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2022.1.17〜1.23 週日記

2022.1.17(月) ありもしない晴れ

昨夜つくっておいたチャンポンを食べてから、いつもと違う美容室に行く。髪をいじられながら、やはり記憶の切れはしが行き来する。元恋人の祖母の名前。あと少しのところで靄がかかって自信がもてない。自分にとって意味あるものは一生忘れないと思っていた。でも記憶は失われゆくのだと認めた瞬間に視界がにじみ、美容師さんに気づかれないうちに慌ててぬぐう。ロージナ茶房で谷崎潤一郎『文章読本』(1975年)を読む間に大量の付箋が貼られてゆく。5時間経ってバスで帰宅。たぶんずっと淋しかった。失われた記憶を求めても運命に押し返されてしまうことが。川は一方にしか流れない。濁流のなか、そこに存在しないはずの過去が手を差し伸べる。

2022.1.18(火) 明日には忘れる晴れ

夕方に起き、ニコノマニマニで雑貨を買って本屋で発送作業を済ませ、近所のガストに移動して本を読みつつ編集作業。雑誌のほうは通常企画に加えて、次号では特集の編集も担当することになり、内心というかすこぶる大袈裟に焦っている。心細さとプレッシャーで泣きたい。校了したらがんばったねって言って…! 来週、小鳥書房は3周年を迎える。それにあわせてなにか記事を書きたい。ただ、まちライブラリーの林さんや書肆 海と夕焼の柳沼さんたちについて書こうとすると、なにを書いたらいいかわからなくなる。言葉が感情に遠く及ばないのだ。谷崎も『文章読本』に「言葉と云うものは案外不自由なものでもあります」「言葉や文字で表現出来ることと出来ないこととの限界を知り、その限界内に止まることが第一」などと記している。

2022.1.19(水) 見過ごせない晴れ

1日インターンで来てくれた坂井ちゃんとゆっくりお話しする。東ちゃんも来てくれてじんわり賑やか。帰宅して、Amazon Musicで流れてきたandropの「Hikari」が美しくて繰り返し聴いてしまう。数年前はこの曲をもうすこし真っ直ぐ聴いていた気がする。流れ星、駆け出すペガサス。朝焼け、透明な空気。まわる時を越えて重なったあなたとの毎日が鮮やかに染まる。そんな詩を書けたときが私にもあった、気がする。そういう仮初の希望を川に流しているうちに受け身をとるのがうまい大人になった。光の届かない絶望の底は心地がいい。取り返しがつかない。はじまりとおわりのある夜。その長さに怯えている。

2022.1.20(木) 錆びついた晴れ

12時半に布団を出て12時47分に家を出る。しかも今日は慌てるでもなく平常心。やったことないけど太極拳でもやっているような達人芸の17分間。幼いころに見た母のパンツのゴムのように時間がだるだるに伸びている。お客さんは少なく、1日インターンのりゅーじんさんとじっくり話しながら本屋で過ごす。元インターンのサイトウさんと出会ったときを思い出す雰囲気と会話。閉店後はガストで23時半まで本を読む。今週末と来週水曜に予定している読書会用の本が全然読み終わらない。帰宅して白菜をフライパンに入れてオリーブオイルで蒸すつもりが、焦がしてしまってお好み焼きみたいなにおいがする。そのうえ粒胡椒を振りすぎた。うまくいかない。

2022.1.21(金) 泳ぐ必要のない晴れ

東ちゃん、りゅーじんさん、ゆきはるくん、1日インターンななせちゃんが本屋の2階で児童書のクイズづくりを進めてくれている間、私は1階で雑誌の編集を進める。2階にいる仲間たちの存在に途方もなく奮い立たされる。元夫が職場から電話をかけてくる。明日の高野くんの結婚式でプレゼントを渡すタイミングに悩んでいるとのこと。閉店後には柳沼さん、友人でデザイナーの赤田くんと深い時刻まで雑談。仕事や家族についてとりとめもなく。家族。もういちど家族で食卓を囲みたかったけれど、そのささやかな希望は叶えられることはなかった。家族というものを考えようとすると、憧れと諦めが綯い交ぜになる。どうせするする指の隙間からすべり落ちてゆく。なのにいつだって私の真ん中にあって、死ぬまでそこに居座り続けるのだろう。

2022.1.22(土) よじれて伸びる晴れ

友人の高野くんの結婚式が旧国立駅舎で行われ、その生配信を本屋で観る。まちの人たちにお祝いされる結婚式が高野くんらしくて素敵。元インターンのまおちゃんから進路が決まったと聞いてほっとする。お客さんと楽しく話しながら本屋業務をしつつ、編集仕事を進める。雑誌の作業量と特集企画のプレッシャーに挫けそうになり、柳沼さんに「がんばってください」と無理やり言ってもらう。がんばれる。閉店後の19時から朝4時までそのまま店で編集と執筆を進めたら、まばたきすら痛みになるほどの疲れ。でも奇跡かと思うくらい前に進んだ。真冬の深夜の冷気にふるふるしながら帰宅。最小限の言葉数のやりとりで机に置いたものを、ふたたび手にとるか、朽ちて溶けるのを見守るか。頭で考えようとすれば行く先は無数に枝分かれする。

2022.1.23(日) おなかがすいた晴れ

目覚ましをかけずに昏昏と眠り、昼過ぎに起きた時点で今日予定していたほとんどを手放す。国立駅近くのバーガーキングに寄り、白山のplateau booksでの読書会へ。課題本の『文章読本』を白山駅に着く直前に読み終える。ギリギリにもほどがある。仙台の友人ゆりちゃん、スタッフなつきちゃんとそれぞれやっている読書会以外にははじめての参加。10人くらいの参加者さんと感想を受け止めあう。私も新しい友人と話すみたいに本の一節を朗読したりする。本への理解が深まったことより、本を通したフラットな会話に瑞々しいおどろき。普段は本屋の店主とお客さん、の立場で本の話をしているせいか。余韻にひたりながら帰宅して『定本・悪魔くん』を読む。3日後に迫った3周年に向けて昨日から記事を書いている。どうしよう間にあわない。

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