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[詩]「夢が行き着く場所」

三億年前にアンモナイトが見た青い夢は
地下深くの石炭紀の地層の中に
三葉虫の嘆きと共に封じ込められているが
時々夢の中で更に夢を見て 過去や未来をあてどなく浮遊する
 
彼が動き回っていた頃の海水の酸素含有量
太陽光の波長 空と海の青の彩度
そして 海中からは錯覚かと見紛う微かな星の光 またその配置
時が移れば全てが微妙にずれていくため
行った先々で違和なる夢は途方に暮れるはずだが
周囲をフィルターにかけて補正し
異世界で独りよがりの物語を強引に展開するため問題は起きない
 
三億年の時を経て
さっき潮騒の浜辺を漂っていたのは彼の夢の中の夢ではなかったか
しかし 浮遊する夢は誰かに見つけられることなど望んでいない
夢は ただそっとして置いてほしいのだ
未だ波間に彷徨い続ける輪郭のないその夢を
私は見なかったことにして 気付かれぬようにそっと立ち去った
 
そんな私は ようやく眠った夜の底で
乾いた砂で堅固な城壁を造らされる夢を見る
また 大して親しくもなかった人の亡霊に追い回される夢を見る
更には もう会うことのない貴方と二人で旅をしている夢を見る
 
夢の続きと やがて来る夢の剥離
きっと夢達の上には土砂が堆積し分厚い地層が形成されるのだろう
そして 夢は誰にも邪魔されぬように
土くれの粒子の裏側に固着し沈黙し内省することだろう
夢の中で更に夢を見るというエラーを時折起こしてはしまうが

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