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「和と洋の響演 上下天光 其の参」

バリトン・ピアノ・篠笛・箏という不思議な4人組。
音楽の玉手箱を開けたかのように、きらめく曲が次から次へと現れて、目を離す、もとい、耳を離す隙もありません。
実は超絶技巧満載らしいのですが、それを全く感じさせず、さらりと演奏されている4人をみていて、以前パーカッショニストの會田瑞樹さんがおっしゃっていた言葉を思い出しました。
「音楽の下僕たれ」
まさに、音楽の下僕たる4人組です。
 
前半は、二人ずつの組み合わせで小さめの曲を6曲
シューベルトの「音楽に寄せて」
井上さんの優しい歌声と大谷さんの柔らかいピアノで、まず音楽に捧げられる感謝。
暖かい気持ちになり、この後の曲を聴く心が整いました。
 
金子さんの「月夜」
翌日の七夕にちなんで作曲されたという曲。
美しい箏の音が、柔らかな月の光と星の輝きを写し出し、清らかな篠笛が澄んだ夜空の空気を運んでくれます。
 
越谷達之助作曲「初恋」
ソプラノやテノール×ピアノでよく耳にするこの曲を、バリトン×二十五絃箏での演奏。
井上さんのバリトンはしっとりとして、切なさが身に迫ります。
 
野田暉行編曲「五木の子守歌」「浜辺の歌」
知っているはずの曲が、ものすごい現代音楽になっています。
がっつり「ザ・現代」をアピールすることも可能なのかもしれませんが、大谷さんのピアノはとても優しく柔らかくそれぞれの「歌」を歌ってくれます。その上を、澄川さん改め藤舍さんの篠笛が静かに静かに流れていきます。
 
語りと篠笛の「笛吹沼」
沼のほとりで笛を吹いた侍が、沼の主に見初められてしまう、哀しく切ないお話。
個人的にも、藤舍さんの笛の音は本当に好きなのですが、この曲の後、お願いだから沼のほとりでは、絶対に笛を吹かないでください、と切実にお伝えしたくなりました。
 
松本英明作曲「風の行方」
風が駆け抜ける疾走感のある曲。
大谷さんと金子さんの息の合った演奏は、二人で弾いているのに、しかも違う楽器を弾いているのに、一人で演奏しているような錯覚に陥りました。
この曲を、このお二人での演奏で聴けて、最高に気分が盛り上がったところで、第1部が終了となりました。
 
第2部は委嘱作品、歌物語「あこや姫」
山形県に伝わる伝説を元に、この4人で演奏できる作品を作っていただいたとのこと。
とても素晴らしかったです。
お話を紡ぐバリトンとピアノ。
楽器で対話をする箏と篠笛。
今までこの編成の楽曲がなかったのが不思議なくらい、4人の音が交差しながら、あこや姫の世界が目の前に織り上げられていきます。
とても美しいタペストリー。
この作品が生まれる瞬間に立ち会えた幸せに、心から感謝します。
 
会場の白金音楽堂は、木のぬくもりの暖かいこぢんまりとしたサロンホールでした。
ピアノはSHIGERU KAWAI。
一度生で聴いてみたかったこのピアノ。
柔らかい音が音楽堂にとてもよく合い、この場所で、大谷さんの優しい演奏で聴けて、最高の贅沢でした。
 
ただいま箏の波では「お箏は友達!」月間と称して、お箏を聴いてみよう、と皆様にお勧めしております。
お箏の金子さんは、常々虹色の音を出す奏者さんだと思っておりますが、今回も多彩な音を聴かせてくださいました。
お箏っていろんな音が出るんだよ、いろんな表情をみせてくれるんだよ、いろんな音楽を奏でてくれるんだよ。
まさにそんなことを、音で教えてくださり、ますます、もっともっとたくさんの方にこの音を聴いていただきたい、と強く感じました。
 
素敵なプログラム、素晴らしい演奏、心地のよい会場、この会を開催してくださったことを、関係者すべての皆様に心から御礼申し上げます。
七夕の空、25光年かけて届いた光を眺めながら、素晴らしい音楽に出会えた喜びをかみしめたいと思います。
 
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://kotonoha-1tw1.glide.page/dl/d0a5f4
 
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会場 白金音楽堂
日時 2024年7月6日(土) 14:30
歌/語り 井上雅人
ピアノ 大谷研人
篠笛 藤舍武史
箏・二十五絃箏 金子展寛
 
プログラム
第1部
歌×ピアノ シューベルト作曲 音楽に寄せて
篠笛×箏 金子展寛作曲 月夜
歌×二十五絃箏 越谷達之助作曲 初恋
篠笛×ピアノ 日本のメロディー(野田暉行編曲)より
 五木の子守歌 熊本県民謡
 浜辺の歌 成田為三作曲
語り×篠笛 ibuki作「山形県新庄市に伝わる三つの伝説」より
 笛吹沼
ピアノ×箏 松本英明作曲 風の行方
 
第2部
上下天光委嘱作品 歌物語《あこや姫》 初演
~バリトン(歌と語り)・篠笛・二十五絃箏・ピアノのための~
台本・作詞 佐藤万里 作曲 川崎絵都夫
 
アンコール
アヴェ・マリア
月夜

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