童話『魔法の手袋』

みほちゃんはお母さんと二人暮らしです。お母さんは昼はお弁当屋さんで、夜は工場ではたらいています。いつも大いそがしで、みほちゃんとゆっくり過ごす時間があまりありません。今年のクリスマス・イブも、お母さんはお仕事で、クリスマスのごちそうは、クリスマスが過ぎてから食べようということになっていました。
みほちゃんは、お母さんがいそがしいことを知っていたので、お母さんの前では文句ひとつ言わずうなずきました。でも、みほちゃんはちょっと思いました。どうせだったら、クリスマス・イブにごちそう食べたいなあ。それからプレゼントもクリスマスの朝にもらいたい! 

でもそんなことを考えていてもどうにもなりません。気がついたら、もう12月23日です。明日はクリスマス・イブです。町を歩くと、いろんなところから、クリスマスソングが流れてきて、大きなツリーが、かざられています。誰にあげるのか、プレゼントをいくつも抱えて、うれしそうにお店から出てくる大人の人の姿がありました。

みほちゃんはその姿を見て思いました。そうかあ!プレゼントをもらうだけじゃなくて、私もあげればいいんだと思い立ちました。プレゼントがあれば、ちょっとはクリスマスっぽいかも!

そう思ったみほちゃんは、急いで家に戻って、お小遣いの300円を持ってきました。プレゼントをあげる相手はもう決まっています。お母さんです。はたらいてていそがしいお母さんですが、お母さんは編み物が得意で、みほちゃんに手袋やセーターを作ってくれます。どれもこれもあたたかくて、みほちゃんのお気に入りです。
今度はわたしが、お母さんに手袋をあげよう! そう思ったのです。
そこでみほちゃんは、いつもお母さんが行っている手芸屋さんに行きました。
「今日はお母さんのお使い?」
お店のおねえさんがきいてきました。
「ううん。今日はわたしのお買い物なの」
「そう、それで何を買うの?」
「毛糸。わあ! そのすてきな色の毛糸玉がいいなあ」
みほちゃんは、赤い毛糸玉を指さしました。
「これはとってもあたたかい毛糸なのよ。お目が高いのね、みほちゃんは」
お店のおねえさんにそう言われて、みほちゃんは得意になりましたが、ねだんを見てびっくり。なんと、980円もするのです。みほちゃんはがっかりしてしまいましたが、お店のおねえさんに300円しか持っていない話をしました。
するとおねえさんはこう言いました。
「ひとつ100円のもあるけど、ところで毛糸を買って、みほちゃは何を作るつもりなの」
「手袋を作って、お母さんにあげるの」
「クリスマスプレゼント?」
「うん!」
みほちゃんはにっこりほほえみました。おねえさんは頭をふりました。
「クリスマス・イブは、明日よね。ちょっと編むには時間がたりないかなあ。それにみほちゃん、編み物したことあるの?」
「う、ううん……」
「あのね、はじめて編む人は、手袋一週間ぐらいかかっちゃうものなのよ。クリスマスプレゼントだったら、もっと他のを買ってあげるのもいいかもね。みほちゃんが心をこめてくれたプレゼントだったら、お母さんはきっと喜んでくれるから。ね」
お店のおねえさんに、やんわり言われて、みほちゃんはまたがっかりしてしまいました。
せっかく手編みの手袋をあげようと思ってたのに、みほちゃんは残念でたまりませんでした。それに、300円じゃあ、お菓子を1こか2こ買うぐらいしかできません。お母さんがお菓子をもらっても、そんなに喜んでくれるとも思えず、結局その日は、何も買えずに家へと帰りました。

次の日は、クリスマス・イブでした。昼間、一生懸命お母さんへのプレゼントを考えていましたが、何も思いつけないまま、夜になってしまいました。
お母さんは、みほちゃんの夕飯を作ると、夜のお仕事へと出かけて行きました。
夕飯は、ごはんとおみそしると魚です。いつもと同じご飯ですが、今日ぐらいは、なにか特別な料理があってもいいんじゃないかと思いました。

夕飯を食べ終わったあと、みほちゃんは、いつもお絵かきしているスケッチブックを持ってきました。こたつに入りながら、スケッチブックを開くと、色えんぴつで、クリスマスの特別な料理をかいてみました。スープに、チキンに、サンタクロースの、のったクリスマスケーキ。きれいにかざられたクリスマスツリーも、すみっこにかきたしました。
「すごい!本物みたい」
自分でかいたのに、まるで本物みたいにかけたことがうれしくて、みほちゃんはにっこりほほえみました。 
「そうだ!お母さんのプレゼントは、絵をかいてあげよう!」
そこでみほちゃんは、一生懸命かきました。こころをこめて、まるで本物のようにかきました。できあがった絵は、赤い手袋の絵でした。
お店で見たあの赤い毛糸で、手袋を作ったとしたら、絵のようなあたたかそうな手袋ができたにちがいありません。
「今年は絵だけど、来年は本物をあげよう!」
みほちゃんは、うれしそうにいいました。まじまじと絵を見ているうちに、みほちゃんは、急にねむたくなってきました。そうして、あくびをひとつするとねむってしまいました。

「ガタッ」
何かが落ちる音がしました。目をさますと、目の前には大きなクリスマスツリーがありました。落ちたのは、ツリーのかざりだったようです。
みほちゃんは、びっくりしました。家の中にクリスマスツリーなんてかざらなかったはずなのに。
それからこたつから出ると、夕飯を食べたテーブルの上には、スープに、チキンに、サンタクロースの、のったクリスマスケーキが置いてありました。

お母さんが帰ってきたのかなあとも思いましたが、いませんでした。
みほちゃんは、びっくりしっぱなしでしたが、せっかくごちそうがあるのだから、食べてみることにしました。

スープはコーンポタージュで、みほちゃんのだいすきなスープでした。チキンは、こんがりきつね色に焼けています。それからサンタののった真っ白なクリスマスケーキは、とても大きくて、ひとりでは食べ切れそうもありません。
みほちゃんは、はじめは、おずおずと食べていましたが、料理があんまりにもおいしかったので、そのうちなにも気にせずに、口いっぱいにチキンをほおばり、スープはすきなだけのみました。そうして食べ切れないと思っていたクリスマスケーキは、半分、食べてしまいました。
「そうだ。お母さんにも、のこしておいてあげよう」
みほちゃんはのこった料理に手をのばそうとした時、なにかが下に落ちました。拾ってみると、真っ赤な手袋でした。それはまちがいなく、みほちゃんが絵にかいた手袋でした。さわると、とてもあたたかい本物の手袋です。
「やったあ! これでお母さんに本物の手袋あげられる」 
みほちゃんが、よろこぶのと同時にまたねむくなってきました。そうしていつのまにかねむってしまいました。

「みほ、みほ。起きなさい」
みほちゃんは、お母さんの声で目をさましました。夜のお仕事を終えてお母さんが、帰ってきたのです。もう朝になっていました。
「みほ、こたつでねちゃ、だめじゃない」
お母さんに注意されて、みほちゃんはあわてて、こたつから出ました。そうして、テーブルを指さしました。
「お母さん、あそこにごちそうがあるよ」
お母さんはテーブルの方を見ました。
「なにもないけど、どうしたの?」
不思議そうな顔のお母さんと、なにもないテーブルの上を、みほちゃんは、まじまじと見つめました。
ごちそうが、きれいさっぱり消えてしまったのです。
ということは、みほちゃんは、急いで辺りを見回しました。
ありません!あの手袋がありません。
せっかくお母さんにクリスマスプレゼントをあげられると思ったのに……。
みほちゃんは、悲しくなって、今にも泣き出しそうです。
その時です!
お母さんがいいました。
「こんなところに赤い手袋が落ちてるわよ。だれのかしら」
テーブルの下に落ちていたのは、まぎれもないあの赤い手袋でした。みほちゃんは、あわてていいました。
「メリークリスマス!お母さん。それ、わたしからのプレゼントなの」
「まあ、ほんとに?! みほサンタからのプレゼントだなんて、お母さんうれしい!! 最高のクリスマスだわ」
お母さんの言葉をきいて、みほちゃんは、ほっとするのと同時によかった、よかった!お母さんがよろこんでくれて!と思いました。

でもそれにしても、ごちそうはゆめだったのかもしれないけれど、手袋だけは、本物だったなんて、どういうことだろう……。みほちゃんは不思議に思いました。
お母さんにその話をすると、お母さんはいいました。
「クリスマスだから、魔法がかかったのかもしれないわね」
「魔法なんてあるの?」 
みほちゃんがきくと、おかあさんは大切そうに手袋をだきしめていいました。
「あるじゃない。ここに!」
みほちゃんの顔に笑顔が広がりました。

それはきっと魔法の手袋。 クリスマスにはやさしい魔法がかかるのです。
(おわり)



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