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ちっちゃいメイドさん 第一話目

あらすじ
令嬢の白井唯は今年で御年10歳。豪邸に住む彼女だが父親の鶴の一声でお付きのメイドを解雇されてしまう。そこで唯は自分でメイドを雇うことにした。唯が雇ったのは、手のひらにのってしまうほど小さなメイド、使いものにならないマリリンだった。それでもなんとかがんばり唯に認めてもらえるようになる。そんな時唯が昔好きだった男の子強と再会する。唯は強のことが今でも好きだということに気づき、マリリンの後押しで、強に告白することができた。結果はというと散々だったが、強に昔メイドもいなかった時の頃の唯が好きだったと言われる。それを聞いた唯は自分のことはなんでも自分でしようと思うのだった。

本編
 
 私の名前は白井唯。白井財閥の令嬢、御年十歳。まさに今をときめく可憐な少女。家は当然のように豪邸で都心の閑静な住宅街に建っている。料理を作るコックだって一流のシェフを雇っているし、たくさんのメイドさんもいるし、何不自由なく暮らしていたの今までは。
 それがどういうわけか、うちのお父様、私が十歳の誕生日を迎えるのと同時に私のお付きのメイド、道子さんを解雇してしまったの。いつまでもメイドにやってもらっていたら、おまえは何もできないだろうとお父様は言うの。そんなこと言ったって、うちは貧乏じゃないんだし、ずっとメイドさんがいるのは当然なんだから、メイドさんがずっとやってくださっていいんじゃないかと思うの。でもうちのお父様は一度言い出したら、聞かないタイプ。それで最近はメイドのいない生活を送っていて、もうくたくた。ちょっと私の日常をご覧になってくださいよ。

朝6時に目覚まし時計が鳴る。
「ジリリリリ」
以前だったら、道子さんが私を起こす役割をしている。
「お嬢様、時間ですよ」
その優しい声は今はない。あるのはただけたたましい目覚まし時計の音だけ。ため息をつきながら私は目覚まし時計のスイッチを止める。起き上がると、道子さんが私のパジャマを脱がせてくれた。それが今は、自分で脱がなくてはいけない。なんて気だるいのかしら。脱いだ後のパジャマもきちんとたたまなくちゃいけないし、いくら時間があっても足りないの。
学校の制服に着替えを済ますと、私は鏡台の自分をじっと見つめる。いつもだったら道子さんが私の両脇の髪を少しすくいとって、それを一つに縛ってくれるの。そうして真ん中に大きなリボンをつけてくれる。それなのに、今はそれがない。私には髪を分けたりする器用さがない。なんでもメイドの道子さんがやってくれていたので、自分でそれをするとなると、どうしてもうまくいかない。なので、今は髪をすくだけの、単なるストレートヘアー。リボンなんてつけられない。このお嬢様の私がリボンなしだなんて、信じられない。けどリボンをつけるなんて芸当はとても私にはできない。むっとしながらも、朝食をとるために食堂へと向かう。
美味しそうなスープの匂いが廊下から漂ってくる。食事だけは自分で作れとお父様は言わなかったので、それだけはとても感謝。
食堂に入ると、スクランブルエッグに、ゆで卵に新鮮なサラダに焼き立てのパンがこれでもかと言わんばかりに盛りつけられている。そしてオレンジ、グレープフルーツに、いちごにバナナ。色とりどりの果物がおかれている。デザートはシェフ御得意のティラミスだ。
 どれにしようかと迷っていても誰も取り皿に取ってはくれない。以前なら道子さんが、手際良く取り分けてくれたのだ。ああ、どうして食事の時間までも優雅でいられないのか。これがお嬢様だなんて、絶対おかしい。
いらいらしながらも食事をとる。ううん、時間が足りない。とっても美味しい食事なのに。お付きのメイドがいないばかりにこんな理不尽なことってあるかしら。けれども一緒のテーブルについてるお父様もお母様も一向に気づこうとしない。二人にはお付きのメイドがしっかり給仕してるっていうのに。いったいなぜ、私ばかり不幸なの! 半分泣きそうになりながら、ティラミスを頬張り、本日の朝食は終了。
そう、私には学校があるのだ。規律正しいお嬢様学校、白百合女学園。学校は好きかと聞かれれば、授業以外は退屈でしょうがないところだ。いったい何のために行くのか私には分からないけれど、まさかお嬢様が不登校になるわけにも行かず、適当に行ってるのが現状だ。
しかしここからもまたしても理不尽。以前は車で送り迎えをしてくれていたのに、お父様の鶴の一声で、行きも帰りも徒歩で通うようにとお達しが。
学校までは歩いて二十分。歩こうと思えば、歩ける距離。なぜお嬢様の私が歩いて行かねばならないのか、その理由が私にはさっぱり分からない。ほんとお父様は気まぐれで困ってしまう。
なので、私は急いで学校へ行く羽目になる。通学路は住宅街だけれども、人はそんなに歩いていない。皆、車を使って通勤、通学しているので、人を見かけるはずもない。
なぜ、私だけこんな目に遭わなければならないのでしょう。私は『小公女』のセーラではない!
しかしそんな中一人だけ、歩いて通学している生徒もいる。彼女の名前は堀江まゆみ。天パーなのか、ゆるいウェーブがかかった髪を後ろに一つにまとめて眼鏡をかけている女の子。私と同じクラスの子だ。自分に自信がないのか、いっつも背を丸めて歩いている。しかもいじめっ子からいじめられてるらしい。そんなに胸を張らずに歩いてるからいじめられるのよと、私的には思うのだけど、いかがかしら。もちろん、彼女にそんなこと一度も言ったことないけれど、いじめる方にもいじめられる方にもやっぱり問題があるんじゃないかしらと思うのよね。と、そんなこと考えているうちに校門が見えてきたわ。早く行かないと遅刻しちゃうわ。
 私が校門を無事にくぐり抜け、下駄箱に行くと、廊下の方から三人組で足並み揃えてくる生徒がいる。それはまさしく意地悪三人組、いじめっ子の高橋真理子と水倉綾と三浦美紀だった。同じく下駄箱にいる堀江まゆみにちょっかいをかけるのかと思ったら、彼女達はきりりとした態度で私の方を見つめている。
「あら、おはよう白井さん」
高橋真理子が真面目ぶった顔で声をかけてきた。
「おはよう」
私が答えると、
「あら、嫌だ。白井さん何かお忘れじゃない」
と水倉綾。私はなんのことだかさっぱり分からない。ぽかんとした表情をしていると三浦美紀が得意そうに自分のリボンをゆすってみせた。
「白井さん、これよ、これ」
私の顔は一瞬にして赤くなった。私が一番気にしていることを!
「どうしたの。最近はリボンなしじゃない。前だったらオーダーメイドのリボンをみせびらかしてたじゃない」
高橋真理子がふふんと鼻で笑いながら言ってくる。
「リ、リボンなんて子供じみてるわ! 最近私は大人の女性を目指してるのよ」
「その割には髪の色つやが最近いまいちじゃありません」
すっ、鋭い! というより、なんで分かったんだ。最近は道子さんがトリートメントをしてくれないから、つやがいまいちなのだ。
「ふん。気のせいじゃないかしら」
「あら、ほんとに気のせいかしら」
三人に取り囲まれ、身動き取れずにいるとチャイムが鳴った。
「もうこんな時間。あなたのリボンのせいで遅刻になってもしかたないですもんね。今日はこれくらいにしてあげるわ」
三人はさーっといなくなった。あとに残ったのは心配そうに陰から見ていた堀江まゆみだけ。
「ちょっと、あなたも何してるの。早く行かないと遅刻よ」
結局見てるだけしかできないなら、いなくてもいいのにと私はため息をつく。私は彼女の手を取って、教室へと急いだ。
うまい具合に教室にすべりこんだ私と堀江まゆみは遅刻せずにすんだ。が、あの三人組の言葉は私の心にぐさぐさきた。私が一番気にしているリボンなしという事態に容赦なく土足で入り込んでくるなんて、なんだか許せなくて、許せなくて、頭にくる。しかも私をいじめの標的にしてくるなんて百年早いわって思ってしまうのに、彼らにやりかえすいい方法もみつからない。これもすべて道子さんがいなくてなってしまったからだ。やっぱり私にはお付きのメイドが必要なんだわ。なんとかしてメイドを探してこなくっちゃ。また例の三人組からリボン攻撃を受けないよう、彼女達を避けながら私はその日を乗り切った。
その日の学校の帰り、私は月刊の少女マンガを買った。いろいろな理不尽なことがあると、こんなマンガでも読まないとやってられませんわ。まったくなんなのよ、あの三人組は。堀江さんをいじめてればいいのよ、まったく。
私は仏頂面のまま、そのまま帰宅した。執事がにこやかな顔で
「学校ではお変わりはありませんか、お嬢様」
と言ってきたけど、無視してやった。この数日変わり過ぎて大変なんだから、ほっといて欲しいわ。むっとした様子で私は二階の自分の部屋へと向かう。執事は、はてといった風な感じで私を見送る。執事なんだから、私の微妙な変化に気づけっていうの。しっかりお父様に報告していただかなくちゃね
 私はむしゃくしゃしながら、自分の部屋に入ると、ランドセルを放り投げ、ベッドにどさりと倒れ込んだ。
「はあー、ほんと疲れたあ」
天井のシャンデリアを見ながら、私は意地悪三人組の得意そうな顔を思い浮かべた。
「むかつく、何さ!」
思い切り枕を壁に投げつけた。枕はぼすんっといって、床へと落ちた。
いつもだったら道子さんが
「どうなさったんですか、お嬢様」
と言って、ご機嫌窺いにくるのに。お付きのメイドがいないというのは不便この上ない。なんとかしてメイドを見つけてこなくちゃとは思うけど、私のお小遣いで雇えるメイドなどいるはずもない。これはもうあきらめるしかないのかと、憂鬱な気分になった。私は気分を変えるために買ってきた月刊の少女マンガに手を伸ばした。かわいい絵柄が少しだけ私の気分を和ませた。
そうしてぱらりと最初のページをめくると、何かが落ちた。見ると名刺のようだ。そこにはこんなことが書いてあった。
ちっちゃいメイドさん
専用メイドは要りませんか。お金は必要ありません。下記のメルアドに名前と住所を送るだけです あなたのご利用お待ちしております』
「ちっちゃいメイドさん?」
思わず声に出して読んでしまった。これが会社名なのかしら。
しかし私は思った。お金は必要ないってこれって私にぴったし。しかも専用メイドってことはお付きのメイドってことよね。ちょっと怪しいけど、名前と住所だけでいいっていうし、送ってみるかな。
 私はにんまりするとスマホを取り出し、そのメルアドに私の名前と住所を送った。その後返信のメールが来るのかと思ったのだけれど、これがいくら待っても何もこない。さすがにいらっとすると、スマホをかたづけ、マンガを読むのに没頭した。そうして何事もなく夜を迎え、食事をとり風呂に入り、いつも通りベッドで寝た。

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#創作大賞2023 #漫画原作部門


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