【短編シナリオ】吾輩はヒモである

猫の又三(またぞう)視点で描く、少し悲しい恋のお話です。

シナリオセンター本科課題「ヒモ」

タイトル:吾輩はヒモである

【人物】
又三(2)猫
川上紘夢(22)大学生
村田典子(25)会社員

〇アパート・外観(夜)
   雪が降っている。

〇同・リビング
   又三(2)がいる。
又三M「吾輩はヒモである。名前は又三」
   こたつでノートPCを操作している
川上紘夢(22)。
   PC画面と紘夢の間に割り込む又三。
   PC画面、ペイントソフトに美しい色彩
   の抽象画が描かれている。
   困っているけれど嬉しそうな紘夢。
紘夢「ちょっと!邪魔だよ又三」
又三M「彼は紘夢という。なかなかきれいな絵を描く。猫にも少しはわかる。」
   あくびをする又三。

〇同・キッチン(夜)
   料理をしている紘夢。
   近くでその様子を見ている又三。
又三M「ヒモというのは女に養われている男のことを言うらしい」
   料理を運ぶ紘夢。
典子の声「ただいまー」
   声に反応し、玄関の方に向かう又三。

〇同・玄関(夜)
   ビジネスカジュアル姿で玄関から入ってくる村田典子(25)。
   典子の足元にじゃれつく又三。
典子「ただいま、又三」
   又三を抱きかかえる典子。
   目を細める又三。
又三M「彼女は典子という。吾輩を養ってくれている」

〇同・リビング
   食事の準備をしている紘夢。
   こたつの上には料理が置いてある。
紘夢「おかえり」
典子「いい匂い!私、紘夢の作った焼きそば大好き!」
   紘夢の頬にキスをする典子。
   幸せそうに食事をする紘夢と典子。
   その様子を見ている又三。
又三M「吾輩が彼らと出会ったのは2年前のことだった。」

〇(回想)公園
   段ボールに入っている子猫の又三。
   並んで歩いている紘夢と典子。
   又三に気付く紘夢。
紘夢「あ…」
又三に近づく典子。
   しゃがんで又三を見る紘夢と典子。
典子「かわいい!…でもいまのアパートじゃ飼えないなあ」
   考えこんでいる様子の典子。
典子「引っ越そうかな」
紘夢「え?」
典子「決めた!来月から社会人だし、引っ越して猫と紘夢と一緒に暮らす。どう?」
   笑顔で紘夢を見つめる典子。
紘夢「う…うん」
   微笑み合う二人ときょとんとしている又三。

〇同・リビング
又三M「おっと、思い出に浸っているうちに何だか空気が…」
   向かい合ってコーヒーを飲んでいる典子と紘夢。
典子「あのさ…」
紘夢「何?」
典子「就職活動…しなくていいの?」
紘夢「うーん…」
典子「まだ卒業まではあと少しあるし、小さくても希望と違ってもどこか入っておいた方がいいんじゃないかな?」
紘夢「うん…わかってるんだけど、その」
   口ごもる紘夢。
典子「人前で喋るのが苦手だって言うんだったら、訓練できるところもあるんだし、探してみなよ」
紘夢「その…」
典子「いつまでもそんなんじゃどうしようもないよ。応援するから、頑張って!」
   紘夢の肩に手を置く典子。
   悲しそうにうつむく紘夢。
   その様子を見ている又三。

〇アパート・外観
   紫陽花が咲いている。

〇同・リビング
   PCで絵を描いている紘夢。紘夢の膝の上で寝ている又三。
   目を開ける又三。
又三M「吾輩はヒモである。名前は又三。
そして彼もまた、ヒモである。」
   背伸びをする紘夢。
紘夢「典子さん、最近帰り遅いんだよな。」

〇同・リビング(夜)
   PC操作をしている紘夢と膝の上にいる又三。
   テーブルの上にはラップをかけた焼きそばの皿。
   23時を指す時計を見る紘夢。
典子の声「ただいま」
   入ってきた典子はひどく酔っている。
紘夢「また飲んできたの?」
典子「付き合いなの、仕方ないでしょ」
紘夢「体壊すよ」
典子「うるさいな!飲み会だって仕事のうち
 なの。あんたはいいよね。毎日猫と遊んで
 ればいいんだから。」
   悲しそうな顔の紘夢。
   はっとする典子。
典子「ごめん。外の空気吸ってくるね。」
   玄関の扉が閉まる音。
   又三を抱きかかえて立ちすくむ紘夢。

〇同・リビング(朝)
   テーブルで寝ている紘夢。紘夢の膝の
   上で寝ている又三。
テーブルの上に置手紙。
典子M「昨日は言い過ぎた。ごめんね。いいと思ってるの。紘夢みたいな生き方をしてる人がいても。私は仕事嫌いじゃないし、生活費だって一人でも二人でもあんまり変わらないしって。でも頭ではそう思ってても、イライラするの。嫌な女でごめん」
手紙を見て悲しそうな表情の紘夢。
又三「ニャー」
   紘夢に体をこすりつける又三。

〇アパート・外観
   紅葉している。

〇同・リビング(夕)
   カリカリしている又三。
   向かい合っておやつを食べている紘夢
   と典子。
典子「アーティスト・イン・レジデンス?」
紘夢「そう」
典子「なにそれ」
紘夢「別府のオンボロアパートに創作したい人たちが滞在して、作品を作る。」
   表情が曇る典子。
紘夢「これ以上迷惑かけれない。いままでありがとう。」
   うつむいた典子の目から涙が落ちる。
   嗚咽を上げる典子。
   典子の手を握る紘夢。
   二人を見ている又三。

〇同・リビング(朝)
   段ボールに荷物を詰め込んでいる紘夢。
   その様子を見ている又三。
   又三を見つめる紘夢。
紘夢「又三も入る?」
又三「ニャー」
   又三を見つめ悲しそうな表情の紘夢。
紘夢「うそ。ごめんね。連れてけない。典子さんのそばにいてあげて。」
   又三に背を向ける又三。
紘夢「僕もさ、君みたいに小っちゃくて、かわいかったらよかったのにな。それか、ちゃんとした大人の男だったらよかったのに。人前ではっきり自分の意見が言えて、他人が怖くなくて、ちゃんと働いて稼いで
 典子さんを守れる立派な大人の男の人」
   泣いている紘夢。
   小さく丸まった紘夢の背中。
   紘夢を見ている又三。
   踏み込んで、ジャンプする又三。
   紘夢の背中に飛び乗る又三。
 紘夢「うわ!なになになに」
   紘夢の背中に爪を立ててしがみついて
   又三。
紘夢「痛い!痛いよ」
又三M「吾輩には、紘夢の背中を包むことができない。猫でもないしちゃんとした大人でもない。けど大きくなってしまった紘夢の背中を、この世界の一体だれが包んであげられるというのだろうか」
   又三を背中からはがして、抱きしめる
   紘夢。
紘夢「あったかい。」
   又三に顔をうずめて微笑む紘夢。

〇同・玄関(朝)
   荷物を持って玄関から出ていく紘夢。
   玄関先で紘夢を見ている又三。
   又三の方を振り返る紘夢。
紘夢「さよなら」
   扉が閉まる。
   誰もいない部屋で鳴く又三。

おしまい

備考:その後、ラストがあまりにも悲しくて引きずってしまったので続編を書きました。続編は紘夢と典子が遠距離恋愛を乗り越え、又三とも再会して一緒に暮らすハッピーエンドにしました。


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