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三姉妹の法則 ~milet×Aimer×幾田りら『おもかげ』~

アニメでは「三姉妹は正義」に決まってる。アニメ好きなら全員知ってる。

『みなみけ』の三姉妹。『ゆるゆり』の大室家三姉妹。可愛らしく楽しい姉妹たち。三人の個性はバラバラで、それぞれに役割が分担されるのが基本のフォーマット。というより、三人いるから個性が際立つと言ったほうが正しいんだろうと思う。
長女は気持ちの落ち着いた包容力のある子。
次女はにぎやかで楽しい子。
三女は可愛い。
こういうルールで出来ている。

三姉妹のいるところは幸福感に満ちている。嫌な目にあう人もいないし、哀しいことも起こらない。
三姉妹が出てくるアニメはすべて日常の幸福を描いた作品だ。例外はない。だから、いつも安心して観ることができる。

2021年も終わろうとするとき、邦楽で素晴らしいコラボ企画が実現した。milet×Aimer×幾田りら『 おもかげ』。めっちゃ豪華だ。ウキウキしながら待って配信日にさっそく聴いた。期待を遥かに上回る楽曲だった。

三人のコーラスによるリフレインがイントロ代わりになっている。ギターのカッティングが心地よい。
グルーブ感が満載のベース。メロディーラインを中心に三人の歌声が交わり重なっていく。Aimerの低音ボーカルが心に染み渡って、miletのハスキーな声も楽しい。歌詞もしっかり伝わる。

僕らはこうして
どこにも
見せない愛で満たしてる
本当

三人が初めて歌声を合わせるサビの部分で、ピッチが一気に上がる。今までのメロディーを助走にして高く舞い上がるような快感。飛行機が滑走路を走って離陸するときの高揚感に似ていて、思わず笑いがこぼれる。
高らかに歌い上げられるサビの部分には「思いやりと愛を持って過ごそう」というメッセージが含まれている。
2019年末から世界はすっかり変わってしまった。進む道も分からない不安のなかで過ごす毎日。この曲は「見えないかもしれないけど愛は確かにある」と歌っている。力強い励ましだと思った。

このコラボはYoutubeの「First Take」の企画だ。当然のことながら一発録りのパフォーマンスが撮影される。
がらんとした空間に三本のマイクが立てられて、そこに三人の歌手がやってくる。会話もなく、ちょとリズムを取ったかと思ったらいきなり歌い始める。
この映像を見て驚かなかった人はいないだろう。

誰もがこう思った。

「何この素敵な三姉妹」

歌いながらときどき目線を交わして微笑む。互いの個性を尊重しながら自分らしさも出していく。単に微笑ましいんじゃなくて、もっと深いところで響き合っているように思った。
競合とか衝突とは無縁のハーモニー。あまりに見事に融合するんで、長年一緒に練習してきたんじゃないかと勘違いするほどだった。ネットでも「三姉妹感がすごい」と言われている。もしかして「狙った」のかもしれない。

多くの人は、真ん中のAimerが「しっかりもののお姉ちゃん」に見えただろうし、左に位置するmiletは「にぎやかで活発な次女」に見えただろう。右の幾田りらは「可愛い末っ子」。コメント欄にも同じような書き込みを数多く見つけることができる。

いったんそう思っちゃうとサムネ画像がもう三人姉妹にしか見えない。左が次女で真ん中が長女で右が三女。自己暗示もはなはだしいと思うが仕方ない。

ところで、「アニメの三姉妹」で忘れてはならない人たちがいる。『3月のライオン』に登場する川村家三姉妹。名作なので知ってる人も多いと思う。

主人公の桐山零は15歳でプロ棋士になる。零は自分の望まない形で一方的に孤独な環境に置かれてしまう。周囲は敵ばかり。他人と深く関わることを避けてきた零は、ふとしたきっかけで川村家に出入りして夕食をともにする仲となる。面倒見の良い長女のあかり、活発な次女のひなた、甘えん坊の末っ子モモ。夕食はいつも温かく、みんなで囲む食卓は賑やかだ。
三姉妹との交流を経て、零は心の平安を取り戻していく。そういうストーリーである。

これは僕たちとPVの三人との関係にとても良く似ている。

今、僕たちは自分の望まない形で孤独に追いやられている。他人との接触は最低限にせばめられ、寂しい気持ちになることも多い。
『おもかげ』のPVはそんな僕たちにとって「川村家の夕食」のような存在だ。笑顔になれる。うつむきがちな心を前向きにしてくれる。

落ち込んだときに、ツラい気持ちになったときに、三姉妹はいつでも笑顔をくれる。心に癒やしと安らぎを与えてくれる。そして嫌なことをちょっとだけ忘れることができる。

3月のライオンの名シーンのひとつに、零が高校の先生に説教される場面がある。
「一人じゃどうにもならなくなったら誰かに頼れ」
そう言われた零の頭に真っ先に浮かんできたのは川村家三姉妹の姿だった。

僕たちも一緒だ。
なんか嫌なことがあったらPVの素敵な三姉妹を思い出したらいい。
どうにもならなくなったら、このPVで平穏な気持ちを取り戻そう。

辛くなったら、苦しくなったら、いつでも還ってこよう。この場所に何度でも。
川村家を訪れる桐山零みたいに。思い込みで結構だ。自己暗示上等。

三姉妹がいるところは必ず幸福感に満ちているんだから。
そして少しだけ笑おう。その分だけ世界は平和になるに違いない。

P.S.
余談だけど、PVの三人の並びは「アニメの三姉妹の並び順ルール」にも沿っている。こちらから見て左が次女、真ん中が長女、右が末っ子というのが鉄則なのである。その証拠にこちらをご覧ください。


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