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『ノックの音が』ーいつだってワクワクするその一行

星新一 『ノックの音が』講談社文庫(1972)

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「ノックの音がした」
から始まる15編のショートショート。
言わずと知れた名作。星新一作品は定期的に読みたくなる。

同じ一文から、全く違う結末に落ちて行くーその展開に引き込まれる訳ですが、改めてすごいな、と感じるのは、1970年代に書かれたものが、2019年の現代も色褪せない面白さだということ。流行に左右されない普遍的な価値観が土台に置かれていながら、その上に建つものは特殊な物語なのだから、引き込まれないわけがない。短い中に世界観がぎゅっと詰め込まれているのもすごい。
ショートショートは登場人物2人に焦点が当てられることが多い。その掛け合いが妙なのである。読者としては、どっちかにウラがある、とニヤニヤしながら読むのだが、最後の最後まで形勢逆転もありうるのだから気が抜けない。そして必ずしも勧善懲悪でもなく、因果応報でもないところに、人間のたくましさとずるさが魅力的に描かれるのだ。
ショートショート集の良いところはどこから読んでも良い、という点と、気に入ったものを何度も繰り返して読みやすい点、そして、短い乗り換えをする日にぴったりの点だろうか。続きが木になる物語も悪くないが、1話完結ですっきりして目的地へ着くのも悪くない。

15編中特にお気に入りの3編は「金色のピン」「しなやかな手」「人形」
「金色のピン」に関しては、真夏の暑い夜、という設定からの、最後の背筋がゾクっとする展開がいい。猿の手を彷彿させるラストだが、それ以上に、そのあとの女二人の空気感を思うとさらにホラー。一体どんな夜を過ごすのだろう。

「しなやかな手」は最後のどんでん返しが好きだ。「ほっそろとした色白の美人」な殺し屋が、ただの美人じゃない強かさをもつギャップ。策にハマってペラペラ喋って、手の平で転がされている、と思いきや、それすらも作戦だったのではと思うとまたもう一度冒頭から読み直したくなる。

「人形」はまさに星新一のショートショートらしい!と思う。なにもかも上手くいった!と安心させてからの、結末。別の星作品「おーい、でてこーい」を読んだ時の快感にも似た心地の良さ。そして、人間の浅ましさを浮き彫りにする描写。絶対あり得ないシチュエーションなのに、ファンタジーではなく、どこかにありそう、人知れずあるのかもしれない、と感じさせるのがすごい。


蛇足
結末分かっているのにドキドキしながら読んじゃう。
好きなショートショート作品は沢山あるんですが、いつもタイトルと収録された書名を忘れるんですよね。なので定期的に読み返すを繰り返す。

最後まで読んでくださってありがとうございます。