子プリ「すくらんぶる」(若枝あらうさん)を味わう

子年の歌人たちの『子プリ』、様々な個性が集った作品集です。
私は若枝あらうさんの連作に特に惹かれました。
この「すくらんぶる」は渋谷の街の風景が散りばめられています。その場所ごとの思いは人それぞれ、だけれども………渋谷に馴染みのある私はこの連作が胸に刺さってしまったので、私なりの感想をいくつか。
(※評ではなく個人の感想です)

★ひさかたのヒカリエいまだ慣れなくて離れたときの長さを思う
 以前あった東急文化会館を知っている私には、ヒカリエは完成後何年経ってもいまだに慣れないビルです。きっと主体もヒカリエ”以前”に思い出があるのでしょう。街の景色の中でも特に建物、ビルは記憶に深く結びつきます。

★うちひさす宮益坂はあの頃とさして変わらず僕に優しい
 ドラスティックに変わっていく渋谷の中にあっても、宮益坂は比較的昔と同じ様子をしていますね。渋谷駅からのじわじわとした勾配、”僕”の気持ちに沿った坂なのでしょう。たんたんと想いに耽りながらひとりで歩く男の人の背中を思い浮かべました。

★セルリアン忘れてないよ花細し桜丘に舞いあげた夢
 渋谷の中でもひときわ目立つセルリアンタワー、街の喧騒から少し外れた場所に凛とした姿で立っているビル。桜丘という地名ともあいまって夢を持っていた主体が目に浮かびます。舞い上げた夢、いまはどうなったのかしら?気になります。

★ラブホテル素通りをして白露の奥渋谷で飲み直そうか
 素通りしちゃうんだ!大人!というのが最初の印象。”飲み直す”ということは二人はどこかで飲んだ後、きっと歩いて坂を上っているところでしょう。手を繋いでるかも?しっとりとお酒とともに二人だけの親密な会話をする、憧れます。

この連作、それぞれの歌にうまく溶け込むような枕詞の選び方も素敵です。
素敵なお歌をありがとうございました! 
(ことり)

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