【日本語を正しく使いこなせている?】助詞と文章表現の基本を学ぼう(2011年8月号特集)
5時間目:助詞は紛らわしい
「は」と「が」
「は」は副助詞です。ひとつのものを取り出し、他と区別します。
「あの選手はイチローです」
いろいろな選手がいる中で、「あの選手は(誰かというと)イチローです」と言ったわけです。
一方、格助詞の「が」は、ひとつのものを取り出し、他は無視します。
「あの選手がイチローです」
これは、イチローって誰だと話題になり、それに答えて言ったものです。
「が」と「を」
「日本語を書く」は「を+他動詞」です。
「日本語が書く」 とは言いません。「が」を使うのは、「鼻が長い」のように「が+形容詞・形容動詞」のときです。
しかし、「日本語が書ける」と言うことはできますからややこしい。
形容動詞のときも紛らわしい。
「僕は君を好き」
正解のようですが、これは誤りです。
英語の「LIKE」は動詞ですが、日本語の「好き」は形容動詞なのです。です
からこの場合は「が」を使います。「僕は君が好き」が正解です。
「に」と「を」
「水に溶ける」「水を飲む」の「に」と「を」は迷いませんが、
「ボールが窓に直撃した」
「ボールが窓を直撃した」
は、どっちか悩みます。
「窓に直撃した」は、「窓」にウェイトがあります。
「窓を直撃した」は、「直撃した」にウェイトがあります。
「へ」と「に」
これもよく迷います。
「ネットへ投げる」
「ネットに投げる」
「へ」は「移動・方向」。だから、「ネットへ投げる」は、「投げたのはネットのほうだ」という意味になります。
「に」は物事の帰着点です。「ネットに投げる」は、「行きついたところがネットだ」という意味です。
現代文では圧倒的に「に」が多いように思いますが、「に」か「へ」かには地域差もあるようです。
「で」と「に」と「と」
そのほかにも、似たような意味の助詞がいくつかあります。
「庭で穴を掘る」
「庭に穴を掘る」
「で」も「に」も場所を示す助詞ですが、「で」は動作をした、作用が及んだ場所。「どこで? 庭で」です。一方、「庭に」は「何を? 穴を」です。
「親友に会う」
「親友と会う」
「に」のほうは偶然会い、「と」のほうは約束していたのでしょう。
私たちは、親しい人に親愛を込めて文句を言うとき、「○○さんのばか」とは言いますが、「○○さんはばか」とは言いません。
「○○さんはばか」は客観的な事実として「ばか」と言った印象がありますが、「○○さんのばか」は敬意や愛情や友情を含んで「ばか」と言った感じです。私たちは文法的な知識はなくとも、ちゃんと「の」と「は」を使い分けています。文法より、そうした言語感覚が大事です。
6時間目:文章表現基本中の基本
同じ表現を使わない
まずは悪い見本。
「文章を書き始めたとき、文章は難しいと自分の文章を読んで思った」
文章という言葉が三回出てきます。くどいというか、言葉選びがぞんざいというか、練られていないというか。
「初心者のころ、自分が書いたものを読んで、文章は難しいと思った」
重複はいくらでも減らせます。
しかし、「同じ表現を使ってはいけない」と考えると苦しいので、「同じ表現は、近くではなるべく使わない」と理解してください。
「和史はライター志望だ。和史は大学四年生で、来年卒業だ。和史は今、就職活動をしている」
こちらは同じ主語の「和史は」で始まる文章が続いています。
同じ主語であれば文を一つにすることもできるでしょうし、主語の省略も可能です。
「和史はライター志望の大学四年生で、今、就職活動をしている。来年卒業の予定だ」
同じ助詞を続けない
「僕の愛用の黄色の表紙の手帳」
「の」ばかりです。
「読後に瞬時に胸に響いた」
こちらは「に」の三連発。できれば言いまわしを変えたいところ。
同じ意味の接続助詞も、続くと落ち着かない文章になります。
「兄が会いたいと言うから、午後になれば時間がとれるので、そう答えた」
「から」も「ので」も理由を伴う接続助詞です。「○○から」と言われ、その結果が出ないうちにまた「ので」と言われて、問いがダブった感じです。
「外は雨だったが、洋服を買うつもりだったけれど、予算不足だった」
これも同じ。「Aだったが、B」のBがはっきりしないまま次の「Aだったが」が来て、文が着地しないまま終わっています。
「同じ文末」以前の問題
「同じ文末を続けない」という作法はよく耳にします。
「作文を書いた。枚数が多すぎた。文章を削った。規定枚数に収めた」
文末を変えてみましょう。
「作文を書く。枚数が多すぎた。文章を削る。規定枚数に収めた」
よくなっていません。文末の単調さとリズムの単調さは話が別です。
「作文を書いたが、枚数が多すぎた。文章を削って規定枚数に収めた」
まずは文を適切な長さにし、文末を減らすこと。文末を変えるのはそのあとです。
「応募すると、通知が来ると、中を開けてみると、佳作入選だった」
文末に「○○すると、」「○○で、」「○○し、」などをもってくれば、文章は延々と続けられます。これを中止法と言いますが、右記の例文は、中止法の文末がすべて「と」です。なんだか問題を延々と先送りされた感じです。
「応募すると、通知が来た。中を開けてみると、佳作入選だった」
どんな文章も、必ず問いを内包させています。「で?」があります。
「僕は(なんなの?)」
「三日前に(なんかあった?)」
「応募すると(どうなった?)」
「通知が来た(どんな?)」
こうした問いに、答える。打ち上げて、着地させる。これは、知っているようで知らない基本中の基本です。
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※本記事は「公募ガイド2011年8月号」の記事を再掲載したものです。