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[詩]「スクラップブック」

君を迎えに行く日の クリームたっぷりのフルーツケーキ
空と海を分ける水平線と バニラ味のシェイク
幸せな二人の午後に ちょっぴり苦いホットコーヒー

助手席の君は眠っている
車内に流れるマライア・キャリーの曲
デビュー間もない頃の歌声だ

初夏の海風が吹き上がる丘の上で 僕たちは抱擁し合った
冬の夜には 毛布にくるまって君を抱きながら眠った
また 秋が駆け去ろうとする季節には
君に大きなぬいぐるみをプレゼントした
今となっては あげたぬいぐるみが
何のキャラクターだったのかさえ思い出せないが

だめだ 思い出してはいけないんだった
そんなことしたら それらのページに数値を与えてしまう

時間の座標値を失った いやそのデータを削除した
スクラップブックの変色した各ページは順不同に重なっている

いつだったのか
その前なのか 後なのか
明らかでないというのが 誰にとっても好ましいことなのだ
定かでないことは いずれ無かったことになるはずだから

ところで 時制から遊離した一人ぼっちの夜に
空の向こう側から タイムスタンプのない空メールが一通届いた

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