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忍者をPLANTと言っていいですか?

ここに投稿する文章を書く際にCollinsの辞書サイトをよく参照しているのですが、ページの右側に「Quick Word Challenge」というコーナーがあり、画像で示された物が英語で何というのか、4択のクイズが出されます。

ある野菜の画像が示されたことがありました。その野菜の英語での呼び名を私は知っているつもりでしたが、選択肢4つの中に無いのです。

消去法で1つに絞ることはできたのですが、その単語はつづりから察するにフランス語から入ってきたものだと思われ、フランス語的読み方をすると「オーベルジーヌ」になるだろうなと思いました。

時々テレビ番組で出演者達が弁当について話すことがありますよね。

スタジオで、あるいはロケ先でスタッフから提供される仕出し弁当、いわゆる「ロケ弁」です。

テレキャリアというサイトに『現役ADに聞いた!芸能人絶賛の『人気ロケ弁』ランキング~東京編~』というページがありまして、1~10位まで掲載されています。

「津多屋」「金兵衛」「鳥久」といった店名が連なっている中、7位に入ったのが「欧風カレー オーベルジーヌ」でした。

「オーベルジーヌ」とは

フランス語でaubergineは「茄子(なす)」のことです。

このお店のサイトを見ると、店名ロゴと共に茄子のイラストが描かれていますよ。

「L'aubergine se consomme cuite ou crue. Au Japon les « aubergines d'eau » (水ナス) sont préparées en tsukemono ou au sel.
(茄子は火を通しても、生(なま)でも食される。日本では水茄子という品種は漬物にしたり、塩を塗(まぶ)したりして調理される)」
ウィキペディア

英語はフランス語のつづりをそのまま採用しましたが、発音は英語風に[óubərdʒìːnオウバジーン]となりました。

「A Spanish dish called escalivada in Catalonia calls for strips of roasted aubergine, sweet pepper, onion, and tomato.(カタロニア地方でエスカリバダと呼ばれるスペイン料理に必要とされるのは、茄子、ピーマン、玉葱、トマトを細長く切って焼いたものである)」
ウィキペディア

(stripというのは「細長い切れ」の意味であり、また、「細長い土地」のことでもあり、「ガザ地区」が「the Gaza Strip」と呼ばれるのは、地図でその細長さを確認すれば納得いただけると思います)

元々はサンスクリット語であり、そこからペルシャ語⇒アラビア語と流れてきました。

アラビア語の定冠詞al-がくっついた状態でカタロニア語に入ってalbergíniaアルベルジニア、そして⇒フランス語⇒英語という旅をした言葉です。

アラビア語からは定冠詞が付いていない、素(す)の状態のものがポルトガル語に採用されてberingelaビリンジェラというつづりになり、それが更に英語にやってきて、brinjalブリンジャルとして英単語となりました。

これは英語圏の中でも主にインドやマレーシア、シンガポール、南アフリカで使われる言い方だそうです。

対してaubergineはイギリス風の呼び名です。

そして北米、オーストラリア、ニュー・ジーランド、フィリピンなどではeggplantとなります。

冒頭申し上げた、茄子の英語名として私が知っていた単語はこのeggplantであり、皆さんも恐らく同様ではないかと思います。

eggplant

見た目から判るように、これまで見てきたaubergineその他とは全く別系統の語です。

しかし、「卵」という言葉が入っているのは、我々が普段目にする茄子の実の形・色から考えて不思議です。

それは何故なのか、その答えは意外と簡単でした。

何でも元来は茄子の中でも、白くて卵形の品種にのみ適用された名前だったらしいです。

こちらの画像でご確認ください。これは確かにeggplantだと思うでしょう。

アメリカの歌手Michael Franksマイクル・フランクスの作品に、そのものずばり『Eggplant』(西暦1976年/昭和51年発表)という曲があります。

「And my baby cooks her eggplant about 19 different ways.
Sometimes I just have it raw with mayonnaise.
(そして僕の彼女は茄子を調理するのに約19通りの異なる方法を使う。
時々僕は茄子を生で、マヨネーズを付けて食べる)」

『Eggplant』
https://www.youtube.com/watch?v=ig5DPKktKtQ

(この曲でエレクトリック・ギターを弾いているのはLarry Carltonラリー・カールトンであるらしく、そう言われれば確かに彼の芸風です)

「約19通りの異なる方法」の中身は歌詞の中で語られていませんが、茄子が色々な食べ方をするのは以下のような理由であるらしいです。

「Eggplant is nutritionally low in macronutrient and micronutrient content, but the capability of the fruit to absorb oils and flavors into its flesh through cooking expands its use in the culinary arts.
(茄子は栄養的には多量栄養素・微量栄養素の含有量が少ないが、その実は調理すると油と風味を果肉内に吸収することができるので、幅広い料理法に使われる)」
ウィキペディア

plant

ついでにplantという単語も確認しておきましょう。

語源はこうです。

「ラテン語「(植えるのに)足で地面を平らにする」の意」
(研究社新英和中辞典)

「植える」

もちろん「植える」を意味します。

「We’ve planted tomatoes and carrots in the garden.
(我々はトマトとニンジンを庭に植えてある)」
(ロングマン現代英英辞典)

この例文では「何を植えるのか」が直接目的語、「どこに植えるのか」が前置詞inの句で表されています。

一方、次のような組み立て方の使い方もあります。

「She planted her garden with tulips.
彼女は庭にチューリップを植えた」
(研究社新英和中辞典)

直接目的語は「植えるという行為で作用を及ぼされる場」、withの句は「何を材として植えるのか」となります。

このタイプの使い方の場合、その「場」全体がそうなっているという含みがあるので、この例文なら「庭一面に植えた」というニュアンスになります。

受動態では当然、「場」が主語になります。

「The ground was planted over with violet flowers.
スミレの花が一面に咲いていた」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

比喩的に「植え付ける」という文もありえます。

「plant an idea [doubt] in a person's mind
人の心に思想[疑念]を植えつける」(同)

また、「植民」も「植える」です。

「plant settlers in a colony
移民を植民地に住まわせる」
(研究社新英和中辞典)

「植える」系の訳語にならないタイプ

「場」に対して何らかの作用を及ぼす行為の中で、必ずしも「植える」ことに関係の無い使い方を見ましょう。

まずは単なる「置く」とか、「据える」という感じの用法。

「plant a pole in the ground
地面に柱を立てる」(同)

何らかの悪意を抱いて「置く」、つまり「仕掛ける」「隠し入れる」ことも言います。

「Two men are accused of planting a bomb on the plane.
(2人の男が、その飛行機に爆弾を仕掛けた廉(かど)で告訴されている)」
(ロングマン現代英英辞典)

「The pickpocket planted the wallet on a passerby.
すりはその財布を通行人のポケットに入れた
plant a spy in the gang
ギャングの一味にスパイを忍び込ませる」
(研究社新英和中辞典)

(「忍び込ませる」と言えば忍者のことも想起しますが、忍者を「草」とも呼ぶのが、洋の東西という観点から興味深いです)

次の2つの用法は「打つ」感じでしょうか。

「plant one's fist in a person's belly
人の腹にこぶしを打ち込む
He planted a kiss on her cheek.
彼は彼女のほほにキスをした」(同)

「拳」「接吻」が作用であり、前置詞in/onで導かれた「腹」「頬」が場です。

機械系のplant

「植物」以外の名詞用法で、「置かれた物」の延長線上にあるのが機械的なものを言う用法です。

「an air-conditioning plant
空気調節装置
invest in new plant
新しい施設に投資する
a manufacturing plant
製造工場.
a nuclear power plant
原子力発電所」
(研究社新英和中辞典)

ご覧のように「装置、機械一式」「生産設備」「工場」といった意味合いになります。

我が国では日揮(にっき)という会社が、生産設備を作る企業として有名です。

「エンジニアリング会社の日本最大手企業。主な業務は、「製品を作る製造設備を造る事」である。製造設備の内訳は、石油精製プラント、石油化学・化学プラント、LNGプラント、天然ガス処理プラント等である」
ウィキペディア

同じことを言っている、ウィキペディア英語版はこうです。

「The company is a leading engineering company in Japan. Their main business is "building manufacturing facilities to make products." These manufacturing facilities include oil refineries, petrochemical and chemical plants, LNG plants, and natural gas processing plants.」

plantation

plantと同源のplantationという言葉は単なる「植林地」を指すこともありますが、学校で習った「プランテーション」、すなわち「大規模農園」も意味します。

「プランテーション(plantation)とは、熱帯、亜熱帯地域の広大な農地に大量の資本を投入し、国際的に取引価値の高い単一作物を大量に栽培する(モノカルチャー)大規模農園またはその手法をさす」
ウィキペディア

「a coffee [rubber, sugar] plantation
コーヒー[ゴム, 砂糖]栽培場[園]」
(研究社新英和中辞典)

implant

接頭辞の付いたimplantもplantと一部の意味が似ています。思想を「植え付ける」とか、物を「据える」といった用法です。

「He implanted these ideas in their minds.
彼は彼らの心にこれらの思想を植えつけた
implant a fence post in the ground
垣根の柱を地中に埋め込む」(同)

医学用語としては歯の「インプラント」が有名ですが、もっと広い範囲を指す言葉です。

「《移植の意》臓器が疾病や外傷によって機能を喪失したり欠損したりした場合、その機能を回復させるため生体内に埋め込む器具や材料のこと」
(小学館デジタル大辞泉)

「An implant is a medical device manufactured to replace a missing biological structure, support a damaged biological structure, or enhance an existing biological structure.
(インプラントとは医療器具の一種であり、欠けている生体構造を置き換える、損傷した生体構造を支える、現存の生体構造を機能向上させる、といった目的で製造される医療器具である)
For example, an implant may be a rod, used to strengthen weak bones.
(例えば、インプラントは細くて真っ直ぐな棒であることもあり、それは弱い骨を強化するのに使われる)
Medical implants are human-made devices, in contrast to a transplant, which is a transplanted biomedical tissue.
(医療インプラントは人工の器具であり、対してトランスプラントとは移植された生体組織である)」
ウィキペディア

プランタジネット朝

世界史で習う、イングランドの王朝の1つである「プランタジネット朝」。

(我が国の時間軸で言えば、平清盛が平氏一門の棟梁となった辺りから、足利義満の金閣が出来たくらいの時代に当たります)

歴代の王様の中で名の知れているのは、「Richard the Lionheart獅子心王」と呼ばれたRichard Iリチャード1世や、「John Lackland欠地王」という有り難くない仇名を頂戴したJohnジョン王でしょうか。

また、出来事としてはthe Hundred Years' War百年戦争がこの王朝の時代に起こりました。

英語ではPlantagenetというつづりですが、これの前半部分はplantと同源です。

「ヘンリー2世の父アンジュ―伯ジェフリー(ジョフロア)がエニシダ(ラテン語プランタ・ゲニスタplanta genista)の小枝を冑(かぶと)に挿していたことに由来する」
(日本大百科全書)

clan

英単語clanは、「子孫」を意味するアイルランド語スコットランド・ゲール語の単語を借用したものですが、それらの言語にはラテン語のplantaから入ってきたので、plantと語源を同じくする言葉ということになります。

「The whole clan will be here over Christmas.
(その大家族は親戚一同でクリスマスの間中ここに来る)」
(ロングマン現代英英辞典)

この例文のように「大家族」という意味で使われることもありますが、元々は「氏族」「一族、一門」のことです。

植物も一族も、枝分かれしていくという共通点がありますね。

さて、この言葉は我が国の歴史を語るときに利用することができます。

The outer clan rebelled and brought the shogunate down.
外様大名が反乱を起こし将軍を倒した」
(大修館書店ジーニアス英和大辞典)

The Shimazu clan (Japanese: 島津氏, Hepburn: Shimazu-shi) were the daimyō of the Satsuma han, which spread over Satsuma, Ōsumi and Hyūga provinces in Japan.
島津氏は、日本の薩摩、大隅、日向地方に亘(わた)っていた薩摩藩の大名であった)」
ウィキペディア

そしてプランタジネット家もclanの一つと言えます。

Plantagenet Kings were thus the richest clan in Europe and ruled England and half of France.」
(プランタジネットの王達はそれ故、ヨーロッパで最も富裕な一族であり、イングランド、そしてフランス半分を支配していた)」
History of Englandというサイトより)

偶然にも、1つの文の中に語源を同じくする単語が2つ並んだわけです。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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