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童話『クリスマスの夜に』

これはずいぶん前に書いた童話です。小説家になろうサイトにも掲載していますが、気に入ってる作品なのでこちらにも持ってきました。


もう世間は12月ですね。職場の近くに複合オフィスビルがあるのですが(上がオフィスで、下のフロアが飲食店とかコンビニが入ってるビル)お昼になるとそこに行って食べたりしています。私はそこのオフィスの者ではないですけど、飲食店は誰が利用してもOK。そして12月ということでクリスマスツリーが飾られていました。(画像はそこのクリスマスツリーです)もうクリスマスなんだ! そんなこんなで、クリスマスのお話を読んで頂ければと思います。文字数的には3500字程です。


『クリスマスの夜に』

また今年もクリスマスがやってきた。お店のショーウィンドウには真っ赤な服のサンタクロースが微笑んでいる。背には大きな白い袋を一つ持ち、これからプレゼントを渡しに行こうとしているようだった。子供達は誰もがプレゼントを心待ちにして胸を躍らせている、楽しい、楽しいクリスマス。

けれどもみゆきにとってはひどくつまらないものに見えた。なぜなら今年は、プレゼントがないのを知っていたからだ。

みゆきは今年で中学生になった。親に言わせれば、もうサンタクロースといった年齢でもないから、今年はクリスマスプレゼントは無しということだった。プレゼントを楽しみにしていたみゆきはとてもがっかりした。 なんだ、私はもうクリスマスプレゼントをもらえないんだ。プレゼントのないクリスマスなんて、意味ないじゃない。

にっこり笑っているサンタクロースがなんだかいまいましく見える。夕方になって街中は光り輝くイルミネーションで彩られていく。店内からは陽気なクリスマス曲が流れ出す。サンタさんは今年は何をくれるのかな、小さな子供が親にそう言っているのが聞こえてきた。

サンタさんなんかいないのに…。私も、もっと小さい頃はそう思っていたけど。

みゆきはため息を一つつくと、辺りが随分と暗くなったことに気がついた。 もう帰ろう。寒くなってきたし、それにケーキだけはあったみたいだし。 みゆきはやり切れない気持ちのまま、家へと帰って行った。

家に着いたみゆきは、予想していた通り、夕飯後にケーキを食べた。メリークリスマスと書かれたチョコレートの板をバリバリ食べながら、とろけるような甘くて白いクリームが、一時だけ楽しいクリスマスを思い出させてくれた。でもそれも終ってしまうと、よけい寂しくなってしまい、なんとも言えない気持ちで、自分のベッドの中に潜りこまなければいけなかった。

真夜中。 みゆきはふと目を覚ました。どうやらのどが渇いてしまったらしい。彼女は水を飲むためにベッドから抜け出した。夜中に目を覚ますことなど、ほとんどないのだが、この時だけは目が覚めてしまったのだ。 彼女は眠い目をこすりながら、今がクリスマスの夜であることを思い出した。 本当にクリスマスであるとしたら、サンタクロースがトナイカに乗っている時間かな。

廊下の窓は全て雨戸が閉まっていて、外を眺めることはできない。みゆきもサンタクロースを見ようと思うほど、もう子供でもなかったが、あまり起きたことのない夜は静かすぎて、秘密めいた何かが辺りに漂っているような気がした。夜のひんやりとした冷気が、みゆきの頬をなでていく。

外を見たい。

みゆきは物置になっている小部屋を思い出した。彼女の部屋と同じ二階にもう一つ部屋がある。突き当たりの一番隅の部屋だ。四畳ぐらいの小さな部屋だが、誰も使っていないので、今は物置部屋として使われていた。 そこの部屋だけは、いつも雨戸が閉め忘れられているのをみゆきは知っていた。

彼女は下に行く階段を下りずに、くるりと方向転換してその部屋に向かった。そうして彼女は、その部屋の扉をそっと開けてみた。

部屋は窓から射しこんでくる冷たい白い光でいっぱいだった。中は雑然としていた。みゆきが小さな子供の頃に使ったおもちゃや、壊れてしまった扇風機、何が入っているか分からないダンボールに、山のように積みあげられた本や雑誌など、いろいろと置かれていた。確かに物は溢れてはいたが、がらんとしていて寒々しかった。

みゆきは一歩部屋の中へと足を踏み入れた。 その時、彼女の前を小さくて素早いものが横切った。ちょろちょろと、よく分からないものが部屋の隅を駆けずり回っている音がする。 恐怖がこみあげ、みゆきは思わず声をあげそうになった。

と、積み上げられた本の上に、ちょこんとそれが乗るのが見えた。あげかけた声は、一瞬にして止まった。 それは真っ白なねずみだった。

道端で死んでいるような灰色のねずみとは違い、そのねずみは飼われているねずみのようにきれいな毛並みをしていた。 白く輝くそのねずみに、みゆきはうっとりと見とれた。ねずみは窓の方に顔を上げ、しきりに小さな手を動かしていた。よく見るとその手には細い糸のようなものが、まとわりついている。

みゆきはもう少し近くで見ようと一歩近づいた。その時途中に置かれていた本が、音を立てて崩れ落ちた。

「しっ! 静かに!」

鋭い小さな声が部屋の中に響き渡る。 びっくりしたみゆきは辺りをきょろきょろと見回した。どこから声がするのだろうかと、怯えながらもその出所をつきとめようとした。そして彼女の目は本の上にいる白いねずみに吸いつけられた。ねずみがこちらを見ているのだ。しかも怒ったような目つきで。 その声はまた言った。

「これが終るまで静かにしてくれないかな。糸が切れちゃうよ」

みゆきは黙ったまま、うなずいた。

この奇妙な事態はなんなのだろうと思いつつも、ねずみがいいというまで見守ることにした。

一方ねずみはくるりと窓の方にまた顔を向け、さっきと同じように糸のようなものを、それは銀色の糸だった、手に持ちそれをくるくると巻いている。しかしよく見ると、その糸は上に向かって伸びていた。上へ、上へ、窓ガラスを突き抜け、夜の空へと延々と伸びていくのだ。

月の光を受けて、銀色の糸はきらきらと輝いていた。 ねずみはその銀色の糸を巻き取っているわけではなく、逆に空に向かって糸を出しているのが、みゆきにはようやく分かってきた。気がつくと、窓の外には、ねずみの出している糸と同じような銀色の糸が、あちこちから無数に出ており、それらは寄り集まり、一つの橋を空の上へと架けていた。それは銀色にきらめく星の橋だった。

白いねずみは、手元に糸がなくなるとやれやれといった表情をした。するとみゆきは、もう黙ってはいられないといった調子ですかさず、ねずみにきいてみた。

「あなたはねずみよね。なんでしゃべってるの?」

「今日はクリスマスだよ、お嬢さん。ねずみがしゃべったって不思議はないさ」

「そう。じゃあ、あの橋はなんなの?」

「あれはサンタクロースが通る橋だよ」

みゆきは驚いた顔をしたが、意地悪そうな声でこう言った。

「馬鹿ね。サンタクロースなんているわけないじゃない」

「何を言ってるんだい、このお嬢さんは。サンタクロースはいるよ」

「だって私は見たことないわ」

「そんなに言うなら、見ていてごらん。あと少ししたらやってくるよ、サンタクロースが」

ねずみがきっぱりそう言うと、みゆきの心はざわついた。本当かしら。疑いながらも、わくわくした気持ちが 止められない。 それから二人は、しばらくそのまま、空に浮かぶ星の橋を見守り続けた。

「シャン、シャン、シャン、シャン」

まさかと思ったが、鈴の音が聞こえてきた。みゆきは思わず目をぱちくりさせた。

これは夢なんだろうか。 橋の上にはあのお馴染みの服装のサンタクロースが、トナイカの引くソリに乗って現れた。

「メリークリスマス!」

サンタクロースは背負った白い袋からプレゼントを取り出すと銀色の糸に、それを滑らせた。プレゼントは糸を伝って、みゆきとねずみの元に届けられた。 みゆきは確かにプレゼントを受け取ったと思った。しかし手には何も残っていなかった。きれいさっぱり何もないのだ。 けれどもみゆきは、あったかくて大きなものを受け取った気がしていた。

「私のプレゼント消えちゃったわ。あなたのも、ないわね」

よく見ると、ねずみも何も持っていない。

「ううん。僕も君もしっかり受け取ったよ。祈りの箱をね」

「祈りの箱?」

不思議な顔をしているみゆきにねずみは説明した。

「サンタクロースが僕ら一人一人のために、来年が幸せであるようにっていう祈りを込めてくれた箱なんだ。だから目には見えないんだよ」

「毎年もらえるの」

「そうだよ。こうやって銀の糸を伝わって、みんなに届けられるんだ。でもみんな眠っているし、それに目にも見えないから、気づいていないだけ」

「じゃあ、来年もあなたはここで橋を作るの」

「ここで作るかは分からないけど、でもサンタクロースは必ず来るよ」

「そうだったんだ。知らなかった」

みゆきは、ぽつんと呟くと銀色に輝く橋を眺めた。 サンタクロースがその橋を鈴を鳴らしながら、ゆっくりと渡って行くのが見える。 みゆきはその後ろ姿に向かって叫んだ。

「メリークリスマス! ありがとう、サンタさん。来年も来てくださいね」

みゆきは微笑むと、しばらくその場にたたずんでいた。

こうしてクリスマスの夜は、過ぎていった。

おわり

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