映画「マチェーテ」感想

 なぜ本邦では武力蜂起や革命が起きないかと申せば、やはり打倒すべき悪が明確ではないことが上げられましょう。本邦において悪の概念にもっとも近いのは、近視眼的な責任回避や生への倦怠から来る不作為に端を発した、善の不在なのです。じっさい近年、大局として求められる悪を積極的に行使するだれかはいませんでした。

 しかしながら、善の不在も長く続けば、それは悪へと変質する瞬間を持ちます。そのとき本邦に登場するマチェーテは、閾値を超えた連中の生き血に染まる、鉈(なた)という名前のセーラー服少女に間違いありません。彼女はあらゆる男性から理由なく好意を寄せられますが、行為に及ぼうとする者はすべて死にます。深夜アニメで制作された後、似ても似つかぬ新人アイドルで実写化され、封切り一ヶ月ほどでこのキャラクターには完全なる国民的忘却が与えられるでしょう。そして、その新人アイドルがアダルトビデオに出演するときに、ほんの少しだけ思い出されるでしょう。

 こうして、武力蜂起と革命の気概は若者の胸から、ごく小さな体積で莫大な吸収率を誇るサブカルという名のポリマーへことごとくに吸い取られ、結果、この世の悪は保持されるでしょう。

 諸君、これが文化の差と呼ばれるものだ。

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