映画「セイビング・ミスター・バンクス」感想
「私たちはみんな、子どもの心を持っている」。
創作の本質とは、与えられた呪いをいかにして普遍的な何かへと昇華できるかにある。男性向けフィクションにマザコンものが多いのに対して、女性向けフィクションにはファザコンものが少ない理由がわかった。
人生の早い段階で父親を亡くし、理想化された父親像を否定する時期を経なかった少女だけが、ファザコンものの語り手となりえるのだ。存命の父親が理想化されたまま成人を迎えるケースもあろうが、そうした人々は創作を行う内的必然性を持たないと思われる。そして雑に言えば、どちらにも当てはまらない女性のうち、母親との関係が良好ではない者たちがボーイズラブに向うのだろう。
話がだいぶそれたが、本作ではメリー・ポピンズが父親との葛藤にのみ依拠した作品であるように語られてしまっているので、いい映画であることに間違いないが、同作品への思い入れが強ければ強いほど反発は大きくなるのではないかと思った。強い思い入れを持たないはずの私だったが、軽い気持ちで視聴を始めたところ突然の重たいボディーブローをくらうこととなった。娘の視点から描かれる夢見がちな一人の社会不適合者の肖像は、アル中の諸君をいたたまれなくさせること、うけあいである。
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