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ブルノ滞在記24 忙しい1日

昨日は本当に忙しかった……。

朝は6時に起床して、朝食をとる。前日砂糖無添加のグラノーラと、大量のブルーベリーを購入したので、趣向を変えてグラノーラにヨーグルトをかけ、果物をのせて食べた。ヨーロッパはちょうどイチゴやブルーベリー、クランベリーが美味しい時期だ。日本ではなかなか味わえない贅沢……。

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朝食後は夫と電話。夫は実家のお母さんと、前日にわたしが書いた記事を読みながら、「これは働きすぎなのでは……?」という話をしていたという。実は他にも何人かの友人からメールやメッセンジャーで同じ連絡が来ていた。「帰国した後にダウンするかもしれないから、もう少し気をつたほうがいいんじゃないかな……」と夫に言われる。うぅ……確かに……。しかし、こうしてブレーキを押すことを勧めてくれる人が何人もいるのは、ありがたいことだ。

わたしは仕事を引きつけてしまう性質があるように思う。そういえば、美容師をしていた祖母は、かつて、週末ごとに母に連れられて祖父母の家を訪ねていたわたしに、「ことたびちゃんが来る時に限って、いつもお客さんがたくさん来るのよね」と言っていた。おそらく孫と触れ合う時間が惜しくてそう感じるだけだったのだろうけれど、この言葉は、成人後「仕事を失って、食べていけなくなったらどうしよう……」という不安を抱く度に、自分を少し支えてくれている。

仕事を引きつけてしまうという性質に加えて、わたしには、自分で仕事を作り出してしまうという性質もある。わたしの頭の中は大体いつも、「あの人とこの人を会わせたら絶対に面白い!」「これを見たらあの人はきっと喜ぶに違いない!」という考えでいっぱいだ。わたしは比較的交友関係が広く、自分と傾向が近い人とはすぐに仲良くなれる。そして自分にとって仲間だと思える人に対しては、喜ばせたい、力になりたいという気持ちが自然と湧き上がってくる。この気持ちは抑えがたい本能のようなもので、しばしば自分の身体がついていかない時すらある。

昨日は午前中に諸々のメール対応をして、チェコ文学センターから依頼されていたブログ記事を書き上げた。スペース込み最大4000字のところを、ぎりぎり3999字にまで削った。今ネイティヴの友人にチェックをしてもらっている(この友人にはいつもネイティヴチェックでお世話になっている。プラハでご飯でもご馳走しよう……)。昼食を急いで済ませて、図書館へ行こうと慌てて化粧をしていたら、洗濯物を干すのを忘れていたことに気づいた。大急ぎで洗濯物を干して、小走りで図書館に向かう。

ぎりぎりにはなったものの、ブルノを発つ前に必要としていたすべての資料を揃えることができた。ブルノ・モラヴィア図書館の図書館司書の方には、一生足を向けて寝られない。生まれ変わったらチェコの図書館司書になりたいというくらい、彼女たちの働きぶりはプロフェッショナルなものだった。心からのお礼を伝えると、「わたしたちも、最初は間に合うかしらって不安だったんだけどね」と苦笑いされた。そして別途、役に立ちそうなデジタルアーカイヴのリンクをメールで送ってくれた。なんてありがたい。

そうこうしているうちに、滞在研究のアテンドを務めてくださったJさんとの待ち合わせ時間が近づいて来た。15時半に図書館で待ち合わせをして、彼女が住んでいる、ブルノ郊外のリーシェン Líšen へ向かう。犬の散歩ついでにあちこちでハーブ摘んでは、それらを乾燥させてハーブティーを作っているという話をJさんから聞いて以来、彼女には強いシンパシーを感じていた。かく言うわたしも2年前、当時住んでいたシェアアパートの近くでカモミールが群生しているのを発見し、カモミールの花を山ほど摘んでカモミールティーを作ったことがある。先週末訪問したペーチャや、今週頭に連絡をくれたドイツ人の友達もそうだなのが、わたしはどうも、こうした野性味の強い女性に憧れを抱く傾向が強いらしい。

一旦彼女のご自宅に立ち寄って、二人でピクニック用の食料をリュックサックに詰め込み、彼女の飼い犬ジェシーを連れて車で出かける。到着したのはハーディ Hády という高地のようなところだ。昔は石の採掘場だったらしく、山が窪地のように削られて、真ん中が池のようになっている。

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チェコ語のprocházka、ドイツ語のSpaziergangという語には、大抵「散歩」という訳語があてがわれるが、それは日本で想定される「散歩」の域を超えていることが多い。どちらかというと「トレッキング」である。学部生の時にとっていたロシア語の授業の先生も、同じようなことを言っていたような気がする。Jさんとのprocházkaも、とても「散歩」とは言えなかった。ほぼ登山だった。石がごろごろ転がっている非常に傾斜の急な坂道を、息をはぁはぁ切らしながら何度も登ったり降ったりする。頂上に着いたのはちょうど18時頃。ブランケットを敷いて、日没を眺めながら彼女と一緒に夕飯を食べた。大変だったけれど、身体を動かして自然に触れた分、日中パンク寸前になっていた脳が一旦リセットされたような気がする。

食事を終えて高地を下り、近所のレストランでジンジャーティーを飲みながらJさんといろいろな話をした。Jさんは、最近読んだ本で、「人はみんなそれぞれ異なる小さな点だ。世界は、その点を結ぶことで成り立っている。だから、自分を誰かと比べて落ち込んだり僻んだりする必要はない」というようなことを読んで感銘を受けたという話をしていた。チェコに渡航する前のわたしは、まさに「自分を誰かと比べて落ち込んだり僻んだり」して苦しんでいた。けれども、こちらで心に余裕をもった生活ができるようになると、他人との比較はあまり気にならなくなった。もちろん翻訳家として訳書を出したいという気持ちもあるが、どちらかというと、わたしは、自分の周りにいる個性的な点を結ぶことの方により大きな喜びを覚えるような気がする。帰国後もこの心の余裕を失わないでいたい。

帰路についたのは20時前。帰り道のトラムでは、眠くて欠伸ばかりしていた。家にたどり着くが早いか、シャワーも浴びずにベッドに入り込んだ。

この週末は、明日の昼にモラヴィア在住の旧友とランチをする以外にこれといった予定はない。パッキングをしながら、本を読みつつだらだら過ごすことにしよう。

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