ゲーム「ウィッチャー3」感想

 (純粋なまなざしで)小鳥猊下はスケベってどういう意味? (ギラギラした目で)それは性欲が強いということだ! 小鳥猊下であるッ!

 ええ、根がミーハーなので、やってますよ、ウィッチャー3。きっと、ゼノなんとかをこきおろすために本作へ言及するんだろうと気になって、つい出歯亀的にのぞきにきたんですよね。アハハ、そんな下品なことしませんよ! とりあえずの雑感だけ、お伝えしますね。最初のボスを倒すまでに感じていたのは、まるで「ソーサリー!」みたいだな、「魔法使いの丘」を冒険しているみたいだなということでした。ちょうど子供時分に漠然と頭のなかに抱いていたイメージが、目の前に具現化されるのを見るようでした。オープンワールドっていうと、物語より先に巨大な箱庭がドンとあって、バグも多いけど進行不能なものでなければだいたい許容されて、ゲーム性のバランス取りは最初から放棄されてて、気になるならファンサイドがMODで調整していいよって感じだったじゃないですか。でも、本作はオブリビオン時代のそういった丸投げから確実に進化している。同系統のゲームを研究対象として前提にしてるのが伝わってきて、スカイリムとドラゴンエイジがあったから、ウィッチャー3がこうなってるのがわかる。オープンワールド系ゲームは、成熟期にさしかかったのかもしれませんね。

 あと、これは言っておきたいんですが、ローカライズがとても素晴らしい。元のゲームは面白いはずなのに、ローカライズに愛が無くて止めてしまうことって、結構ありませんか。やる気がまるで、“消えかかった光”のようになっちゃうんですよね。おっと、遠回しの批判がまた皆様を不快にさせてしまうでござるよ! 人気商売、小生、人気商売でござった!

 で、ローカライズに言及するとハナから原語でやれよ、みたいにアオってくる方々がいますよね。実際わたしもアオる側の発言が多いように思いますが、正直なところを言いますね。元より対話の意志があったり、小金を持った客であったりする場合と、こちらを本気で殺してやろう、喰い物にしてやろうと相手が思っている場合では、言葉はその質を全く変えるでしょう。前者の状況なら外国語を用いてコミュニケーションを取れる人は少なくないように思いますが、後者の状況で負けない語学力を持つ方は実はそれほど多くありません。この意味でオープンワールドを真の体験として味わうには、母語によるローカライズが不可欠なのです。

 声の配役とか、翻訳のニュアンスとか、モブの反応とか、膨大な労力を必要とするわずかの違いを埋めるのは、オリジナルへの愛以外にはありません。ゲームは気難しい目利きの旦那方を相手にする、言わば嗜好品の商売だと意識して欲しいですね。

 ウィッチャー3、プレイ中。血まみれ男爵のクエストがひどく身につまされて、しばしコントローラーを置く。アル中のDV夫、繊細な偽善者、泥酔の末に妻を流産させながら、水子の霊へは涙を流す。我々はみんな赤ら顔の、酒を飲み過ぎた中年であり、自分を憐れむことさえ満足にできやしない。死にたくはないという理由で、後悔にまみれながら、ただ生きることを手放せない。

 血まみれ男爵が首を吊った。虚構の人物が死ぬことにショックを受けるのは、どのくらいぶりだろう。グイン・サーガで言えばユラニア三醜女のルビニアとか、いつでも過剰な耽溺を抱えたキャラに愛をおぼえる。だれだって等分に、まわりが思うよりはずっと繊細にちがいない。受け入れがたい現実を前にしたとき、それを変えることではなく逃げることを選ぶ弱さに、共鳴してしまう。

 サイドクエストのやめどきがわからず、ここ三日ほどノヴィグラドに滞在し続けている。それにしてもこの街、行ったはずのない城塞都市カーレを思い出させるなあ。

 猫ウィッチャー(猫ピッチャー的な絵柄でアクスィーの印を結びながら)! 小鳥猊下であるッ!

 ウィッチャー3をプレイしていて、JRPGが死のうが任天堂が変節しようが、もはやどうでもいい気分になってきた。三人の泥酔男が女物の服を着てかわやの猊下(猊下だ!)と対話する場面では久しぶりに声をあげて笑ったし、ケィアモルヘンで仲間たちとワイルドハントを迎え撃つ場面では久しぶりに鳥肌が立つほど気持ちが高ぶった。

  ウィッチャー3、ようやくクリアする。ウィッチャーの娘が女帝として国を継ぐだろうエンディングだった。別れの場面における演出は細かな感情の機微に富んでおり、本邦のモデリングが指向する二次元美少女の立体化では到達できない高みに届いていた。本邦の「萌え」なる文化は、人の世にある男女間のあらゆる機微を、それがたとえ父娘であったとしてさえ、すべて性交レベルへと貶める。もしこれが某ゼノセックスでの演出だったなら、ウィッチャーの娘は握ったこぶしを顎の下でチューリップ状に開きながら顔面を不必要にカメラへ近づけ、陰茎が股ぐらに収まったときみたいな声で頬を染め、巨大な眼球に淫水の如き濡れた質感を浮かべたに違いない。いや、いや、そうだった、もう忘れるんだった。JRPGのことはすっかり忘れて、いい映画を鑑賞した後のような余韻をかって、いましばらくこの世界を放浪しよう。

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