のグルマンたちもまだまだ気づいていない人も多いようだが、焼酎はここ最近で最も注目されている酒と言ってよいだろう。なぜそう言い切れるのか? そこで、まずは焼酎のおかれている現況について説明しておきたい。

焼酎は米、麦、芋、黒糖、粕取り、そば、栗、泡盛など様々な食物を使った日本ならではの蒸留酒だ。鹿児島県なら芋、大分県なら麦など、県によって特色があり、特に九州、沖縄では消費量も格段に多く、県民酒として各地域で愛されている。

だが近年日本酒に比べて世代交代に遅れた結果、ブランドPRの世界戦略に遅れ、海外での認知度は極めて低い。さらに国内では「安酒」のイメージ払拭ができておらず、クラフトビール、ハイボール、クラフトジンブームの後塵を排してしまった。

その結果もあり、西日本新聞によれば「鹿児島県酒造組合が発表した2020酒造年度(20年7月~21年6月)の県内113社の本格焼酎生産量は、前年度比16.5%減の9万7673キロリットル(アルコール25度換算)だった。新型コロナウイルス禍で飲食店向けなどの業務用需要が大幅に落ち込んだ。減少幅は記録が残る1967年度以降で最大」とある。日本全体としてアルコール消費量の減退傾向があるが、コロナの影響もあって全体的に苦しい状況下にある。

そんな中、日本のカクテルベースとして大きな可能性を持っていると公言して憚らない人が出てきた。世界的トップバーテンダーであり、バーテンダー集団SG Groupを束ねる後閑信吾である。彼は米・芋・麦焼酎の分野をそれぞれリードする大手3酒造と業界の垣根を越えた共同プロジェクトを発足。バーで楽しめる新しい焼酎ブランド「The SG Shochu」を開発し、2019年に発売し、大きな話題を呼んでいる。

海外でもジャパニーズスピリッツである焼酎への注目度が増している。鹿児島県の本格芋焼酎は他のスピリッツと異なり、蒸留は1回だけ。そのため原材料や発酵由来のアロマやフレーバーをダイレクトに感じることができる、世界の中でも珍しい酒なのだ。

特に2018年に発売された国分酒造の「フラミンゴオレンジ」は、本来忌避されていた芋の腐臭を逆手に取った前代未聞のライチの香りが業界に一石を投じた。近年展開されている八千代伝酒造株式会社の「つるし八千代伝」や中村酒造場「amazing」など、炭酸に良く合う香り高い特徴がこの流れに続いており、焼酎がワインなどとも闘える魅力ある酒であることを証明している。

さらに近年の健康意識の高まりから、糖質制限ブームも焼酎にとって追い風になってきた。日本酒やビールなどの糖質を含んだ醸造酒と違って、蒸留酒である焼酎なら糖質はゼロだ。現実的には焼酎の消費量は右肩下がりに落ち込んでいるが、ブランディング次第では再上昇する魅力に満ちている。そう思えるほど、焼酎の未来は明るいのである。

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2020年「仙巌園焼酎ナイトガーデン」から2021年「焼酎エクスペリエンス」へ

こうした流れから、再び焼酎の一大ブームを起こせるのではないか。そんな甘い期待を確実なものにするべく、「焼酎に対するイメージのリブランディング」と「女性や若年層へのアピール」を組合側と協議の上、広く訴えてきたのが2020年から2021年の施策だ。折下コロナ禍の一昨年11月21日~23日の3日間、観光庁のバックアップによって実施された「仙巌園焼酎ナイトガーデン」は盛況となり、文化財の利活用と幅広い層が焼酎に興味を持っているのを知ることができた。

「仙巌園焼酎ナイトガーデン」は従来9:00~17:00の営業時間である仙巌園を、夜間の活用をすることによってより観光客に発信すべく、展開されたものであったが、今回仙巌園サイドから評価も高く、「再度、仙巌園を利用した焼酎のイベントをやりましょう」としてこぎつけたイベントが2021年12月25、26日に開催された「焼酎エクスペリエンス」であった。

島津家別邸「仙巌園」は、鹿児島にある日本を代表する大名庭園だ。鹿児島を代表する観光名所として知られ、桜島を望む庭園は殿様が暮らした御殿ならではの雄大さがある。国の名勝に指定されているが、2015年(平成27年)には敷地内にある旧集成館反射炉跡が世界文化遺産の構成資産に登録され、文化財としても一級の価値を持つ、歴史ある場所である。

そんな鹿児島の歴史とゆかりのある場所で、焼酎を発信することができるのは本質的である。今年はその流れをより加速するべく、昨年は夜間だけのイベントを昼にも開催することにし、「焼酎エクスペリエンス」と名前を変えた。さらに同時多発的に鹿児島市内各所で実施できるように、複数の候補地から石橋公園と仙巌園を選定。石橋公園では無料で。仙巌園を有償で、それぞれのコンテンツを作り込むように努力した。

石橋05

主なコーチングの実例 ​

コーチングした主な内容は以下の通り。

・開催場所選定
・イベントネーム決定
・チケット販促の手順
・PR方法など
・ドメイン取得
 ⇒shochuのドメインが取得できることが判明、「shochu.site」のドメインを取得できた
・WEBデザインをディレクション
 ⇒既存で酒造組合さんでお持ちのキャラクターを活かすなど、キービジュアルとして、分かりやすい・親しみやすいデザインを心掛けた

〈スタート時のデザイン案〉

図1

図2

〈コーチングにより、一緒に作成した最終デザイン〉

図3

図4

仙巌園16

今後の行方

名勝・仙巌園。江戸時代末期に肥後の名石が作り上げた石橋が美しい石橋記念公園。どちらも桜島の絶景を拝むことができる、鹿児島を代表する美しい場所である。

鹿児島の本格焼酎の素晴らしさを知ってもらうには最高の舞台だ。あとはロケーションを活かす、格のあるイベントを実施するだけである。

イベント終了後の年末、たまたま漫画家みなもと太朗氏が亡くなったこともあり、幕末維新を描いた『風雲児たち』を読み直していた。すると仙巌園が出てきた。島津斉彬が列国と対峙するために、どのような気持ちで旧集成館反射炉跡を作ったのか、丁寧に描かれていたのである。

我々は日本の歴史に学ぶ必要がある。そして日本の誇るべき文化に自信を持ち、それを発信する必要があると、新たに確信した次第である。

本イベントは焼酎の魅力を県内から発信できる価値があると信じている。あとは実行力のあるイベンターが継続的に続け、会場にお越し頂いた方々の満足度を上げるだけだ。「焼酎エクスペリエンス」が焼酎の魅力を伝えきれているのかといえば、正直に言えばまだまだだかもしれないが、焼酎の魅力を国内外に伝える数少ない鹿児島県のイベントははじまったばかり。全力で応援していきたい。

文化観光コーチングチーム「AMAMI」



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