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岩田靖夫という哲学者について、ギリシア哲学修士が語る

岩田靖夫先生は私たちアマチュアが、ギリシア思想を学ぶうえでの最良の学者です。今回は岩田先生の著作案内・ブックガイドも兼ねてご紹介します。


先日、『アリストテレスの政治思想』をプレゼントしていただきました。
本当にありがとうございます!

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「あー、タイに住んでるとAmazonないし、誰か本プレゼントしてくれないかなー」

ってことで欲しいものリストをダメもとで公開していたら、本当にくれる方がいました(泣)


メッセージ付きでした。(以下、大まかな内容)

「私は哲学のことはよくわかりませんが、動画など楽しく視聴しています。これからも応援しています。」


もうね、この岩田靖夫先生の本を選んでくださったことに本当に感謝です。高いのに、しかも一番欲しかった本。

こちらの本、とどいたのが7月17日。およそ1か月前ですね。

大事に大事に、1か月かけて読みました。


読了記念に、感謝の投稿。


岩田靖夫という哲学者のすばらしさ

『アリストテレスの政治思想』は2020年書物復権で、復刊されたすさまじい名著です。


いや、本当のことを言います。

ネオ高等遊民は、これまで、岩田靖夫先生のすごさを全然わかっていませんでした。

特に院生時代は、指導教官がぽろっと口にした批判の影響もあり、平凡な叙述で面白みに欠ける学者さんだなと思ってました(過去の自分を叱り飛ばしたい。もしも過去に戻れるとしたら、院生時代にすべての岩田靖夫先生の著作を熟読させたい。むしろ今、未来から2020年のタイ生活時代に戻ってきて読ませてる勢い。)


なんだったら院生時代、学会おわりの懇親会で直接お目にかかったこともあるのです。なんだったら、飲み会の席で真向いに先生が座っていたのです。

そのときも「ああ、この人が岩田靖夫先生か、へえー」しか思いませんでした。(過去の自分を叱り飛ばしたい。もしも過去に戻れるとしたら、院生時代にすべての岩田靖夫先生の著作を熟読させた上で対面して、いろいろ話をお聞きしたい。連絡先ゲットして通い詰めたい。)


岩田靖夫のすごさに気が付いたのは『ギリシア思想入門』(東京大学出版会)という概説書です。


ギリシア思想と銘打ち、哲学者に限らず、ホメロスや悲劇詩人など文学の解説もしています。

これが本当に見事なまとめなのです。

ホメロスなんて『イーリアス』『オデュッセイア』をサクッと解説するなんて、はっきり言ってなかなかできるものではないのですが、

「確かに、この箇所を引用するしかないよな」みたいな勘どころがきわめて優秀。

たとえるならば、完成された職人芸。

なので、ちょこちょこ布教してます。きっとみんな昔のネオと同じく、すぐには真価がわからないから、とにかく布教してます。

こういうのを面白みもない平凡な叙述だなあと感じていた院生時代のネオは本当にダメ。情けない。

猛省・・・・!


岩田靖夫の文体。哲学書なのに難しくないという奇跡

何よりもすごいのは、叙述の明快さ。

何言ってるかわかんないなーってところが、ない。


一応確認ですが、哲学書ですよ?

しかも研究書。新書とかじゃなくて、論文です、論文。


哲学論文で、何言ってるかわからないところが、ないんです。

これはすごい。

単なる要約とかじゃないんです。単なる要約じゃ、むしろ何言ってるかわからなくなるんです。


ちゃんと岩田靖夫先生が、ご自身の思想や理解を軸にして、アリストテレスの哲学を読み解いている。

もちろん、その先生自身の思想や理解の軸というのは、アリストテレス研究を通じて培われていったものです。

だから、研究と理解の、本当に美しい融合というか、1つの研究者の模範になるような文章なんですよね。研究者かくあるべしという。

※もちろん、難解な言葉で複雑な論理の糸をつむいでいくという叙述もあり。だからあくまで、模範の1つ。


『アリストテレスの政治思想』という名著

この『アリストテレスの政治思想』は、おもにアリストテレスの『政治学』という作品の記述から、アリストテレスの政治思想を明らかにしていく本です(ほぼトートロジーすまん)


で、単なる要約的な解説じゃない。

たとえばアリストテレス最大の汚点というか、よく非難されるのは奴隷制の容認。


これについて、岩田靖夫先生は独自の見解(なのかはしらないけど)から、アリストテレスの奴隷制は、アリストテレス自身の思想によって反駁される可能性を秘めている、と言います。

要は、アリストテレスの思想を丹念に読むと、アリストテレスが表面上は容認してる奴隷制って、どうしたって矛盾するんだよねって話。で、その矛盾にはアリストテレス自身も正直言って気が付いているってことも指摘する。


雑に説明すると、アリストテレスは有名な「人間は政治的(ポリス的)動物」って言ってますよね

人間は理性をもっているってことが、ポリスを形成する根拠だし、理性を持つものは公共の事柄(政治)に参加する自由と平等を持つべしって話になってます。

じゃあ奴隷ってどうなんだと。アリストテレスは一応「奴隷は理性を持たない」って言ってます。

でも、よく読むと「奴隷にも主人の命令を聞くというくらいの理性はないといけない」って言ってる箇所もあるんです。

あれ? そうすると、奴隷も理性を持ってるんだから、ポリスの一員として配慮しないとダメですよねってなる。


そこでアリストテレスが、ちょっと困ってるんですよね。

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アリストテレス「うーん、奴隷はポリスの一員じゃないのが世間の常識で、おれもその常識に反対はしないんだけど、おれの哲学的な考えを突き詰めるとちょっと矛盾するなあー。まあ一応メモっとくわ。」


えらい、よくメモした、アリストテレス!

なので、アリストテレスの根本思想は、自らの容認する奴隷制を破壊する可能性を秘めている。

だって、奴隷だって理性を持っているんだから、


雑な説明だし、だからどうしたっていう感じですが、これが結構重要で。

アリストテレスは奴隷制容認だからダメっていう単純化された批判が通用しなくなるんですよね。

アリストテレスのポリス的動物とか、理性的動物とかいった定義は、現代でも結構使えるというか、まさにすべての人間に自由と平等を行きわたらせるための根拠として十分にまだまだ通用すると思うんです(この辺は全部ネオ高等遊民の感想)


よく動物倫理とかの文脈で、理性の所有が権利の根拠なら、赤ちゃんやボケた老人はどうするんだって話になりますよね。

だから、たぶんアリストテレスってダメダメって評価なのかもしれないんですけど、理性という概念を再考すれば、そんなに使えないダメな概念じゃないと思うんですよね。


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たとえば犬は、敵と味方を見分ける程度の理性は持ってる
(これプラトン『国家』にも出てくる例)

まあ哺乳類はそうかもしれないけど、魚とか虫はどうすんだとか、そういう話はもちろん出てくるけど。(全然詳しくないのに言及しちゃってすいません。怒らないでください)


よしちょっと話を戻そう


研究によって自らの思想を作り上げ、哲学を語りなおすという仕方

要するに、岩田靖夫先生のすごいところって、単なる要約じゃなくて、ちゃんと自分の間違いないと思われる知見をもって、ギリシア思想なり、アリストテレスなりを読み解いているんですよね。


岩田靖夫先生の根本的な思想の1つは、「すべての人間は自由である点において平等たるべし」ってところだと思います。

だから、デモクラシー制度を岩田靖夫先生は現段階での最上の政治制度と考えていますし、そういう自分の考えを出すことに遠慮はありません。

逆に言えば、そういう文脈でのみ哲学を語っているとも言えます。そういう文脈と関係ない話はしないという態度かもしれません。

だからアリストテレスの動物誌などに関する研究はしてないはずだし、そういう話を書いたこともないはず。


これは、「この話がされてないじゃないか」という、ある種の不満にはつながりますが、他方で非常に優れた態度でもあると思うんですよね(謙虚というか、自制されたというか。うまく言えないんですが伝われ)


で、この自由と平等って根本思想は、基本的にはぼくらも正しいなって共感できる。だから、文章に無理がないし、ぼくらにとっても分かりやすい叙述になる。


つまり、私たちが多く共感できる(しかも正しい方向性の)根本思想のもとで哲学を読み解いているから、分かりやすい。

で、繰り返しになりますが、その根本思想は、岩田靖夫先生の研究から生まれ出たものだと思うんですよね。もちろん、研究なんてしてないぼくらだって、自由と平等の話は大切だと思う。その信念を、研究を通じて確信にまで高め上げた。

だから、自分の関心を軸にしてアリストテレスなりを読み解ける。それがぼくらにも理解できる文章になる。

さらにギリシア思想に限らず、岩田靖夫先生は、

・ヘブライ思想(旧約新約)の解説
・ロールズ正義論の研究
・レヴィナス研究
・ハイデガー翻訳

など、現代哲学まで幅広い思索を残しています。こういうことができるのも、岩田靖夫先生の研究への態度のすばらしさを示す一因だと思います。


まあ、ネオ高等遊民の話は勝手な想像ですから、実際は全然違うって場合もありますけど

哲学の文章を書く、哲学の思索をするという門戸は、研究者に限らず開かれているわけです。

岩田靖夫先生の著作は今後も長きにわたって、そういう参考、1つの理想的なモデルとして、君臨しつづけてほしいと思います。


岩田靖夫 著作ブックガイド

岩田靖夫先生の著作で初めに読んでほしいのは、岩波ジュニア新書。

ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)


もう1つはちくま新書。さっき紹介した『ギリシア思想入門』と重なる部分が多いから、値段も安くてkindle版もあるこちらが入手容易です。

ギリシア哲学入門 (ちくま新書)


個別の研究ならさんざん紹介したアリストテレス系が素晴らしい。

でも高い。安価で入手できるのはソクラテスについての研究書。これまた本当にわかる文章。 (ちくま学芸文庫)


岩田靖夫先生の根本思想的なところに興味があるなら、ちくま新書のこれ

よく生きる (ちくま新書)


最終的には全部読んでくれ。マジで。

岩田先生にみんなで私淑しよう。間違いのない道だ。


Amazonプレゼントありがとうございます

ってことで、Amazon欲しいものリストのプレゼントへの感謝を伝えるつもりが、岩田靖夫先生のすばらしさを伝えたい文章になっちゃいました。


それくらい、今回のプレゼントを感謝しているってことです!!!!

ありがとうございます!!!!


ちなみに、、、

岩田靖夫『アリストテレスの倫理思想』っていうこれまた重要な研究書があるんですよね。

こちらのプレゼントもお待ちしてます・・・・!!!!!!!


↓ネオ高等遊民の欲しいものリスト↓


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