「委託」の意味

「業務委託」という言葉にあるように、「委託」という言葉を何気なく使っていますが、「委託」とはどのような行為で、法的・実務的にはどのような意味を持つのでしょうか。

法令上の「委託」

「一定の行為を他人に依頼すること。・・・行政法上は、行政事務を本来の主体が他の主体に委ね、管理執行させることをいう(地方自治法第252条の14~252条の16)。
(「法律学小辞典 第5版」から引用)

法律行為の委託(民法第643条)
法律行為でない事務の委託(民法656条)

下請法における「委託」
「製造委託における『委託』とは,事業者が他の事業者に対し,給付に係る仕様,内容等を指定して物品等(物品,その半製品,部品,附属品,原材料及びこれらの製造に用いる金型)の製造(加工を含む。)を依頼することをいう。
つまり,事業者が他の事業者に対し,物品等の規格・品質・性能・形状・デザイン・ブランドなどを指定して製造(加工を含む。)を依頼することをいう。そのため,規格品・標準品を購入することは,原則として「委託」に該当しないが,規格品・標準品であっても,その一部でも自社向けの加工等をさせる場合には該当する。
また,製造設備を持たない事業者であっても,物品等について仕様,内容等を指定して他の事業者に製造を依頼する場合には「委託」に該当する。例えば,商社,製造問屋と呼ばれる卸売業者,大規模小売業者(百貨店,スーパー,ホームセンター,専門量販店,ドラッグストア,コンビニエンスストア本部,通信販売業等),フランチャイザー等が自社のプライベートブランド商品の製造を依頼することも該当する。
なお,『委託』の内容を満たす限り,請負であるか売買であるかといった契約上の形態は問わない。 」(令和2年11月版「下請取引適正化推進講習会テキスト」から引用)

実務上の「委託」

金融商品取引法における「委託金融商品取引業者」
証券会社などの金融商品を取り扱っている者へ、銀行などの金融商品仲介業務を行う者が注文を取り次ぐ場合における、取次先の金融商品取引業者。

保証委託
賃貸契約などで、賃借人の賃料の支払いを、保証会社が連帯保証(賃借人が払えないときは保証会社が代わって払う)することで、賃借人・保証会社は保証契約、保証委託契約などを結びます。クレジット会社のようなもので、保証会社の支払い能力の信用を借りているとも言えます。
※保証の対価として通常は数万円の保証委託料を支払いますが、保険と同じように少額の拠出金を集めて万が一のリスクへ支払われる仕組みです。
※住宅の賃貸契約では賃料以外の水道電気ガス代、退去費用、違約金なども保証することが一般的ですが、補償額の上限(極度額)を設けます。

ちょっと変化球

授権
「自己の名で法律行為をし、その効果を本人に直接帰属させる(他人効を発生させる)制度をいう。
▶授権のなかでも、AとBが合意し、AがBに対し、Bの名でAに帰属する権利を処分する権限を与えたような場合(委託販売が、この例である)のことを、処分授権という。この場合において、Bがこの権限(処分権限)に基づいて当該権利を第三者(C)に処分する法律行為をしたとき、当該権利は、AからCに直接移転する(BがAからの委託を受けてAの所有する物品をCに売却したとき、この物品の所有権は、AからCに直接移転する)。」
(潮見佳男「民法(全)初版」から引用)

委任契約では法律行為の委託を行いますが、代理権の授与を伴う場合とそうでない場合があります。

代理権あり:
弁護士への訴訟弁護委任、組合における代理権など、その行為の結果(法律効果)がそのまま本人に帰属する。

代理権なし:商法の問屋営業・仲買人など、本人のために行為するが、その法律効果は行為者に帰属し、そのうえで取得した効果を本人に移転する(間接代理)。法律的には代理とはいえない。

似たような概念として法人の「代表」がありますが、本人と代理人は別個の地位(法的な人格)があることと違って代表者には法人と別個の地位がありません。つまり代表者の行為はイコール法人の行為となります。
「法人」は「本来人間(自然人)しか法律効果が及ばないところを、法が特別に人間と同等にみなした存在」であるので、法的には法人それ自体が1人の人間と同等になります。取締役を会社法的には「機関」といい、人間的な役割とは捉えないのはここに由来するように思います(1人の人間の中に多重人格は認める必要がない)。

信託法
信託者、受託者、受益者の三者が登場します。ただし信託者が受益者を兼ねることもあります。英語ではトラストといいます。
信託者が財産を受託者に託し、そこから得られる利益を受益者に渡します。
預けるものが現金の場合の銀行預金とは異なり、財産価値があるものならば何でも対象にできます。また預金は元本保証されたうえで定率の利息を受け取りますが、信託は元本を含め変動する運用損益を受け取ります。
投資信託など原理は現代でも広く用いられていますが、信託業法や投資信託及び投資法人に関する法律によって細かく規制があります。
グリム童話の「シンデレラ」は魔法使いではなくシンデレラの母親が知人に財産を預け、知人がそれを運用して得たお金でドレスなどを渡すストーリー(版によってはハシバミの気に住み着いた鳥から落とされる)ですが、信託と捉えることができます。
破産法上は受託者自身の財産と信託財産が切り離されており、各自が独立に破産手続きが行えるのが特徴的です。



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