小説「プロジェクト・ヘイル・メアリー」感想

 プロジェクト・ヘイル・メアリー読了。前評判どおりメチャクチャ面白くて、一日で最後まで読んでしまいました。恐ろしいことにこの小説、なんと全編にわたって一人称で書かれてるんですよ! 「恒星間航行およびファースト・コンタクト」みたいなスケールのSFなのに、「記憶喪失と現在・過去のザッピング」を駆使して一人称の視点を最後まで貫いている。「三人称は映像作品から逆輸入された邪道で、一人称の私小説こそがテキストの王道」という思想の持ち主である私にとって、これだけで100点の加点に値します。

 まるで良質な講義を受けているように、必要な情報が順に明かされてゆき、物語の終わりには「プロジェクト・ヘイル・メアリー」という単位の履修が終わっているーーそんな読後感を得ました。「自分のことしか考えていないヘタレが、すべての責任を預けられて世界を救う」のも大好きなモチーフで、次第に明かされていく主人公のヘタレ凡夫っぷりには、我が身に置きかえての深い共感を覚えます。ただ、一人称小説の避けがたい弱点を露呈している部分もあり、この作品が選んだエンディングの反対側にある、読者の多くが知りたいと思う情報がいっさい開示されないのは、わずかにカタルシスを減衰させていると感じました。

 ともあれ、同じ状況に置かれたら、何ひとつできないままウォッカでヤクを流しこみ、窒素を船体に充満させる死を選ぶだろうクソ文系人間に、数学・物理・化学・生物をちゃんと勉強しておけばよかったなと思わせるほどには、理系の学問について啓蒙してくれる作品でした。みなさん、良い大人としてプロジェクト・ヘイル・メアリーを積極的に中高生へ読ませて理系分野に目覚めさせ、「国際」や「グローバル」みたいな冠のついた文系学部をガンガン廃止していきましょう!

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