太田 二郎

版画工房フェンリルを主催し、妖精をテーマにした木版画を制作しています。自給的な暮らしを…

太田 二郎

版画工房フェンリルを主催し、妖精をテーマにした木版画を制作しています。自給的な暮らしをしながら、身近な伝承を調べ、国や時代を超えた普遍性を模索する通信を発行。2015年草枕社より「よきお隣りさん」を出版。HP http://kouboufenrir.web.fc2.com

最近の記事

目に見えない同居人との穏やかな暮らし方

 妖精や妖怪などの見えない存在たちは、人間に対して他愛ないいたずらをすることがあります。それにはいったいどんな意味があるのでしょうか? 版画工房フェンリル通信 第104回2020年寒露号(不思議な物音)  唐突に舞い落ちる柿の葉がやけに大きな音を響かせるので、思わず畑の手を止めて振り返ることの多い季節となりました。  近頃はひと昔前と違って、家の中には人間とその家主の飼っている動物くらいしか住んでおらず、それ以外の風変わりなものは同居していないのが当たり前とされているふしが

    • 火を吐くドラゴンが守る財宝。それって宝の持ち腐れでは…?

      西洋のドラゴンといえば薄暗い洞窟で、金銀財宝の守ってとぐろを巻く姿を思い描きますが、彼らはなぜ宝を独り占めしているのでしょうか? 版画工房フェンリル通信 第103回2020年重陽号(宝の持ち腐れ)  ケルト人やチュートン人(ゲルマン人の一部族)の伝承の中には、「ファイアー・ドレイク」と呼ばれる火を吐くドラゴンがおり、隠された財宝を守護していると云います。このドラゴンはイギリス諸島の沼地や湿地帯、または北ヨーロッパの山の洞窟に棲んでいるそうです。ファイアー・ドレイクは翼によっ

      • もしも夜更けに遠出をすれば、歩くヤナギに出遭うだろう…

         樹木には様々な精霊が宿り、または妖精たちが集うという信仰が各地にあります。樹木にまつわる妖精はそれこそたくさんいるようですが、その中でも北欧とドイツに伝わる「ウッド・ワイフ」という妖精についてお伝えします。 版画工房フェンリル通信 第102回 2020年 立秋号<祝い棒の力>  近ごろ「旅とデザート、ときどきおやつ」というタイトルの、異国の旅先での美味しそうな本を読みながら、お茶のひとときを過ごすことがあります。旅先での魅力的なデザートの描写もさることながら、美しいイラス

        • 知られざる七夕伝説~カータリ人形~

           安曇野市だけに見られるカータリ人形という七夕人形があります。このカータリこそ彦星を背負って増水した天の川を渡り、織姫に引き合わせてくれるのです。このカータリとはいったいどのような存在なのでしょうか? 版画工房フェンリル通信 第101回2020年小暑号 (天人女房)  天の川に挟まれて、それぞれの岸辺で別々に暮らす織姫と彦星は、一年に一度七夕の日に逢うことができると云われています。そんな七夕伝説というのは各地に見られ、それぞれに物語の内容も違ってきますが、「天人女房」と題

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          三途の川の岸辺でもの思う時…

           三途の川の岸辺には、死者の衣服をはぎ取る、恐ろしい鬼婆である“奪衣婆(だつえば)”がいるそうです。死んでから初めて出会う存在が、そんなおっかない者だとすれば、死ぬ前からよくよく心づもりしておかなくてはなりません。そこで、境い目を守る彼ら異界者が、我々に何を伝えようとしているのか考えてみましょう。 版画工房フェンリル通信 第100回 2020年 芒種号(エンジュの花が舞う時)  初夏の下諏訪を散策していたら、諏訪大社春宮を流れる小川沿いにエンジュの花が舞っていました。どこか

          三途の川の岸辺でもの思う時…

          心優しき糸紡ぎの妖精に見守られて

           人と人とが離されて、疑ったり対立したり…。こんな時はどうやって人との信頼関係を築いていったらよいのでしょうか。運命を司る糸紡ぎの守護妖精の姿にその秘訣を探ります。 版画工房フェンリル通信 第99回 2020年 立夏号(カッコウの鳴く朝) 今年もカッコウがやって来ました。ここ数年来、我が家周辺では、ほぼ規則正しく5月12日前後に鳴き始めます。カッコウの声に伴って、周囲は新緑の淡い緑から鮮やかな濃い緑へと一変し、すっかり初夏の光で溢れるのです。空の青さを背景に、木々の緑、そし

          心優しき糸紡ぎの妖精に見守られて

          夜道で後をつけてきた怪しい犬に「ありがとよ」と声をかける心の余裕

          版画工房フェンリル通信 第98回 2020年 清明号 夜道に突然現れる不思議な黒い犬というのは人々の根源的な恐怖を具現化するものなのでしょうか。世界には黒妖犬の様々な伝承が残されています。夜道で山犬に後をつけられた時の対処法には、恐怖心とどう向き合っていくかのヒントが隠されているかもしれません。 (疑心暗鬼を生ず)  現在、世界的な規模で我々人間は大きな問題に直面しています。そして解決の道筋が見えない状況に置かれた時に、最も厄介なのが不安や恐怖という心の状態です。必要以上の

          夜道で後をつけてきた怪しい犬に「ありがとよ」と声をかける心の余裕

          植物の精霊が宿る稲束の行方やいかに…

          世界中にみられる植物の精霊の信仰には、どのような意味があるのでしょうか?イングランドの「ジャック・イン・ザ・グリーン」という植物の精霊のお祭りをみてみましょう。 版画工房フェンリル通信 第97回 2020年 啓蟄号(最後の一束) この冬はずいぶんと暖かかったので、いつもなら大地の草がすっかり枯れてしまうところですが、ずっとタンポポなどの草が青いままで残っていました。そのせいか芽吹きの季節がやって来ても、いつもの年よりは新鮮な春の喜びが少ない気がします。それでも今まで生命の動

          植物の精霊が宿る稲束の行方やいかに…

          火を司る精霊サラマンダーの二つの側面

          「サラマンダー」とはどんな動物なのでしょうか?様々な伝承に登場する不思議な火の動物について探っていきます。 版画工房フェンリル通信 第96回 2020年 立春号(火ねずみの皮衣) 「火鼠の皮衣、この国になき物なり。音には聞けども、いまだ見ぬ物なり」 これは日本の代表的な古典「竹取物語」の中に出てくる一文です。竹取の翁が切った竹から生まれたかぐや姫。かぐや姫が美しく成長すると、五人の殿方が結婚を申し込みにやって来ます。けれど、あまり乗り気でないかぐや姫は、殿方たちに結婚の条件

          火を司る精霊サラマンダーの二つの側面

          白い毛がご自慢?のロシアの精霊

          版画工房フェンリル通信 第95回 2020年 小寒号 「嫉妬」とはどんな感情でしょうか?ロシアの精霊「ドヴォロヴォーイ」の伝承から、その複雑な感情を探ってみましょう。 (庭の精霊)                        今回ご紹介する「ドヴォロヴォーイ」は、ロシアに伝わる庭の精霊です。普段は姿が見えませんが、全身白い毛の人間であったり、嫉妬深いハンサムな若い男として現れることもあると云います。人々はこの精霊をなぐさめるために、牝牛の毛と一切れのパン、そして何かキラキ

          白い毛がご自慢?のロシアの精霊

          翼のある妖精馬の背中に乗って…

          「妖精馬」と聞くとさぞや素敵だろうと勝手に想像してしまいますが、意外なことにちょっと怖い伝説が多いのです。彼らの背中に乗るにはどんな覚悟が必要なのでしょうか。 版画工房フェンリル通信 第94回 2019年 冬至号 (有翼の馬)                       この冬は八ヶ岳に降る雪が少ないせいで、山全体がまだまだ白く覆われず、山頂もまた白くなったりならなかったり。それでも向かい合った駒ケ岳の方は、山頂辺りにある雪がいつも白く光っています。そんな駒ケ岳には、“天

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          河童の狛犬を尋ねて

           用事で愛媛県宇和島市へ行きました。道中のあちらこちらには興味深い伝説地がいっぱい。まるで河童に導かれるようにして、不思議な場所を尋ねてきました。 版画工房フェンリル 第93回 2019年 小雪号   ここ富士見町では十二月一日に、河童に蕎麦団子を捧げる“川びたり”という風習がありました。そんな河童にちなむ風習の日に、とある用事のために友人と二人で愛媛県宇和島市まで車で行くこととなったのです。  高速を走り長い恵那トンネルを抜けると、土地の雰囲気が信州とは違ってきます。“

          河童の狛犬を尋ねて

          ロシアの水の精霊の水車の土手を壊す癖。いったい何がしたいのか?

           「死と再生」を表す月の満ち欠け。まさに月の満ち欠けに伴って、年を取ったり若返ったりするという不死の精霊がいます。それはどんな精霊なのでしょうか? 版画工房フェンリル通信 第92回 2019年 霜降号 (二十三夜様)                     旧暦の十月二十三日には二十三夜の月を拝む、“二十三夜様”といった風習があります。ここ富士見町周辺には、あちらこちらに“二十三夜塔”と彫られた石碑が見られますが、二十三夜の月の出を待って拝めば願い事が叶うと云われているの

          ロシアの水の精霊の水車の土手を壊す癖。いったい何がしたいのか?

          ロシアの風呂場は異界へと通ず

           ロシアには「バンニク」という入浴小屋の精霊がいます。このバンニク、将来を占ってくれるといいますが、その方法はどんなものなのでしょうか? 版画工房フェンリル通信 第91回 2019年 秋分号(風呂に入る狐)  ここ富士見町のすぐお隣りの小淵沢には、杉の古木の繁った家があり、その木に多くの狐が棲んでいたと云います。ある年、流行病のためにその家の人たちはひどく苦しみ、易者に見てもらったところ、古木に棲む狐の悪さであることが分かりました。そこで古木を伐って、狐たちを追い出してしま

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          天国から墜ちてきたスラヴの精霊たち

           スラヴ民族に残されている風習は日本とのつながりを間近に感じさせるところがあります。スラヴと日本の伝説はどんな風に似ているのでしょうか? 版画工房フェンリル通信 第90回 2019年 処暑号 (狐の婚礼)                     空が晴れているのに雨が降ったりすれば、昔から“狐の嫁入り”などと云ったものです。そして、夜中に謎の火がいくつも連なる“狐火”が目撃されれば、そんなのも“狐の嫁入り”の行列として考えられてきました。さらに家族の婚礼の日に自分の股の間

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          美しい妖精に魅入られて…

          “妖精の恋人”を意味するリャナンシーは、詩人に霊感を与えるという美しい女の妖精です。そんな妖精とのお付き合いにはどんな危険が潜んでいるのでしょうか? 版画工房フェンリル通信 第89回 2019年 大暑号 (忠五郎のはなし)  小泉八雲の小説の中に「忠五郎のはなし」という物語があります。  江戸の小石川に、旗本の下で仕える忠五郎という足軽がいました。忠五郎は真面目な男でしたが、ある時から急に夜中に外出して朝帰りをするようになったのです。しかも日に日に顔色が青ざめて弱りは

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