丸投げを嘆く前にできそうなこと

丸投げとは

事業部からの相談やチェック依頼はしばしば「丸投げ」でやってくることがある。
相手方からのメールや契約書がそのまま転送されてくるようなケースである。添えられている内容は、「〇〇から契約書が来ました。ご確認お願いします。」程度で、酷いときには「ご対応よろしくお願いします」のみである(無言転送はまだ経験したことはない)。

これに対し受け取った側は「丸投げだ!」と憤るわけであるが、なぜ丸投げに憤るのか、なぜこのようなことが起こりがちか、改善していく方法はあるのか、について書いてみたい。

なぜ丸投げに憤るのか

丸投げられた側からすると、業務範囲のマターならばチェックや対応はするのだが、およそ以下のような点がわからず、「こちらで汲み取る」手間が発生する、しかもそれが正しいかわからないので仮説ベースであり、労力に見合わないという徒労感に憤りを感じると考えられる。

何をすればいいのかが読み取れない

契約書ならば修正を入れればいいのか、修正が不可でリスク指摘だけでいいのか、そもそも対象の契約自体が適切かどうかの判定をすればいいのか、などアクションが定まらないことがある。

どのような対応・回答が適切か読み取れない

契約書の修正ならば、どの程度強気の修正が許されるか、取引内容のポイントを踏まえてどの条項に重点を置くのか、などが定まらない。
相手からの質問に対する回答作成ならば、それまで現場ではどのような問題が発生していて、すでに行っている受け答えを踏まえないと要点や答えるべき点が定まらない。

いつまでにやればいいのかが読み取れない

複数タスクを並行処理しているので、優先順位の入れ替えが必要かどうかは期限次第である。

そもそも業務範囲のことかがわからない

複数の質問やファイルがまとめて転送されると、営業マター、法務マター、他部署マターなどが混在していることがある。自部署がどれに対して対応すればいいのかわからないことがあり、「これだろう」と思っていると認識相違で誰も対応しないものが出てくることがある。

どういう程度の内容だと丸投げと感じないか

契約書を例にとると、契約書ファイルに追加で事業部の側で、以下のような背景情報が添えられていると、おそらく「真の丸投げ」とは感じないだろう。
【背景情報の例】
 相手方の社名
 関係性(営業提案段階、当社側が売り手、など)
 取引内容(商材など)

とはいえ、システム保守の契約なのに、契約書の中身を見てみると明らかに売買契約であったり、案件名や金額が違っていたりすると、「中身くらいみてくれ」と思うだろう。

ということは、以下が押さえられていれば、丸投げ感は回避できそうであろう。

  • 相手方

  • 自社との関係性(立場、力関係、過去の取引実績etc)

  • 今後やりたいこと(積極的に取引拡大、今回限りetc)

  • 今回やりたいこと(取引検討のための情報交換、商材の販売etc)

  • 契約書を誰が用意したか(相手か、こちらの担当者か)

  • 質問の背景:どういう流れでその質問が出たか、誰が何を心配しているか

  • 案件名、対象商材、金額、納期・期間は確認済みであること

なぜ丸投げが発生するのか

原因を分解すると、以下である。

本人自身が今の状況、何をすればいいのかを理解できていない

これは更に分解すると、経験不足に起因するもの(新人や社歴の浅い中途社員)、その人自身が丸投げされているもの(担当者や上司から事務処理的に丸投げされているもの)に分けられる。

質問内容、契約書が難しい

慣れていないものは、頑張って読もうにも読み解けない。例えば法務が、技術仕様書を読めと言われたら、どうであろうか。
日本語で書いてあるじゃないかと思うかもしれないが、例えば「損害」「瑕疵、契約不適合」「補償、保証」「知的財産権の侵害」「著作権、特許権が生じる場合」の意味を、具体的に挙げられるだろうか。
英文になったらさらに絶望的である。
社内規程も、全部を理解している人はいないし、矛盾や現状の運用との齟齬がある場合もあるため、意図が読み取れない場合もある。

丸投げられた部署の守備範囲が不明確

法務は何に関する質問は受け付けてくれるか、コンプライアンスに関する質問はどこにすればいいか、複数の部署にまたがる場合はどこに聞けばいいか、などは組織によって異なるので、発信されていないならばわからない。

依頼にあたっての必要情報が不明確

契約書のチェックをしてほしいならば、どのような事項がチェックにあたって必要かも発信されていないならばわからない。

回答が結論しか伝えられてこなかったため、過程や理由がわからず応用ができない

「この前もあったのに」や「この前と違うのに」と思うような依頼があることがあるが、その前提として似たようなケースを過去にやりとりしており、その際になぜその結論に至ったかの理由が示されていなかった(「問題ありません」や「〇〇してください」しか返していない、など)ため、「案件と対応」のみを学習していることがある。

そもそも自分事として対応する気がない

論外である。
なお、その人の業務が逼迫していてリソースが割けない場合も、外面上はこのように映ることもある。

改善していく方法はあるのか

上記の問題分析をもとにしていくと、以下の方法が考えられる。

  • 受け付ける対応範囲を明確にする。

  • 依頼類型ごとに必要情報を明確にする。フォームを作る。

  • 典型案件の類型、注意点を「現場の言葉で」まとめる。

  • 繰り返しある対応は簡単にでも理由を添える。

  • 【発展】前捌きで簡単なチャットボットやQAシステムを用意する。

  • 【発展】前捌きがうまい現場の人を味方につけておく。

受け付ける入口(メール、チャット、フォーム、専用システム)を絞ることが可能ならばした方がいい

多くの場合はメールやチャットで受け付けていると思うが、ツールごとにコミュニケーションのトーンやルール、求められるレスポンス速度はばらつきがあるから、複数のツールから同時に受け付けると、例えばチャットできたものは優先的に応答するが、メールは後回しにされる、ということが起こり得る。

現場のさじ加減による運用は100%失敗する

またメールは依頼だけでなく、お知らせやメルマガなど様々ものを受信するので、仕分けルールをきちんと作らないと混在してしまう。
なお仕分けルールとして「依頼には件名に必ず『〇〇』とつけてください」のような運用方法は100%失敗する。

フォームやシステムも、そこから依頼せず楽なメールで依頼するような同様の問題は起こる。

事業部の普段の業務導線を把握し、どのように連携するかの設計をする必要があるが、結局のところは多くの人が「外部とはメール、内部ではチャット」を使っているであろうから、これと接続しやすい(同じツール内で依頼や転記ができる)方法を前提に考えるほうが良い。

簡易マニュアルを作る際は読者の言葉を使う

契約書類で最低限チェックをしてほしい場合や、相手からの質問や要求に紛れる危険ワードを察知してもらうためにマニュアル化は考えられる(ただし周知や研修とセットである)。

この際、例えば「契約書中に当社に過度な責任を負わせるような文言がある場合は法務へ相談ください」のような書き方はNGである。
「過度とは?責任とは?(文言とは?)」と具体的なことがわからず、機能しない。

例えば以下のようにする。
「契約書中や打ち合わせ中の相手の発言に、以下のようなものがあった場合は法務へ相談ください。
・納品後1年以上経っても、無料で修正や返品、返金を求められるような記載や発言。
・不具合によってお客様に生じた対応費用や、事業中断期間の売上の全額補償をしなければいけないような記載や発言。契約書には「損害」「賠償」「補償」として以下のような記載がされているケースがあります。(例:・・・)」

「本人自身が今の状況、何をすればいいのかを理解できていない」あるいは「そもそも自分事として対応する気がない」場合はできる人へボールを渡す

一番厄介な問題は「本人自身が今の状況、何をすればいいのかを理解できていない」あるいは「そもそも自分事として対応する気がない」パターンである。

状況を理解できていない場合は、理解できている上司や別の担当者に、「状況がわからず、何をすべきかがわからないのですがフォローお願いできますでしょうか。〇〇をすればよろしいのでしょうか?」と投げ返すべきである。
言葉遣いを丁寧にすることと、ボールを特定の人に直接渡すことがポイントである。よくわかっていない人をハブに伝言ゲームすることはやめるべきである。

自分事として対応する気がない場合も、同様に上司や別の担当者に投げ返すべきであるが、往々にして引き取ってくれないことが多い(引き取ることができるならばその人をアサインしていない)。
線引きはしつつ、Yes/Noで回答できるヒアリングをしながら具体的なアクションを指示していく。
ここで、「こちらが指示・判断した」とは極力言わないようにしたがるだろうが、こういった人物は自分で判断せず他人に判断を求めるため、現場の判断者に代理のような形で判断を仰ぐか、諦めて軽微なものならば自ら判断するのだと割り切った方がよい。
なおこれが行き過ぎると「相手と直接やり取りして下さい」となりかねないため、現場の判断者を絡めないコミュニケーションは絶対に回避しなければならない。

NGな対応

丸投げされたと感じるときに、憤りに任せて以下のような対応をすると何も解決せず、お互いの印象が悪くなるため、やめるべきである。

  • 「中身は確認しましたか?」とのみ返す
    確認したかの問いかけはしてもいいが、何かしらの追加情報を付けて返すべきである。例えば、過去別の部署で似たようなケースがあったときの対応、契約書中の危険ワードや、外部参照されている文書の指摘などを添えてあげれば、多少の前進がある。

  • 「判断できません」
    なぜ判断できないか、誰なら判断できそうかを添えるべきである。

  • 「どちらでもよいのでお任せします」
    判断の基準やヒントを求めているならば、このような返しは結局ノーヒントで判断をせよと言っているに等しい場合がある。
    「〇〇ならば〇〇が考えられますが、今回そのような事態が考えにくいならばリスク受容して進めてもよいかと思います。ほかは気になるところはございませんでした。」程度は添えてあげるべきである。

  • 「いつも〇〇ですが」のような余計な一言
    心の中で思っていても、マナーとして言ってはいけない。
    また心の中で思い続けていると、いつか口に出してしまう。依頼は一期一会、忘れる努力も必要である。

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