蛋白石のねむり
乱雑に重ねられた手紙に
ぽつぽつと雨が降りはじめ
境界を失くした紙片は
月曜日の集積所で
収集を待つ月刊誌の断面に似てくる
昨夜、思い立って一括りにした恋愛ドラマは
明け方の湿気を吸って
鍵を失くした日記帳のように清潔だ
(菫色の月光が注ぐとき蛋白石のねむりは静かに/饒舌になる)
週末のラインを操る
指先だけに顕れる
Lamé
所謂、みずうみのねむる蛋白石は
てらてらとして
月のあかるい間に秘密を呟く
誰にも触れない
生まれそこなった手紙のように
折り目をひろげた便箋は
恥ずかしげもなく罫線を伸ばし
どこまでも白く
ただ眩しいうたた寝をする
さらさら
さらさら
霧がかる湖畔を
いま発ったのは誰でしょう
呼び止める隙もなく
さらさら
いってしまったのです
呪われた水鳥のように
静かに/饒舌に
さらさら
さらさら
さらさら
鳥たちはかつての羽の色を覚えているだろうか
薄灰色の
小遣いで買った安価なペンの文字は
躊躇った端と端だけが嘴のように消えずにいる
『もうじき真白なシャツを着ます
膨らんだ胸に並ぶプラスチックの釦は
手指の傷よりきっぱり赤いタイが隠して
隠されているあいだだけ
白蝶貝になるンです』
なにもかも暴かれてしまう前に
手づから傷をつけて
アセトンでひたひたの
毛羽立つコットンで包み
(魔法を)溶かす
ささくれに滲みる痛みを我慢しても尚
ひとつぶ残った
Laméは
静かに/饒舌に
てらてらと
みずうみにねむる蛋白石のように
慎ましく 反射する
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