【短編シナリオ】イエイ!

若き写真家が営む古き良き写真館に「遺影を撮ってほしい」という変わった依頼の美女がやってくる。彼女は、音信普通になっていた親友だった。

シナリオセンター本科課題「写真」

タイトル「イエイ!」

【人物】
花沢一輝(23)花沢写真館・館長
森川優(19)(23)写真館の客
花沢小太郎(7)一輝の甥
花沢きよ(77)一輝の祖母
花沢知佳(29)一輝の姉

○花沢写真館・全景
   家族写真や成人式の写真に混ざって、
スーツ姿の森川優(19)のバストアップ
の写真が飾ってある。

○花沢写真館・事務所
事務所は散らかっている。
   パソコンで作業をしている花沢一輝(23)
の後ろ姿。
あくびをする一輝。
パソコンの画面、フォトショップで写
真の加工をしている。
机の上にはコーヒーと煙草の吸い殻。

○花沢写真館・入り口・外
女性の姿で入り口に立っている森川優(23)
外から中の様子をのぞき込む優。
写真館の中は人気がない。
  扉を少し開ける優。
優「すいませーん」
○花沢写真館・事務所
机に座っている一輝の後ろ姿。
優の声「すいませーん」
のそのそと立ち上がる一輝。

○花沢写真館・入り口・外
立っている優。
中から少し開ける一輝。
にこにこと笑っている優。
一輝「いらっしゃいませ・・」
優「遺影を撮ってもらいたいんです」
一輝「はい?」
驚いた一輝の表情。

○花沢写真館・応接室
向かい合ってソファに座り、お茶を飲
んでいる一輝と優。
一輝「失礼ですが」
優「はい」
一輝「ご病気か何かで・・」
優「健康です。先月の健康診断だったんですが、
A判定でした。数字をね、なめ回すよう
にみたんです。血糖値とか、尿酸値とか
全部真ん中くらいの値なんですよ。」
一輝「はあ」
お茶を飲む一輝。
一輝「そのすこぶる健康な若いお嬢さんがど
うして遺影を?」
優「客が頼んでいるんだから、あなたは黙っ
て撮ればいいの。でもどうしても聞きたい
なら教えてあげる」
一輝「はあ」
身を乗り出し、一輝に顔を近づける優。
体を反らす一輝。
優「いまが一番美しいからよ。」
ぽかんとする一輝。
優「しわしわのおばあちゃんの写真が後世に
伝わるなんてイヤ。若くて美しい私を残し
ておきたいの。いまじゃなくちゃダメなの」
真剣な優の表情。
一輝「わかりました。お撮りします。」
優「ありがとう」
にっこりする優。
一輝「でも・・」
一輝「いまが一番美しいとは限りませんよ。」
優「どうして?」
一輝「女性は変わりますから」
優「じゃあ、あなたは20才と50才の女性から、
同時に迫られたらどっちを選ぶの?」
一輝「ないでしょ、そんな状況」
優「もーしーも」
一輝「そんな年齢だけで選ぶなんて乱暴なこ
とはしません」
優「じゃあ何で選ぶの?見た目?お金?性格?」
一輝「うーん・・」
宙を見る一輝。
一輝「テクニック・・?」
優「うわあ」
一輝「なんだよ!年齢は不可抗力だけど、テ
クニックは努力で身につけられるだろう!
よっぽどフェアだ!」
隣の部屋から応接室に入ってくる花沢きよ(77)。
きよ「すみませんねえ。孫はまだ未熟で」
優「こんにちは」
一輝「ばあちゃん・・」
優「撮影は振り袖でしたいんです。着付けて
頂けますか?」
きよ「大丈夫ですよ」
笑顔の優。
怪訝そうな表情の一輝。

○花沢写真館・事務所
机に座っている一輝。
手に申込書を持っている。
申込書の氏名に森川優と書いてある。
申込書をじっと見つめる一輝。
一輝「もしかして・・」
小太郎の声「ただいま」
事務所に入ってくる小太郎。
小太郎はランドセルを背負っている。
小太郎「お客さん来てたの?珍しいね」
一輝「おかえり。なんでわかった?」
小太郎「・・気配?」
一輝「さっすが」
小太郎「応接室にお茶置きっぱなし。次のお
客さんは来ないだろうけど、片づけなよ。」
一輝「はいはい」
小太郎「いまはバカでも素人でも写真が撮れ
る時代だから、こんな古くさい写真館、ま
だある方が不思議だよ。おじさんが写真の
加工の仕事外注で貰ってきて食いつない
でるのは知ってるけどさ。」
一輝「うーんでも、あったほうがいいでしょ。
    ないより、こんな時代ですから。」
小太郎「小学生でも動画が作れる時代だから、
    僕がユーチューバーになって稼いで、おじ
さんとお母さんを楽にさせてあげるよ。だ
からカメラ、新しいの買いなよ。せめてイ
メージセンサーが裏面照射式のやつ」
一輝「頼もしいこってすなあ」
苦笑いする一輝。

○花沢家・茶の間(夕)
ちゃぶ台を囲んでごはんを食べている
一輝ときよと小太郎と花沢知佳(29)。
知佳「へえ、なんか強烈なお客さんだね」
一輝「実際さあ、遺影って何時撮るもんなの
かなあ」
きよ「撮りたいときに撮ればいいでしょ」
知佳「確かに私もあんまり皺くちゃは嫌かも」
一輝「なんかさ遺影っておじいちゃん、お
ばあちゃんの姿を見て癒されるって効能
ある気がするんだけど」
知佳「あるか?」
一輝「うーん、でもなんかなあ、あんまり
若いと遺影っぽくないというか」
小太郎「あの世では生前一番美しい姿で過
ごす説あるよ」
一輝「でも彼女にとって今が一番美しいか
はわかんないでしょ」
知佳「いいじゃん、その時はまた来て撮っ
て貰えば。商売商売。」
うなずく小太郎ときよ。

○花沢写真館・衣装室
優に振り袖を着せているきよ。
着付けの補助をしている知佳。
優「お・・私、振り袖着るの初めてなんです」
知佳「成人式のときは?」
優「その時はちょうど留学中だったので」
知佳「そうなんだ、じゃあよかったね」
腰紐をぐっと締めるきよ。
優「うっ!」
きよ「締めるよー」
知佳「おばあちゃん、言うのが遅いよ」
笑顔の優と知佳ときよ。

○花沢写真館・スタジオ
機材の準備をしている一輝。
スタジオに入ってくる優。
優に見とれる一輝。
撮影セットに立つ優。
写真を撮る一輝。
一輝「(ひとりごと)本当に女になったんだな」
撮影を見守る知佳ときよ。
笑顔でカメラを向ける優。

○花沢写真館・応接室
向かい合ってソファに座っている一輝
と優。
テーブルの上には撮影した振り袖姿の
優の写真。
優「すごい、きれいに撮れてる。」
一輝「ありがとうございます」
優「一輝、本当にプロになったんだね」
一輝「一応な」
優「迷ってたもんね。専門学校のとき」
 この写真館継ぐかどうか」
一輝「継ぐことをやたら進めてたのはおまえ
だろ」
優「だって俺ここ好きだもん」
一輝「俺」
優「いいじゃん、2人の時は」
にやりと笑う優。
優「気付かなかったでしょ。最初」
一輝「だって完全に女になってたし」
優「びっくりした?」
一輝「まあ・・」
優「手術が成功して、晴れて女になったら、
 一輝に写真撮って貰おうと思ってたんだ。
 せっかくだから、振り袖でさ。」
一輝「なんで遺影なんだよ」
優「いいでしょ。一番綺麗な姿を残すの」
一輝「これからもっと綺麗になるよ」
優「その時はまた撮ってもらう」
にっこり笑う優。
振り袖姿の優の写真。

○写真館・全景
スーツ姿の優の写真。

おしまい


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