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逃げ水と空腹と

映画やドラマの制作をしている会社というのは、おしゃれっぽい街にあることが多い気がします。代官山とか中目黒とか、渋谷から1駅、2駅ぐらいの場所に集中している感じ。たまには西日暮里にオフィスを構えている会社とかあってもいいんじゃないかと思うんですが、私が知る限りでは存在しません。

高校時代、田舎のオリーブ少女だった私にとっては、代官山とか中目黒は憧れのおしゃれスポットでした。「ま、ここに載ってるお店のどこにも、私は行けないわけなんだけどね」と思いつつ、気の利いた雑貨のお店や素敵なカフェの情報を読みふけっていた日々が懐かしい。

時は流れ、そういう街へ打ち合わせに出かけることが日常になったわけですが、いざこうなってみると、雑貨屋さんもカフェも立ち寄ることはほとんどありません。なぜなら、そういう心の余裕がない。
打ち合わせに行くときって、基本的に気が重いんですよね。事前に原稿を送ってあって、それについて話をしに行くわけなので、「あそこはもっと違う方向で書いた方がよかったんじゃないか?」「あの書き方で、私の意図は伝わったのか?」といったことが頭の中を駆けめぐっている。そもそも、原稿送信直後というのは自分が”絞りかす”みたいな状態になっていることが多く、気力体力が回復できないまま出かけることも珍しくない。
制作会社に向かう足取りは大抵の場合重く、どんよりした気分なので、たとえ時間に余裕があっても買い物を楽しんだり、カフェでまったりしたりするような心の余裕がないのです。

打ち合せ後の帰り道はどうかと言えば、これまた数時間集中して無い知恵絞りまくって、絞りかす状態ということが多く、「家に帰りたい……一刻も早く……」という気分。
必死で考えるせいだと思うんですけど、とんでもなくお腹が減って、カフェとかじゃなく、何かガッツリしたものが食べたいんじゃ!ということも多いです。

そんなわけで、その昔、憧れていた街にせっかく通っていても、そこで過ごすおしゃれな時間は自分には一向に訪れず、「逃げ水みたいだな」と思ったりします。

それにしても、打ち合わせはなぜあんなにお腹が空くのか……。
途中で盛大にお腹が鳴ってしまい、大変恥かしい思いをすることもあるんですが、今まで一度も「お腹鳴りましたね」って言われたことはないんですよね。音がデカいので、聞こえていないわけはないのに。
私は自分が出た打ち合わせで、他の誰かのお腹があんなに大きな音で鳴ったら笑っちゃうんじゃないかと思うんですが、私の周りの人たちは誰も指摘はせず、代わりに「では、そろそろ今日はこの辺で」と打ち合わせを終わらせる方向に持って行ってくれます。みんな、なんて大人なんだ!!

#エッセイ #日記
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