【短編シナリオ】スタック・マッチ

マッチを積み上げるという(架空の)謎競技に運命的に巻き込まれた大学生の青春コメディです。スタック・マッチの試合では前半と後半の間にアフタヌーンティーがあります。

本科課題「マッチ」

タイトル:スタック・マッチ

【人物】
吉田由雄(よしお)(18)大学一年生
門松奈美(18)大学一年生
門松猛火(たけひ)(23)大学四年生・奈美の兄
門松諭火(さとひ)(43)奈美と猛火の父
吉田直樹(43)由雄の父


○吉田家・リビング(朝)
扉に向かって叫ぶ吉田由雄(18)
由雄「お父さん!俺もう大学行くよ」
寝ぼけた状態で部屋から出てくる吉田
直樹(43)。時計を見て驚く。
直樹「え?もうこんな時間?」
由雄「何回も起こしたよ。もう、しっかりし
てよ。いってきます。」
部屋を出る由雄。

○門松家・書斎(諭火の部屋)
部屋の中は薄暗い。
門松諭火(53)は椅子に座り、マッチ
箱をピラミッド状に積んでいる。
マッチ箱を凝視する諭火の真剣な表情。
諭火「あいつの息子か・・・」
扉をノックする音。
門松猛火(23)が扉を少し開け、顔を
のぞかせる。
猛火「父さん、母さんがアフタヌーンティに
しようって」
諭火「すぐ行く」
猛火「また戦略考えてるの?父さんも好きだ
ね。」
諭火「今年は必ず世界大会に行くぞ。その
ためにはあいつの息子を引き入れるんだ。
私が唯一天才と認めた男の息子をな。」
ため息をつく猛火。
猛火「はいはい。お茶が冷めるよ。」
積み上がったマッチ。

○大学構内・講堂
授業をしている大学教授。
退屈そうに授業を聞いている由雄。
由雄の斜め後ろに座り、由雄をみてい
る門松奈美(18)。

○大学構内・食堂
食堂は大学生でにぎわっている。
たくさんの大学生に混じり、文庫本を
読みながら一人で定食を食べる由雄。
お盆を持って歩いている奈美。
由雄の正面にお盆を置く奈美。
奈美「ここ、いいかな?」
少しだけ顔を上げる由雄。
由雄「どうぞ」
由雄の正面の席に座る奈美。
周りを見る由雄。
食堂には他にも空いている席がある。
奈美「なに読んでるの」
由雄「え?」
奈美「その本」
文庫本の表紙を奈美に見せる由雄。
表紙をのぞき込む奈美。
奈美「マッチ田康幸の君が住むマッチ?」
由雄「え?ああ」
怪訝そうな顔をする由雄。
奈美「おもしろい?」
由雄「べつに」
奈美「じゃあ、なんで読んでるの?」
由雄「妹が買ってきてて、家にあった。暇つ
ぶしにはなるよ。」
奈美「妹がいるんだ。私もお兄ちゃんいるよ。
同じ大学。四年生なんだけど卒業できなく
て二浪してるの」
由雄「ふうん」
奈美「吉田君は、部活とかサークルとか入っ
てないの?」
由雄「入ってないよ。」
奈美「バイトは?」
由雄「特には」
奈美「そっか」
にっこりと笑う奈美。
奈美「じゃあ、私行くね」
立ち上がる奈美。
由雄「ああ」
奈美「またね」
片手にお盆を持ち、片手で由雄に手を
振る奈美。
文庫本を読む由雄。
由雄「君の住むマッチ・・」
首をかしげる由雄。
由雄「なんで俺の名前・・」
奈美の笑い声が聞こえる。
奈美の方を見る由雄。
猛火と談笑している奈美。
由雄「なんだ彼氏持ちか」
文庫本を読む由雄。
由雄を見る猛火と奈美。

○大学構内・廊下
廊下を歩いている由雄。
大きな段ボールを持って、立っている
奈美。
真剣な奈美の表情。
駆け出す奈美。
歩く由雄、曲がり角にさしかかる。
曲がり角でぶつかる由雄と奈美。
宙に浮かぶ段ボール。
段ボールの中から大量のマッチ箱が飛
び出す。
床に散らばったマッチ箱。
しりもちをつく由雄。
下を向き、頭を押さえる由雄。
由雄「痛あ・・」
由雄をのぞき込む奈美。
奈美「ごめんなさい、大丈夫?」
由雄「ああ、すみません」
顔を上げる由雄。
奈美を見て驚く由雄。
由雄「あれ?さっきの・・」
床に散らばったマッチを見て驚く由雄。
由雄「なにこれ?」
奈美「マッチだよ」
由雄「マッチはわかるけど・・」
奈美「私、お兄ちゃんのクラブ手伝ってて、
競技で使うの。」
由雄「マッチ使う競技とか、聞いたことない」
奈美「聞いたことない?」
うなずく由雄。
奈美「じゃあ見に来る?どうせ暇でしょ」
由雄「暇だけど・・(奈美に聞こえないよう
に)なんか失礼だ」
立ち上がる由雄。

○大学構内・外
段ボールを持っている由雄。
由雄の前を歩いている奈美。
由雄「どこまで歩くの?」
奈美「もうすぐよ」
由雄「もう結構歩いたよ」
洋風の豪奢な建物がある。
建物は木々で覆われて、外からは見え
にくくなっている。
奈美「ここよ」
手のひらを建物の方に向ける奈美。
奈美「スタック・マッチクラブへようこそ。」
由雄「スタック・マッチクラブ・・?」
建物を見て、唖然とする由雄。

○スタックマッチクラブ部室・エントランス
由雄と奈美が建物に入ると、猛火がエ
ントランスに立っている。
由雄「あ」
猛火「ようこそ、我がスタックマッチクラブ
へ。私は奈美の兄の門松猛火。代表です。」
由雄「どうも」
おじぎをする由雄。
階段を上る由雄、奈美、猛火。

○スタックマッチクラブ部室・競技場
競技場には台が2つ、その横にテーブ
ルセットがある。
立っている由雄、奈美、猛火。
由雄「なんですか、ここ」
猛火「ここが、スタックマッチの競技室だ。」
由雄「そもそも、なんですか?その」
猛火「説明しよう」
プロジェクターの電源を入れる猛火。
壁に、スタックマッチの試合の様子が
映し出される。
猛火「簡単に言うと、2つのチームで競い、
この台の上によりたくさんのマッチをより
高く美しく積んだ方が勝ちだ。」
由雄「はあ」
ホワイトボードに図を書きながら競技
の説明をする猛火。
猛火「競技人数は5人。それぞれに役割があ
る。スタッカーと呼ばれるマッチを積む選
手が2人、敵がマッチを積むのを妨害する
アタッカーが1人、アタッカーの妨害から
味方のマッチを守るディフェンダーが1人、
他の4人を統率し指示を送るディレクター
が1人だ。」
猛火「競技時間は前半15分、30分間のア
フタヌーンティーをはさみ後半15分だ」
由雄「アフタヌーンティー長くないですか?」
猛火「英国王室に端を発した由緒正しきスポ
ーツだからな」
由雄「(猛火と奈美に聞こえないように)な
んか嘘くさい。」
猛火「いま部員が4人しかいなくて、あと一
人いないと試合に出れないんだ。力を貸し
てくれるな?由雄君」
由雄「え?俺入るなんて一言も」
猛火「勝ち進めば本場イギリスで開催される
世界大会に出場できるぞ。それに・・」
由雄「それに?」
猛火「君のお父さんは、大学在学中世界大会
の大学生の部を4回制覇した伝説のスタッ
カーなんだ」
由雄「え?」
奈美「お願い由雄くん」
由雄の肩をつかむ猛火。
由雄をみつめる奈美。
由雄の声「俺のキャンパスライフは、一体ど
うなるんだろう・・」
困惑した表情の由雄。

おしまい

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