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♯25 子育てを支えてくれた一言

今年、末っ子が社会人になった。3人の子供を育てる過程で、行政はもちろん、いろいろな方に支えていただいた。我が家は双子だったこともあり、ほんとうにいろんな方に助けてもらい、手を貸していただいて、今日があるのだ。ありがたいしかない。

たくさんの言葉をもらった子育て中

子育て中、さまざまな人から言葉をかけてもらった。いい気分になる言葉、力になる言葉、うっかり舞い上がりそうになるほどうれしい言葉。こういう言葉をもらい続けることができたからこそ、「経験したことがない大変」とか「考えもしなかった大変」を乗り越えてこられたと思う。

もちろん、気分を損なう言葉も、傷つく言葉もあった。思い出すと新鮮に怒りが込み上げる言葉もある。相手の指摘が正論だったから、余計に心に刺さって覚えているのだ。

でも、そういうことがあったから、気分転換とか気持ちの切り替えが抜群に速くなった。この経験がなかったら、私はいまだに毎秒超ネガティブ、常に自分大嫌い人間だっただろう。相手に感謝の気持ちはわかないけれど(笑)、相手を恨む気持ちとかはまったくない。苦い思いはしたけれど、確かに得たことがある。

そんななかで、もっとも心に残っている言葉がある。

受験間近なのに退塾になった!

こともあろうに、高校受験間近で子供が退塾になってしまったのだ。併願校に合格したあとすぐに塾長から連絡があり、「素行が悪いので退塾させた」と告げられた。「退塾させる」じゃなくて「退塾させた」だったのが、塾長のお怒りの深さを感じて、私は居ても立っても居られない気持ちになった。よほどのご迷惑をかけたことがわかったからだ。

退塾になったのは、中学でがっつり挫折を味わったノリ(仮名)。この頃のノリは捻くれていて、静かに静かに大人に逆らっているような感じ。全面的に大人を拒否しているのに、その怒りを出すことはない。ノリの心が見えないと思っていた矢先のことだった。


謝罪の場で塾長がおっしゃったこと

退塾の電話をいただいて、もちろんその場で平謝りだったのだが、日を改めてお詫びにうかがった。ノリを連れて行くか迷ったが、ノリがいるとできない話もあるかと思ったので、私ひとりで塾に伺った。塾長がそれに賛同してくださったのが、ありがたかった。

着席し、時間をとっていただいたことと、非礼をお詫びしたところ、「お母さんが謝る必要はないですよ」と塾長。そこから、なぜ親に相談せず退塾という判断に至ったかを説明してくださった。

一通り説明を聞いたあと、私はホッとしたこともあって、つい言ってしまったのだ。

「ノリは中学に入ってから急に難しくなって、どう接すればいいか迷ってばかりなので、見逃すことも多くて。ほんとうに申し訳ありません」

そしたら塾長は静かに私を見て、こうおっしゃった。

「私からすると、ノリさんの素行が悪いのは成長の証のように思いますよ。退塾させておいて言うことではないですが、葛藤し、悶々とするのが思春期ですからね」

驚く私に、塾長は笑いかけてくださった。長い間、高校教師をされていた方なので、めちゃくちゃ説得力がある、と私はどこかホッとしたのを覚えている。

塾長の言葉の真意は

続けて、塾長はこんな話をしてくださった。

「子供は、幼稚園に入る前あたりから、常に”評価”のなかで生きることになります。幼稚園であれば、かけっこが速い、折り紙を上手に折れる、みんなと同じ行動ができるなどでしょう。小学校に入ると勉強とか運動、大学だと大学名、社会に出ると会社名や仕事ができるできないなどですかね。評価はすべて他人がするので、他人の目を意識しながら生きることになります」

「私は長い間、教師をしてきましたが、常に残念だと思っていたことがあります。それは、保護者まで子供を”評価”してしまうこと。成績や運動、大学名で子供を見ているのです」

「これからノリさんは、さらにジャッジされる世界で生きることになります。だからこそ、お母さんにお願いしたい。どうか、親だけはジャッジしないでください。子供というのは本来、生きているだけで喜ばれる存在であるはず。朝、元気に目が覚めて、夜、健やかに眠ることができれば、上出来なのです。ノリさんが赤ん坊だったころ、お母さんはノリさんが起きただけで喜んだでしょう。そんなふうに思ってくれる人がいると知ったら、それだけで人は生きていけます。だから今夜、ノリさんを嗜めるのではなく、ノリさんが生きていることを喜んでいると、それを伝えてください。今のノリさんに必要なのは、それだと思います」

驚き、しかなかった。親の躾が悪いとか、愛情不足とか、そういう言葉が飛んでくると思っていたのに、違ったから。塾長が私を責めたように読めるかもしれないが、それは違う。責めるようなニュアンスは少しも感じなかった。それよりも「今ならまだ間に合う」と懸命に伝えてくれたのではないかーーそんなふうに思ったし、今振り返ってもそう思う。

塾長の言葉が、子育ての原点になった

思えば、これが我が家の子育ての大きな転機だった。このことがあって、夫と私の意識がガラリと変わったのだ。この塾長の言葉は、ずっと私を支えてくれた。子供たちといろいろあっても、常にここに戻ればいいと思う「子育ての原点」のような存在になり、私の気持ちを楽にさせてくれた。

というわけで、子育てのことも少しずつ綴っていきたい。子供たちからもらった言葉、他の人からもらった言葉のストックがかなりある。よろしければおつきあいくださいませ。






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