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暁を覚えぬSPRINGの眠り、SPRINGの効いたベッドからSPRINGする思い切り

「スプリングドライブ」とは一見、「春になって暖かくなってきたし、車で遠出しようか」的な言葉に思えますが、決してそうではありません。

時計に関心のある方なら聞いたことがあると思いますが、針のあるタイプの腕時計を動かす方式の1つであり、「機械式」と「クォーツ式」のハイブリッドのようなものです。

「機械式ムーブメントに水晶振動子を使用した電子的な調速機構を組み込み、動力源と発電源に自動巻きで巻き上げたぜんまいを使用しながらクォーツ時計と同等の高精度を実現したものである。このため機械式調速機構で使用されるテンプや、クォーツ時計で使用される電池が不要である。」
ウィキペディア

動画で図を描きながら簡単な解説を行っている方がいらっしゃいますので、こちらをご覧ください。

『自動巻、クオーツ、スプリングドライブについて』
https://www.youtube.com/watch?v=mQe0wBToyvs

冒頭のような誤解が生じる余地があるのは、「スプリング」という言葉が「春」「ぜんまい、ばね」両方の意味を持っているからです。

日本語としては全く係わりの無い両者が、英語では繋がっている、その辺りの経緯(いきさつ)を確認していきましょう。

英語spring

急にすばやく動く

springには動詞用法として「急にすばやく動く」の意味があります。

「"Granny, what large teeth you have!"
"The better to eat you up."
And saying this, the wolf sprang out of the bed, and in an instant devoured Little Red Riding Hood.
(「おばあちゃん、おばあちゃんの歯はなんて大きいのかしら」
「お前をすっかり食べてしまうのに、それだけ都合がいいのさ」
こう言うとオオカミはベッドから跳ね起きて、たちまち赤ずきんを貪(むさぼ)り食いました)」

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尚、このようなjump的な動作は、同源のドイツ語springenシュプリングンも担当範囲とするようです。

「aus dem Bett springen
ベッドから跳び下りる」
(小学館プログレッシブ独和辞典)
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さて、「急にすばやく」状態が変化することを表す動詞用法が以下の例文です。

「spring into [to] fame
一躍有名になる
He sprang into a rage.
彼は突然激怒した」
(研究社新英和中辞典)

「ばね」

また、「跳ね返る」というのも「急にすばやく」な動きです。

「The lid sprang to.
ふたがパタンと閉まった
The doors sprang open [shut].
ドアがぱっと開いた[閉じた]」
(研究社新英和中辞典)

こうした動きは「ばね」によって生じることもしばしばです。

ですから名詞springにはそのような意味があります。

「A coil spring is a mechanical device which is typically used to store energy and subsequently release it, to absorb shock, or to maintain a force between contacting surfaces.
(弦(つる)巻きばねとは、エネルギーを蓄えて後でそのエネルギーを放出する、衝撃を吸収する、接触する面と面の間の力を保つ、といった使われ方が典型的なものである機械部品)」
ウィキペディア

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尚、ドイツ語で「ばね」は、springenに関係の無いFederフィーダという単語が担当します。

むしろFederは英語のfeatherと同源なので、「羽根」とか「万年筆のペン先」という意味もあります。
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ばねがもたらす「弾性」にも通じます。

「There's not enough spring in this bed.
このベッドは弾力が足りない」
(研究社新英和中辞典)

ところで、「ばね」を漢字で書くと「撥条」あるいは「発条」ですが、「日本発条(にっぽんはつじょう)株式会社」という企業をご存知でしょうか。

「自動車の懸架ばねで世界シェア第1位。その他エンジンや伝達系などの重要部品に関わるばね部品、シート他内装部品を製造している。精密部品分野にも進出し、特にハードディスクドライブの磁気ヘッド用サスペンションでも世界シェア第1位。」
ウィキペディア

同社のサイトによると「ばね」は「跳ねる」を語源とするとのこと。

「「ばね」の語源は「跳ねること」が訛って濁ったもの、というのが『大言海』や『日本国語大辞典』の解釈である。」

尚、この会社の商標、英語名は「NHK」ですが、「日本放送協会」よりも設立が先なので問題は無く、むしろ許可を出してやった立場にあります。

略称は、以前の投稿『CURVEと「カーブ」』に登場した「ニ沢球技場」の「ニッパツ」であり、平成20年から命名権を持っています。

「湧き出る」ものと言えば

色々なものが急に「湧き出る」こともspringで表せます。

「Tears sprang up in her eyes [sprang to her eyes].
彼女の目に涙が浮かんだ
A hot, dry wind sprang up in the afternoon.
暑い乾いた風が午後になって起こった」
(研究社新英和中辞典)

液体が湧き出すといえば「泉」です。

「The chemistry of hot springs ranges from acid sulfate springs with a pH as low as 0.8, to alkaline chloride springs saturated with silica, to bicarbonate springs saturated with carbon dioxide and carbonate minerals.
(温泉の化学的性質は、pHが0.8もの低さの酸性の硫酸塩泉から、シリカで飽和したアルカリ性の塩化物泉、二酸化炭素や炭酸塩鉱物で飽和した重曹泉まで、様々である」
ウィキペディア

比喩的な「源」をも意味します。

「the spring of Western civilization
西欧文明の起源」
(研究社新英和中辞典)

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尚、ドイツ語で「泉」は、springenに関係の無いQuelleクヴェレという単語が担当します。

こちらにも「源」という意味があるので、英語のsourceにも通じます。
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血筋に関して使って、「▲▲の出(で)である」を表すことができます。

「The young man springs from royal stock.
その若者は王家の出である」(同)

offをくっ付けたoffspringという名詞は「子」という意味になります。

「“Is this your only offspring?"—“No, we have three other offspring."
「こちらはあなたの一人っ子さんですか」「いいえ, ほかにまだ 3 人います」」(同)

「芽を出す」から…

水が湧き出るのと似た感覚だと思いますが、植物の「芽が出る」「生える」もspringはカバーする範囲としています。

「Weeds spring up after rain.
雑草はひと雨降ると芽を出す」(同)

「植物が芽を出す時期」として「春」を意味するようになりました。

「Though three of the concerti are wholly original, the first, "Spring", borrows patterns from a sinfonia in the first act of Vivaldi's contemporaneous opera Il Giustino.
(その複数の協奏曲の内の3つは完全に独自作品であるが、最初の協奏曲《春》は、ヴィヴァールディの同時代のオペラ《イル・ジュスティーノ》の第1幕にある序曲から型を借用している)」
ウィキペディア

そして「青春」も表します。

「in the spring of life
人生の春に, 青春期に」
(研究社新英和中辞典)

尚、ドイツ語で「春」は…

springenに関係の無いFrühjahrフリューヤールとか、Frühlingフリユーリングが担当します。

「Es wird Frühling.
春になる
seinen zweiten Frühling erleben
第二の青春を味わう」
(小学館プログレッシブ独和辞典)

FrühjahrもFrühlingも、前半の要素frühは英語のearlyに相当する言葉ですから、1年の「早い」時期であるという理由でそう呼ばれるのだと言えるでしょう。

一方フランス語では

フランス語の「春」=printempsプランタンは「最初の季節」という成り立ちの言葉です。

前半の要素prinが英語primeと同源であり、後半の要素tempsが時/季節です。

(以前の投稿『あなたの周りに潜むPRIMEとその一味』をご参照ください)

「Ce jardin est célèbre pour ses fleurs au printemps.
その庭園は春の花で有名だ」
(小学館プログレッシブ 仏和辞典)

やはり「青春」も守備範囲に入っています。

「au printemps de la vie
青春時代に」(同)

一方その頃スペイン、イタリアでは

スペイン語

そもそもラテン語で「春」はverという単語でした。

そこにprime的な要素が加わって、言わば「早春」を意味する言葉として作られた言葉が、現代スペイン語ではprimaveraプリマベラという形になっています。

我が国では春夏秋冬に「梅雨」を加えて「五季」にしてもいいような気もしますが、スペインではかつて呼称の上で「五季」であったようですよ。

「近世初頭までの季節区分は
primavera「早春」,
verano「春・初夏」,
estío「(夏至以降の)夏」,
otoño「秋」,
invierno「冬」」
(小学館西和中辞典)

2つ目のveranoベラノがラテン語ver(春)の正統後継者ではあるものの、現代では「夏」を表す一般語となっており、estíoエスティオは固い文章語として使われるようです。

「La primavera es una de las cuatro estaciones del año, sigue al invierno y precede al verano.
(春は1年の四季の内の1つであり、冬に続き、夏の前にある)」
ウィキペディア

「青春」という意味もやっぱりありました。

「en la primavera de la vida
若い盛りに」
(小学館西和中辞典)

イタリア語

イタリア語のprimaveraプリマヴェーラも同様に「早春」だったものが、現代では「春」のことになっています。

「La primavera è una delle quattro stagioni in cui si divide l'anno; viene dopo l'inverno e precede l'estate.
(春は1年が区分される四季の内の1つであり、冬の後にやってきて夏の前にある)」
ウィキペディア

「青春」という意味もやっぱりありました。

「La giovinezza è la primavera della vita.
青春は人生の春である」
(小学館伊和中辞典)

形容詞形

「春の」という形容詞を調べるとprimaveraを基にしたprimaveralプリマベラル(西)、primaverileプリマヴェリーレ(伊)となるようです。

一方ラテン語の春verから直接出来た形容詞もあって、スペイン語vernalベルナルとイタリア語vernaleヴェルナーレですが、こちらのグループの形容詞は「文章語」とか「古語」という扱いになっています。

英語vernal

英語にもこのver由来の方の形容詞、vernalが入ってきています。

「春分」をvernal equinoxと言うように、科学的な用語として使うか、以下の例文のごとく詩的な言葉として用いるようです。

「vernal flowers [breezes]
春の花[そよかぜ].
the vernal freshness of a young girl
若い乙女の春のような清新さ」
(研究社新英和中辞典)

2番目は「青春の」「若々しい」という用法の例文ですが、おそらくそういったイメージを求めてつけられたのであろうと思われるのが、福岡県に本社を構える、化粧品その他の会社「ヴァーナル」です。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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