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ROAD to Paris

恐らく結構有名な動画だと思われるのですが、イギリスのコメディアンMichael McIntyreマイクル・マッキンタイアが「アメリカ人達は英語が分かっちゃいねぇ」ということで、イギリス英語に比べてアメリカ英語は説明調だと指摘して笑いを誘っています。

『Americans Don't Understand English | The Jonathan Ross Show』
https://www.youtube.com/watch?v=5wSw3IWRJa0

これがオリジナルであり、字幕を出す設定にすれば自動生成の英語かノルウェー語が表示されます。

それに日本語字幕が付けられたのが次の動画です。

『イギリス英語を理解できなかったアメリカ人 (Americans Don't Understand English - The Jonathan Ross Show)』
https://www.youtube.com/watch?v=aRAKokaOG4Y

幾つかの例を述べた後、「乗馬」について、イギリス人がhorseridingというところをアメリカ人は、「馬のどこに乗るのかはっきりさせるために」horseback ridingと呼ぶのだと指摘します。

私はhorseback ridingの方を英語学習において先に知ったので、日本語で「乗馬」と言うのに対して英語では「馬の背乗り」なのか、と思ったものですが、何のことはない「英」語でも「乗馬」的な表現でよかったわけです。

今回はrideを出発地点として進んでいきましょう。

ride

「乗る」1:跨がって、自分で動かす

ご存じの通り、馬や自転車、オートバイなどに跨がって自分で操作することに関して使います。

「From an early age, Queen Elizabeth II took a keen interest in horses.(中略)
In her role as monarch, Elizabeth also【rode】in a ceremonial role.(中略)
Initially, she【rode】《a bay police horse named Tommy》 in 1947. When her father, King George VI, was unwell, she【rode】in his place《on his chestnut horse Winston》, and she【rode】《Winston》after George VI's death.
(幼少期からエリザベス2世女王は馬に強い関心を抱いた。
君主としての役割の中でエリザベスはまた、儀式的役割を果たすべく乗馬した。
初め彼女は西暦1947年にトミーという名の港湾警察の馬に乗っていた。父親のジョージ6世王の体調が悪かった時、代わりに彼女は父の栗毛の馬ウィンストンに跨がった。そしてジョージ6世の死後はウィンストンに乗っていた)」
ウィキペディア;【 】《 》は引用者が付けた、以降同様)

ここには【rode】が4回登場しますが、1つ目(自動詞用法)では「何に乗る」かは明示されていない状態で「乗馬する」ことを表しています。

一方2つ目~4つ目では《馬》が明示されるのですが、2・4と違って3には前置詞onがあります。

違うやり方をしているということは、表現したいことに違いがあるのだと考えて、こんな風に推測してみました。

すなわち、3だけ「父王の体調が悪いとき」という「臨時のこと」であり、一方2・4は「普段」からその馬に乗ることになっている、といった違いです。

ところで、アメリカの歌手Christopher Crossクリストファー・クロースの出世作『Ride Like the Wind』(西暦1979年/昭和54年発表)は、悪人が刑を免れるために国外逃亡をはかろうと、メキシコとの国境までの長い道のりを、寝る暇もなく「風のようにrideする」という話です。

これはまあ、馬ではなくてオートバイに乗っているのでしょう。

アメリカの音楽プロデューサーであるRick Beatoリック・ビアートウがこの曲について以下の動画を投稿しています。

『The Greatest Guitar Solo You Can’t HEAR!』
https://www.youtube.com/watch?v=j8VwP5iEr1g

ここで言っている「聞こえない」とは、ミキシングされた結果の音量が他の楽器・音声に比べてさほど大きくないので、埋もれてしまっているということです。

この曲のギター・ソロはクロース自身が弾いています。

「Cross had originally wanted a session guitarist to play the solo, but Omartian insisted that Cross play it himself.
(クロースは当初このソロを誰かセッション・ギタリストに弾いてもらいたかったのだが、(プロデューサーのマイクル・)オウマーティアンはそれをクロース自身が弾くように強く主張した)」
ウィキペディア

この曲の収められているデビュー・アルバムでは他の曲でLarry Carltonラリー・カールトン、Jay Graydonジェイ・グレイドン、Eric Johnsonエリック・ジョンスンといった超一流の奏者が演奏しているので、クロースがそういった人々に頼もうとするのも理解できます。

しかし、この曲のソロを聴いて分かるように、クロースもちゃんとした腕前を持つギタリストです。

オウマーティアンのコネでSteely Danスティーリー・ダンの2人がクロースに彼らのアルバムで弾いてくれないかと依頼したという事実からも、並みの演奏力ではないことが伺えます。

何しろスティーリー・ダンと言えば、先程名前の挙がったカールトンやグレイドンなどの凄腕を多数集めて高度な音楽を作り上げていくことで有名です。

もっとも、クロースは怖気づいてしまって辞退したそうですが。

ちなみに、プロデューサーMichael Omartianマイクル・オウマーティアンは凄い経歴の持ち主です。

「グラミー賞を受賞したクリストファー・クロスのデビュー・アルバム/シングルをはじめ、ホイットニー・ヒューストン、マイケル・ボルトン、ピーター・セテラ等、数々のアーティストのプロデューサーとして有名。「ウィ・アー・ザ・ワールド」では、クインシー・ジョーンズと共同でプロデュースを担当している」
ウィキペディア

スティーリー・ダンの音楽について関心のある方は、ビアートウがオウマーティアンにインタビューしているのでご覧ください。

『Michael Omartian: One of the Unsung Giants of Music』
https://www.youtube.com/watch?v=M-fEKf3Av3c

「乗る」2:乗客になる

この場合は自動車、鉄道、あるいはエレベーターなども対象になります。

「ride (on) the bus [the train] (to the airport)
(空港へ)バス[列車]で行く
ride (in) the elevator
エレベーターに乗る」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「乗る」3:流れに乗る⇒「浮かぶ」

「seagulls riding (on) the air currents
気流に乗っているカモメ
surfers riding (on) the waves
波乗りをしているサーファー
The moon was riding high in the sky.
月は空高くかかっていた」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「乗る」4:比喩的に馬乗りになる⇒「圧迫して苦しめる」

「He's ridden by doubts [prejudices].
彼は疑惑[偏見]にとらわれている

「It is a waste of time expecting a poor debt-ridden country to produce the framework that will solve poverty.
(貧しくて負債に苦しむ国が、貧困を解決するような枠組みを生み出すと期待するのは時間の浪費だ)」
(Hansard archive)

「乗る」のは誰?

「Chris has been very fond of the horse for a long time, he rides very well and I certainly wouldn’t have agreed if it was a different rider.
(クリスはその馬を長い間とても気に入っており、乗馬技術が優れていて、もしも別の騎手なら私は間違いなく同意しなかっただろう)」
https://www.horseandhound.co.uk/news/chris-burton-aiming-for-paris-2024-with-ben-hobdays-shadow-man-852615#:~:text=a%20long%20time%2C-,he%20rides%20very%20well,-and%20I%20certainly

これはイギリスの騎手Ben Hobdayベン・ホブデイが雑誌「Horse & Hound」に語った言葉です。

彼の所有する馬「Shadow Man」をオーストラリア人騎手Chris(Christopher)Burtonクリス・バートンに貸与するという件を語ったもので、バートンはその馬で現在オリンピックに出場中です。

さてここでのridesの主語heはもちろん人間バートンですが、自動詞用法のrideには「乗る人」以外のものが主語になる場合があります。

「He’s got an old head on young shoulders. He’s got a brain on him and that’s half the battle. He didn’t panic, he showed a lot of maturity, he’s very well-balanced and he rides very well.
(彼は、若者の肩に老人の頭が乗っかっているみたいに、年齢に見合わずしっかりしている。彼は頭脳があるので勝負の前から半分勝ったも同然だ。彼は慌てふためかなかった。彼は十分成熟しているところを見せた。彼はとてもバランスが取れていて◆◆◆◆◆◆)」
https://www.theguardian.com/sport/2014/sep/19/richard-hughes-newbury-treble-jockeys-title-race#:~:text=well%2Dbalanced%20and-,he%20rides%20very%20well,-.%E2%80%9D

これはイギリスの新聞「the Guardian」の記事の一部ですが、この引用部分だけを読むと「彼」を騎手のことだとみなして、最後の「he rides very well」を先程の文と同じく「乗馬技術が優れている」と解釈しようかという気になります。

しかしこれは調教師が馬について語っているもので、現在時制の所はその馬の性質を、過去時制の所はその馬が出場したある競走での様子を述べたものです。

rideという行為に関してその主語(馬などの乗り物)が持っている性質「人間が乗る際の容易さ/人間が感じる乗り心地」を語る自動詞用法であり、それがwellだということは「乗りやすい」「乗り心地が良い」という日本語に当たります。

ですから「he’s very well-balanced and he rides very well」は「その馬はとてもバランスが取れていて非常に乗りやすい」となります。

road

rideと同様に「R + 母音 + D」という構成になっている言葉「road」は、語源的にもrideと繋がりがあります。

「原義は「馬で行くこと」→「旅」→「道」」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

目的地に至る物理的な「道路」

もちろん「道路」のことで、streetと区別して使う時は集落と集落をつなぐ道、都市間の道路を指します。

(都市内部の「街路」がstreet)

「We took the wrong road.
我々は道を間違えた
This road is always jammed with cars.
この道路はいつも車で込んでいる」
(研究社新英和中辞典)

「on the road」は、単純には「道路上で」となりますが、次のような場面ではどうでしょうか。

「The same hotel, the same old room
I'm on the road again」

これはアメリカのバンドJourneyジャーニーの曲『Send Her My Love』(西暦1983年/昭和58年発表)の一節です。

バンドが各地をコンサートでまわっている際の心情を語っていると考えるならば、このon the roadは「巡業中で」という意味になるでしょう。

「同じホテル、同じ馴染みの部屋
またツアーに出ている」

尚、この曲のギター・ソロについて、リック・ビアートウは「完璧なソロ」と称賛し、その理由を解説する動画を上げています。

『Why Neal Schon’s “Send Her My Love” Solo Is Perfect』
https://www.youtube.com/watch?v=HtgvZreimGI

目的に行き着く(達成する)ための「道」

「road to Paris」は物理的に「パリに至る道」であるとも、「パリで開催されるオリンピックに出場するための道」を意味するとも、文脈によっては受け取れます。

有名な「ローマへの道」についての諺(ことわざ)はむしろ後者です。

「【All roads】lead《to Rome》.
((諺))すべての道はローマに通ず
(◇手段・方法が異なっても結論がほぼ同じ)」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

roadはゲルマン語系統の言葉ですが、この諺のドイツ語版では別の単語Weg(の複数形Wege)を使います。これは英語wayと同源です。

【Alle Wege】führen《nach Rom》.

イタリア語版はこうです。

【Tutte le strade】portano《a Roma》.

stradeはstradaの複数形ですが、stradaは英語streetと同源です。

スペイン語版とフランス語版で使われる「道」は相互に同源の言葉です。

西:【Todos los caminos】llevan《a Roma》.
仏:【Tous les chemins】mènent《à Rome》.

(caminos/cheminsは複数形であり、それぞれsを取ったものが基本形です)

raid

rideやroadと語源的つながりのある英単語raidを見ましょう。

「古期英語「馬に乗ること」→「馬に乗っての攻撃」の意」
(研究社新英和中辞典)

「急襲(する)」などの意味で名詞用法/動詞用法があります。

「make a raid on the enemy lines
敵陣を急襲する」(同)

「Thieves raided a jewelry shop.
窃盗団が宝石店に押し入った」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

air raidなら「空襲」となります。

「Air raid sirens and explosions were heard across Israel during Iran’s drone and missile attack.
(空襲警報と爆発音が、イランによる無人機・ミサイル攻撃の間、イスラエルのあちらこちらで聞かれた)」
https://japannews.yomiuri.co.jp/world/wider-world/20240415-180601/

raidと無関係のRAID

コンピューター関連の専門用語としてRAIDというのがあります。

「redundant array of inexpensive [independent] disks
低価格[独立]ディスク冗長アレイ,レイド
(◇複数のハードディスクを組み合わせて仮想的な1つのハードディスクとして運用するシステム)」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

やり方が何種類かあり、全体のデータを分割して別のディスクに記録する方法(ストライピング)や、全体のデータを全体として別のディスクに、同じものを記録する方法(ミラーリング)方法などがあります。

興味のある方はこちらの動画で大まかなところを把握してください。

『RAID(RAID0、RAID1、RAID5)とは』
https://www.youtube.com/watch?v=Hnp4wVbBCHc

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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