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山形鶴岡漫遊記

                            黄 文葦
 
日本の新幹線の名前は秀逸だ。東京と新潟を結ぶ新幹線の名は「とき311」。この春、蔓延防止対策が解除された初めての週末である3月26日の朝、東京駅で「とき311」に乗って新潟へ。途中停車駅は大宮のみであった。すこぶる快適。
 
20年前、大学の先生と一緒に新潟大学で開催される学会に参加するため、初めて乗った新幹線も新潟行きのものであった。新幹線の中、その先生は、「新潟は田中角栄の故郷なので、早い段階で東京と結ぶ新幹線を走らせました」と語ってくださった。20年前と比べて、今日の新幹線はさらに進化し、東京と新潟と東北の距離をさらに縮めた。
 
目的地は山形県の鶴岡。毎回、旅に出る前に、その観光地のことを調べて置かない。現地に到着したら当地の人に聞き、自分で見ってから旅の構成を決まる。
 
鶴岡に到着した後、駅周辺の観光センターへ行き、一人の若い女性スタッフが駅周辺の歴史名所を教えてくださった。私は中国出身だと知り、一つのかわいい携帯ストラップのプレゼントをくれた。以前、よく外国人観光客に配っていた記念品らしい。「コロナの前に、中国人観光客はよく来てくださいましたが、今はぜんぜん来られないですね。やはり寂しいです」と語ってくれた。「もうちょっとしたら、観光客が戻ってくると思いますよ」と私は前向きに応じた。
 
コロナ以来、緊急事態の隙間に日本国内の一泊の旅をしている。以前より、ホテルと自分の相性に拘るようになった。旅にはホテルが大事な要素だと考える。この前、ネットで鶴岡にある斬新なデザインのホテルを見つけ、無性に体験したくなった。それは庄内平野の中、水田に浮かぶ木造ホテルである。子供の時に田舎に住んでいた当方には、農村ののどかな風景はいつも夢の記憶である。
 
今回一泊泊まったホテルは、SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(スイデンテラス)という世界的な建築家、坂茂氏設計のホテルである。都市の高層ホテルとは違って、ホテルの敷地面積が大きくて、建物はすべて二階造りである。
 
個性的なホテルはイマジネーションを刺激する。スイデンテラスは、まるで畑の中にある空港のように、広い中央のエリアは、旅行者が本を読んだり、話をしたり、飲食をしたりするための共有スペースだ。夜、外から見るホテルは、あたかも3本の長い「滑走路」に張り巡らされ、各客室に光が灯されている。それで、客が同じ「滑走路」にいることで、まるで大勢の人たちと一緒に旅の楽しさを味わう。
 
ホテルの共有スペースに一面の壁が本棚になり、二千冊の本が並んでいる。これは一番贅沢なところだろう。その日、雨が降っていて、まさか晴耕雨読の雰囲気が醸された。このホテルが一番気に入りところはやはり「木の作り」。つまり木造ホテル、木のぬくもりが心地良い。部屋の中でも木の香りが漂っている。一晩過ごしたら、ホテルだけではなく、「家」という感覚が生まれた。日本の木造住宅のしなやかさと強さを再び味わった。東北地方「道の奥」にふさわしいホテル。
 
一泊旅なので、当地のすべての観光スポットを巡るのは無理だろう。なので、いつも一つに絞って堪能する。今回選んだのは世界に誇る夢の水族館だと言われる鶴岡市立加茂水族館、愛称は「クラゲドリーム館」。特徴と言えば、ほかの水族館にはないひらひらきらきらのクラゲの世界が広げている。
 
水族館では、クラゲに興味津々の子どもたちをたくさん見かけた。クラゲの動きを見て、興奮して、時折親に質問をしている。日本の子供たちは水族館が大好きだね。日本は島国であり、幼少期から海の生き物に触れ合い、共に生きていくことを学ぶことが大切だ。
 
クラゲたちの美しい浮遊生活に驚いた。クラゲたちは常に揺れ動きながら生きている。クラゲが生命体であることのすばらしさを初めて感じた。加茂水族館は日本海に面して建つ水族館。水族館を出て穏やかな日本海にも挨拶した。
 
水族館からバスで鶴岡駅に戻り、途中下車して当地の史跡を見学した。鶴ケ岡城跡公園、荘内神社、大宝館、藤沢周平記念館など日本近代化の原風景に出会った。レトロな建物の大宝館の中、鶴岡が生んだ先人たちの偉業をたたえる資料を展示されている。
 
鶴岡生まれの石原莞爾を「軍人で、世界の悠久平和を希求した人」として紹介されていたと聞いた。改めて、歴史と歴史人物にはいろんな側面あると感慨深く感じた。故郷の人にとっての石原莞爾は親しい一面を持つのは当然といえば当然だ。歴史というタイムトンネルの中で、異なる立場の人々が和解の力を必要としている。
 
旅で得た情報と刺激が多すぎて、「山形鶴岡漫遊記」だという題名を付けた。

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