見出し画像

マシンガン4挺で出来ること ~Suspended 4th『Hey Dude』に込められた暴力~

有能な集団には2種類ある。

1つはハイレベルで均質な能力を持つメンバーが揃っている集団。もう1つは個性の異なるメンバーが自分の持ち場で本領を発揮する集団だ。
前者の典型は軍隊や警察で、後者の典型は殺し屋と泥棒である。

ロックバンドはどちらに属するか?
答えは明らかだ。殺し屋のほうである。
一糸乱れぬダンスで観客を魅了しようとするアイドルグループは、どちらかと言うと軍隊や警察に近い。だから、ほとんどのアイドルグループはユニフォームを着る。

ロックバンドという専門家集団

ちょっと考えてみてほしい。
聞き分けのいい従順な人がギターを買ったりするか? 
「みんなでお揃いがいい」なんて考えの人が曲を書いたりするか?
そんなはずないよね。
個性を発揮したいから楽器を持つんだ。自分を表現したいから曲を書くんだ。それ以外ないだろう。

自己主張の強い人がロックをやるんだよ。バンドを組むのは自分の演奏を聴いてほしいからだ。
ロックは本質的に我欲の塊なのだ。
「我が強くないロック」なんてあり得ない。そんなの肉抜きの牛丼みたいなもんだ。何の味もしないだろう。

ギタリストは目立とうとして一生懸命ギターを練習する。ベーシストもドラマーも、自分の能力を磨きに磨いてアンサンブルに臨むはずだ。
ロックバンドは必然的に個性の強い専門家集団にならざるを得ない。
バンドの演奏ではプレイヤーの主張がむき出しになる。だから聴衆の心を強く動かす。

ミシェルガンエレファントのギタリスト・アベフトシは「ミシェルの曲はすべて最初から最後まで俺のソロ」という名言を吐いている。

このくらいでちょうどいい。
アベフトシは「もし良かったら聴いてください」とは全然思ってない。
こっちの事情にお構いなしに轟音を無理やり聴衆の耳にねじ込むのがアベフトシのスタイル。前のめりに突撃していく姿勢が聴衆を惹きつけるのだ。

すげぇやかましいバンド

さて、「メンバー全員がアベフトシ」っていうすごいバンドがいる。
「Suspended 4th」。通称「サスフォー」である。
このバンドときたら、演奏がやたらめったら「やかましい」のだ。おそらくメンバー全員が「サスフォーの曲は最初から最後まで俺のソロ」だと思っているに違いない。

普通のバンドならこう考える。
「音の隙間があったら俺がフィルインを入れてやろう」
「ここの間合いで裏メロを弾くぞ」と。

サスフォーはそんなこと考えてない。
隙間がないのに無理やり自分の音をブチ込んでくる。
もうこれ以上分厚くしようがないところに音を被せてくる。

情報量がとてつもなく多い。だから「やかましい」のだ。
全員で「俺が俺が」と主張してくる。
なのに演奏は最高にグルーヴィで楽しい。思わず笑けてくる。

彼らの演奏は「全員が怒鳴り合ってるのに会話が成立している会議」のようなものだ。コメディ的でさえある。ベースの福田裕務は自分の演奏の解説動画でこう言っていた。
「ここ、笑うとこっすよ」
スラップベースで超早いビートを刻んでいるのである。そこが「笑うところ」らしい。

サスフォーの演奏は攻撃的だ。互いに挑発しあって高まっていくような音楽。まるでマシンガンで互いを撃ち合っているようなものだ。しかもその戦闘を楽しんでいる。
4人がマシンガンを構えてドカドカ撃ってるんだよ。ゲラゲラ笑いながら。
「俺の演奏を聴けよ」
「いいから聴けよ」
「聴かないと撃つぞ」
「聴いても撃つけどな」
そう言いながら爆笑している。それがSuspended 4thの音楽だ。

どんどん撃ったらいい。笑えばいいと思うよ。

ポップな新曲『Hey Dude』

サスフォーは2022年1月、新曲『Hey Dude』を発表した。
相変わらず「やかましい」ヤツらである。

マンガやアニメに良く登場する頭のおかしい人で、目が完全にキマっちゃって「ヒャッハー」とか嬉しそうに叫びながら満面の笑みでドッカンドッカン撃ちまくるってのが出てくるよね。あれにすごく似てる。

今回の曲は、やかましいだけでなくキッチリとポップな楽曲になっていて素晴らしい仕上がりだ。ボーカルが前に出てくるようになってメロディもくっきりとしたラインを描いている。

マシンガンをガンガン撃ってくる快感はそのままに、シングルらしいキャッチーな感じがあるのだ。楽曲としての完成度も高い。
この曲の最高なのは、イントロからのAメロの次に「もう1回イントロが入ってしまう」ところだ。狂ってる。嬉しそうにマシンガンぶっぱなしてくれるんだよ。最高に笑えるからぜひ聴いてほしい。

マシンガン4挺で暴力性の高いポップスを演奏する。それがSuspend 4thというバンドだ。

映像からもサスフォーのギャグセンスが感じられて好ましい。マジメにふざけてる。
この4人はファッションも完全にバラバラで統一性が全然ない。個性派の集団なのだ。ユニフォームが徹底的に似合わない人たちである。
すべてのバンド好き・ロック好きにおすすめしたい。
(ちなみに、サスフォーの「歌わない方」のギタリスト・澤田誠也はアベフトシを尊敬しているそうだ。)

アニメの犯罪者集団といえばルパン一味。
ルパン三世・次元大介・石川五エ門・峰不二子。
ブラックラグーンのラグーン商会はレヴィとロック、ダッチ、ベニー。
良く見てくれ、サスフォーも同じなんだ。
何が同じかって?

4人編成ってところだ。偶然の一致じゃない。

犯罪者集団は4人組がふさわしいのである。

#2022年を予想する

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?