【超短編】雪解け
この地域には滅多に雪が降らない。降ったとしても積もることなどほとんどない。道路の脇に薄汚れた白とも茶色ともつかない塊が転がる程度だ。
だから私は雪解けを知らない。見たことがない。だけど、きっとこういうことなのだろう。そう思った。
長い冬の終わりを告げる雪解け。
春の喜びに心躍る雪解け。
命の水をもたらす雪解け。
二人の心を固く閉ざすように降り続けた雪がようやく止んだ。
溶けるが先か溶かすが先か。真っ白な雪は無色透明に変わり、緩やかに大地を潤す。
まだ、冷たい。だけど春はすぐそこだ。冷たいはずの雪解け水が頬を伝うと、不思議と胸がポカポカと温かくなった。
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