思い出のその先には、それぞれの人生を。
インスタントのコーヒーを入れて、ふぅ、とソファに腰を下ろす。
連日の自粛に暇を弄びながら、昼間に思いつきで部屋の模様替えをした。なんだか少し、気分が良い。そうだ、とSNSの断捨離にとリストを作ってフォローを減らし、見慣れない怪しいフォロワーはブロックした。
ついでにLINEの整理もするか。
全てはただの気まぐれで、ただの思いつきだった。
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トークルームを遡ると、3年も4年も連絡を取っていない人がたくさんいた。そんなに経っているとは思いもせず、時間の流れは早いものだと苦笑いしながらマグカップに口をつける。
この子久しぶりだなぁ元気にしてるかな?
え、そんなに連絡取ってなかったっけ!?
あ〜この企画結局進まなかったな。
あ、これはこの話してた時か。懐かし〜!
あれ?これ誰だっけ...?
あ、アイコン変わってる.........
息を飲んでクリックすると、最後にやり取りをしたのは2018/6/8。
彼の誕生日だった。
もう2年近くも連絡を取っていなかったのか。お別れをしてから数年、変わらずクリスマスにもバレンタインにもなにかとマメに連絡をくれていた彼から連絡が来なくなった事に、私は気付いていたのかいなかったのか。
一緒に過ごした時間はそう長くはない。
けれど、濃く駆け抜けた時間が確かにそこにあった。
いけない時間を共有した共犯者。
いろんな世界をみせてくれた人。
甘いだけの思い出なんかではないけれど。
思い出すのは、いつだって笑ってて、嘘をつく時さえ、笑顔を貼り付けていて。気付いていた嘘も、その笑顔に何も言えなくて。
そんな彼が、小さな丸の中、本当に幸せそうに笑ってる。
前の奥さんと少し似た、勝気そうな美人。
と、まだふやふやとした小さな命と。
私が彼といた頃には存在しなかった、小さな命と。
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あぁ、そんなにも時間が経っていたのか。
離婚するって言ってたあの日から、いつの間にか進んでちゃんと幸せを見つけていたのだな。めでたいやら寂しいやら、マーブル模様の心境に戸惑いながら、そっと画面を閉じた。
きっと、こんな時じゃなかったら見返しもしなかっただろう。ずっと前の小さなおしゃべりなんて。わざわざ今どうしているかなんて調べる関係でもない。たまたま偶然見かけただけの事なのに、不思議とそわそわしている。
先に手を離したのは私で、未練なんかまるでない筈なのに、なんとも勝手なものだ。
ぬるくなったコーヒーをぐいっと一気に飲み干して、唇の端から溢れたコーヒーをぬぐい、キッチンに向かってもう一度お湯を沸かした。相変わらずのインスタントだけれど、ぬるいコーヒーのままでは心は混ざらない。
再び温まったお湯を静かにカップに注ぐ。
今度はさっきよりも、少し甘いコーヒーを。
サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。