喫茶店の人 #1 【コーヒーハウス井戸】 栗栖明さん
阪神御影駅の西を走る弓場線沿いに、山小屋風の外観が目を引く喫茶店「コーヒーハウス井戸」がある。
マスターの栗栖明さんがコーヒーハウス井戸を創業したのは1976(昭和51)年、27歳のとき。
更地の状態から半年かけて店舗を建築し、オープンした。外観のイメージはヨーロッパの山小屋。シャレースタイルと呼ばれる三角屋根の建物やアンティークな家具・調度品を集めたインテリアは栗栖さんの好みだ。
栗栖さんはハモンドオルガン奏者でもある。
音楽に目覚めたのは高校生の頃。ベンチャーズやビートルズなどロックに刺激され、次第にジャズに夢中になった。強く影響を受けた音楽家は、ジャズオルガニストのジミー・スミスとメルヴィン・ライン。
神戸の大学を卒業後、音楽事務所に所属しプロとして音楽活動をしていた経験を持つ。
「若いときは呼んでもらえるけど、年を取ったらミュージシャンとしての仕事があるんだろうかと思って。コーヒーが好きだったから喫茶店をやろうと思い立ち、UCCの喫茶店学校に通って一から学びました」
店舗を建てる前から店内で音楽ライブをする構想を持っていた。ミュージシャンとしてのギャラが良かったので、昼間は井戸で働き夜は鍵盤奏者としてバーなどで演奏する生活が続いたそう。
2階建てで客席数は55席。これだけの規模の店を始めるのに不安はなかったのだろうか。
「開店した頃日本経済は右肩上がりだったから、何の不安もなかった。周囲に何店も喫茶店がありましたが、遊びに行く場所がないからどの店も流行っていましたよ」
辞めたいと思ったのはバブルが弾けた93年頃と阪神・淡路大震災が発生した95年。客が減り、経営が苦しかった。
「若いときは怖さを知らないから無茶できたんだと思う」と笑ったあとに、ハモンドオルガンを弾いてくれた。
親交があるミュージシャンを店に招きライブを続けてきたが、コロナ禍以降は休止している。マスターが参加する「井戸バンド」は、オルガン・ベース・テナーサックスの3人編成。いつか生のパフォーマンスを見てみたい。
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