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ながーーいくだらない話。(後半)

緊張のわくわくと
楽しみのわくわくで目が覚めた

準決勝の発表だ

相変わらず喉は優れない
なんなら昨日より悪化していた
だけど、なんだかいけそうな予感がした

予感は的中
見事に準々決勝は突破していたのだ
他にも神奈川県代表の子が何人か突破していて嬉しかったし心強かった

もう他の県の人なんて気にならなかった
緊張よりも喉の心配だったし
明日のNHKホールで舞台に立ってない自分なんて想像したくなかった
マイナス思考が逆にプラスの方向へもっていったのだ
ぶっ倒れるまで努力したけど 納得いく読みはできなかったし、師匠は滅多に褒めなかった

自分の番になるまで咳がとまらなかったが、本番は1度もこじらせなかった。息は続かなかったもののなんとか誤魔化しがついた、ふう……。と一安心

全国大会の準決勝まで進んでおいて言うのはとても生意気だが、私は本当に読むのが上手くない
いや上手い下手の問題ではないのはわかっている。だがどうしても自分にとっての納得する読みができない。周りが「うまい」と言っても、それは全国大会出場者というレッテルを貼っているからではないか、と信じることができなかった

だからこそ、師匠の指導が安心できた
読んでも読んでも「ちがう」そこを直せば「次」。不思議とそこに厳しさを感じなかったし、向上心が芽生えたのも事実
上手いといって一線引かれることもない

だから、今までの全てをかけて読んだ
1位になるために。恩返しをするために。

次の日、NHKホールで決勝者発表が行われた
大きなスクリーンに60人の中から選ばれた10人の名前が表示される。あったのだ、私の名前が

叫んだ

ボロボロに泣いた

ホールで読む!と決めてはいたものの、信じられるはずがない

「よっしゃーーー!!」

隣で座っていた師匠が初めて大声を出した
その一言で更に大泣き

準々決勝までにしか届かないと言われていた私の読みが、たった2週間で決勝にまで残った。300人中10人の中に入ったという事実が映っている

急いで会場をでて決勝者説明を聞きに行った
決勝戦は3時間後。課題も渡される
次に名札を取りに行った(上の写真ですね)
そこで、とりあえず家族に電話をする。その時私はボロボロに泣いていたため電話に出た母は驚いていた
家族で心配していたようで「琴音どうだったかな…」なんて話をしていたらしい
そこで泣いて電話をするものだから 事故をしたのかと勘違いしていたと後から言われた

よし、読むぞ。
奇跡的に風邪は完治していた…が咳払い程度だが少し多めだった。でもこれなら大丈夫だと思った時

「まだ読まなくて良いぞ」

余裕の師匠が近づいて言う
残り3時間しかないのに読まなくていいのか?発声しなくていいのか?色々疑問に思う所はあったが、師匠の言うとおりにした

とてつもなくリラックスしている
しかも10人中 私だけ
周りでは真剣な顔をして課題を読み説いているライバル達と顧問が多かった
なんだか落ち着かない。そわそわしている私を見て師匠が言う

「後は運だ。これはもうお前達の戦いじゃなくて指導者の戦いだからな笑」

都合のいい解釈をするならば、緊張しないでいつも通りやりなさいとのことなのです

そして この曲を聴いておけよ、と曲名を教えられてひたすら聴いていた。この曲をBGMにして課題を読めとの指示だった
ただ文を声に出してはならない
声にしてしまった時点で癖としてこびりつくからだ

曲を聴きながら、口パクで読む
この作業を1時間ほどしてお昼休憩に入った

ご飯を食べ終わると師匠はNHKホール探検をしてくれた。ホールないをたくさん歩き、2階の客席を見て、3階の客席を見て…
3階の客席は舞台が見えないくらい遠かった
人がとても小さい

そうか、ここで読むのか
本当にここまで来てしまった

やがて、発表まで1時間となった
声だしをして、曲を聴きながら今度は口に出して軽く読む。そこから師匠の色をつけていく
ここはもっとこう想像して、次はこう…師匠の文の解釈と私の解釈を重ねていく

残り15分になったところでやっと本来の原稿を読む。だが課題と合わせて読みきるのはたった3回しかやらなかった
そして私は舞台袖へ移動する。

NHKホールの舞台袖なんてそうそう行けるものではない、これでもかと言わんばかりに緊張を消そうとうろついた
怖いとかではなく、ワクワクした
正直もうここまでこれただけで充分すごい、

だけど、ずっと一緒に頑張ってきたこの原稿(作品)で1位をとりたい。
とにかく楽しく読んでこようと思った

舞台にぞろぞろ歩いていく
ホールは真っ暗で 読むところだけにサスが当たっている。満員の客席を目の前にして読むのだ

私は9番目、ちゃくちゃくと近づいてくる
だが不思議と緊張が消えていた。自分の番になった時には つい笑顔が溢れてしまった。

馬鹿げた話をすると、

私はこの時 “ゾーン”に入ったんだと思う

全てが遅く感じたし、緊張が楽しさに一瞬で変わった。ここだけの話 実は1ヶ所失敗をしている笑
それが気になる人は CDがあるから是非聴いてみてほしい。

その失敗でさえも、何十秒 というか時が止まった様に感じた
後から録音を聴いてみると一瞬で終わっていたのだ

課題ももちろん、問題なく終わった

なんにも悔いはなかった

これで結果に繋がらなければ それは運だ、仕方ない。そう思う自分と でもやっぱり結果に繋がっていてほしいと思う自分がいた

そんな気持ちで発表を待った

結果はなんと 準優勝

全国大会で準優勝だ。
表彰をしている時、我にかえって涙が溢れた

私は3年間の放送部での色んな事を思いだした 読む事をやめようと思ったことも、学校自体もやめようと思ったこともあった。
だが、諦めないでよかった やってよかった
読んでいてよかった

真剣に指導をしてくださって、1位の夢を笑わずに応えてくださって、見捨てないでくださった師匠にお礼を言いたくて

表彰が終わったらすぐに師匠の元に駆け寄った

「鳥肌たったよー、いやぁよかった」

そう言われて全て報われた気がした
私は初めて 自分の読みを“よかった”と感じることができたのだ

生まれて初めてだと思う、こんなに“死ぬ気”で物事を成すということは。
強い願いがあっての無我夢中の努力だった。いや、努力とも感じていなかったのも事実
ただ本当に本当に無我夢中だった

こんなに長々と話して何が言いたかったというと

“努力” は報われない
報われる方向に “向くことができる”

ということだ

私の場合は 絶対的目標をつくり、その目標を達成できないなんてことは絶対ありえない という自ら重い枷をつける
そうすることによって必然的に努力せざるを得ないし、別にそこまでの気持ちでなければ 向いただけで終わってしまう

才能がない人は、これほどまでに死ぬ気でやらないとそこまでいかないんだということがわかった

だけど逆に考えたら、それほどの気持ちがあれば報われる

私は最初から才能があるわけではなかった
ただ読むのが好きな気持ちと死ぬ気があれば突き詰めることができる

だけどそんな事ができたのは 応援してくれた家族のお陰だし、支えてくれたメンバーのお陰だし、何より師匠のおかげ

過酷な練習だった
きつかった
でも、「もう嫌だ」と思ったことは1度もなかった。私の心が折れることはなかったのだ。

まぁ要するに、読みに関しては ハングリー精神旺盛ということと、とにかく読みを愛しているということだ。

第63回 NHK杯 全国高校放送コンテスト 朗読部門 準優勝 今西琴音

武者小路実篤 「友情」

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