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喫茶店の人 #1 【コーヒーハウス井戸】 栗栖明さん

2014年の3月、住まいを阪急沿線に移したため、神戸の喫茶店に行く機会が増えた。

芝田真督(まこと)さんが書いた「神戸懐かしの純喫茶」を携えて、神戸市東灘区のコーヒーハウス井戸を訪れたのは5月。
店名の由来になったのは、更地に残っていた井戸だ。

明治神宮御苑にある湧水の井戸「清正の井」はパワースポットとされているが、「コーヒーハウス井戸」は私にとってのパワースポット。気持ちが沈んだときに、足を向ける。

阪急電鉄公式のブロガーとして活動していた2017年以来、5年ぶりにマスターの栗栖明さんに話を聞いた。

コーヒーハウス井戸

阪神御影駅の西を走る弓場線沿いに、山小屋風の外観が目を引く喫茶店「コーヒーハウス井戸」がある。

マスターの栗栖明さんがコーヒーハウス井戸を創業したのは1976(昭和51)年、27歳のとき。

更地の状態から半年かけて店舗を建築し、オープンした。外観のイメージはヨーロッパの山小屋。シャレースタイルと呼ばれる三角屋根の建物やアンティークな家具・調度品を集めたインテリアは栗栖さんの好みだ。

店の真ん中にハモンドオルガンB3が鎮座

栗栖さんはハモンドオルガン奏者でもある。
音楽に目覚めたのは高校生の頃。ベンチャーズやビートルズなどロックに刺激され、次第にジャズに夢中になった。強く影響を受けた音楽家は、ジャズオルガニストのジミー・スミスとメルヴィン・ライン。

神戸の大学を卒業後、音楽事務所に所属しプロとして音楽活動をしていた経験を持つ。

「若いときは呼んでもらえるけど、年を取ったらミュージシャンとしての仕事があるんだろうかと思って。コーヒーが好きだったから喫茶店をやろうと思い立ち、UCCの喫茶店学校に通って一から学びました」

ハモンドオルガンを弾く栗栖さん

店舗を建てる前から店内で音楽ライブをする構想を持っていた。ミュージシャンとしてのギャラが良かったので、昼間は井戸で働き夜は鍵盤奏者としてバーなどで演奏する生活が続いたそう。

2階建てで客席数は55席。これだけの規模の店を始めるのに不安はなかったのだろうか。

「開店した頃日本経済は右肩上がりだったから、何の不安もなかった。周囲に何店も喫茶店がありましたが、遊びに行く場所がないからどの店も流行っていましたよ」

辞めたいと思ったのはバブルが弾けた93年頃と阪神・淡路大震災が発生した95年。客が減り、経営が苦しかった。

「若いときは怖さを知らないから無茶できたんだと思う」と笑ったあとに、ハモンドオルガンを弾いてくれた。

親交があるミュージシャンを店に招きライブを続けてきたが、コロナ禍以降は休止している。マスターが参加する「井戸バンド」は、オルガン・ベース・テナーサックスの3人編成。いつか生のパフォーマンスを見てみたい。


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