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「紀尾井町サロンホール木曜コンサート『和醸』」

文字通り、待ちに待った公演でした。
過去2回延期され、3度目に設定されたこの日も、開催が危ぶまれ、祈るような気持ちで当日を迎えました。
万全の対策をとって開催してくだった主催者さまと関係者のみなさまには、本当に、心より御礼申し上げます。
 
タイトルは「和醸 邦楽と洋楽が醸し出す和の世界へ」。
場所はアーク紀尾井町サロンホール。
こだわりの音響設計がされた、暖かみのあるサロンです。
通常は縦長に使用するスペースを、横長にアレンジしたことで、ステージエリアが一段と近く、パーティション越しでも、奏者の息づかいまでもがダイレクトに伝わってきます。
 
横笛の澄川武史さん、箏の金子展寛さん、バリトンの井上雅人さん、お三方それぞれの音色が絡み合って醸し出される、極上の贅沢空間に浸ることができました。
 
まずは日本の歌曲から「白月」と「うぐひす」
西洋風な内装のサロンが、一気に和の空間に置き換わり、叙情的な日本のメロディーが身に染みます。
今回は声楽をやっている友人と同席しました。
普段はイタリア歌曲が多いという彼女は、「白月」を自分でも歌いたいなあと、しきりにつぶやいていました。
「うぐひす」はバリトンの方が歌われることは滅多にない、とのことです。
柔らかい声で切々と繰り返される「うぐひす」が胸に迫りました。
 
続いて、二十五絃箏の「物云舞」と横笛と箏での「萌春」
「物云舞とは平安中期に興った歌いながら舞う歌舞の一様式」とのこと。
雅やかな旋律の中にも激しさがあり、何度聞いても引き込まれます。
「萌春」は尺八と箏の二重奏ですが、今回は尺八ではなく横笛で演奏されました。
尺八より透き通った軽やかな響きです。
萌えいずる春の情景、芽吹いたばかりの淡い緑が、春の光の中できらめく有様が目に浮かぶようでした。
 
後半は、バッハ=グノーの「アヴェ・マリア」から始まりました。
当日は都内でも雨風が激しい時間がありましたが、北陸から東北にかけては、その数日前からの豪雨で、大きな被害が発生していました。
世界情勢も不安定で、この演奏会自体の開催も危ぶまれるほど感染症が猛威を振るう日々。
祈りを込めて演奏されました。
歌に寄りそう二十五絃箏は、一見ハープのようにも聞こえますが、きらめく高音と暖かく豊かな低音、その中で揺れ動くうねりが、確かにこの楽器が「箏」であり「和楽器」である、ということを如実に物語っています。
 
「春と修羅」
当初予定に無かったプログラム。延期したおかげで聴くことが出来ました。
宮澤賢治の壮大な宇宙観そのままが、丁寧に描き出されます。
本当に大好きな曲で、こればかりは延期されたことに心から感謝します。
 
「荒城の月」
この曲には、広く歌われている山田耕筰編曲版とオリジナルの滝廉太郎版があるとのこと。
歌の前に、両版の半音やリズムの違いを実演で教えていただきました。
今回演奏されたのは、滝廉太郎版。
違いを意識して聴いてみると、自分の好みを改めて認識できて面白かったです。
 
語りと横笛による「神室の天狗」
バリトンの井上雅人さんと横笛の澄川武史は、Ibukiというユニットでも活躍されています。
井上さんのご出身地である、山形県新庄市の伝説を元に作られたのがこの作品とのことです。
神室山の天狗と、お寺の小僧さんのお話。
楽しいお話しの語りに合わせて、横笛が、場面ごとの音も光も空気も、すべてを巧みに表現してくれます。
ちょうどお二人が両側に立って演奏されたので、真ん中の空間に、無いはずのスクリーンが降りてきて、お話しの模様が上映されているような気分になりました。
とても楽しかったです。
 
「シパキラの想い出」
コロンビアに、岩塩採掘鉱山に作られた塩の教会があるそうです。
山田流箏曲家の高野喜長が、ここを訪れた想い出を元に作曲された曲とのこと。
こちらも祈りを込めて演奏されました。
低音の箏の、滲むような柔らかい音色が、洞窟の中に、優しく暖かく響いているかのように感じました。
 
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よく雅楽の楽器をたとえて、
笙は天から差し込む光、
篳篥は地にこだまする声、
龍笛は天地を駆ける龍の鳴き声
と言われます。
 
お三方の演奏は、まさに雅楽のようでした。
澄んだ音色の横笛は、天から差し込む光、
柔らかく響くバリトンは、地にこだまする声、
そして、龍にたとえられる箏は、まさにその天地を駆けて鳴く。
 
各地の災害、不安定な世界情勢、まだまだ収まらない感染症。
中止になる演奏会も多い中、こういうときだからこそ、やはり音楽は必要なのだとしみじみ思いました。
心に溜まる澱を、すべて洗い流してくれるような音色に包まれて、おかげさまで、また生きて行けそうです。
 
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
 
*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://gainful-butter-9171.glideapp.io/
 
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会場 紀尾井町サロンホール
日時 2022年8月4日(木) 18:30
プログラム・演奏
第一部 
『白月』三木露風 作詞 本居長世 作曲 
(井上雅人・澄川武史・金子展寛)
『うぐひす』(春夫の詩に拠る四つの無伴奏歌曲 より)佐藤春夫 作詞 早坂文雄 作曲
(井上雅人) 
『物云舞』伊福部昭 作曲 
(金子展寛)
『萌春』長澤勝俊 作曲
(澄川武史・金子展寛)

第二部 
『アヴェ・マリア』バッハ=グノー
(井上雅人・金子展寛)
『春と修羅〜声と二十五絃箏のために〜』宮沢賢治 原作/下野戸亜弓 作曲
(井上雅人・金子展寛)
『荒城の月』土井晩翠 作詞 瀧廉太郎 作曲 
(井上雅人・澄川武史)
語りと横笛による『神室の天狗』山形県新庄市の伝説より Ibuki編
(井上雅人・澄川武史)
『シパキラの想い出』高野喜長 作曲
(金子展寛)

アンコール
『宵待草』(井上雅人に献呈)竹久夢二 作詞 薮田翔一 作曲
(井上雅人・澄川武史・金子展寛)

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