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親友の苗字が変わった

数週間前、彼女は数年間付き合った彼氏とついに結婚をした。

ずっと「いつ結婚するの?」と何度も聞いていたけれど、こうやって連絡をもらうと随分あっけないというか、なんというか。なんかもっと言うべきことがあるんじゃないか、と思いながら「おめでとう、お幸せに!」とありきたりな返事をした。

普通の婚姻届けじゃつまらないからネットで頼んだディズニープリンセスの婚姻届けで提出しました、とSNSに写真つきで結婚報告を掲載していた彼女は、文面から幸福感が溢れ出ているようだった。

 

彼女と出会ったのは高校一年生の時。

当時公立高校の受験に失敗した私は、私立高校の特別進学コースに入学した。特別進学コースは学年で1クラスだけで人数も十数名程度しかいない。その中で女子は特に少なく、私のクラスでは私を含めて5人だけだった。

その5人の中で飛びぬけて目立つというか不思議と目を引く存在が、私の親友である。彼女はハーフで目が大きく、長い黒髪は常にサラサラ。何をしているわけでもないのに随分目立つ存在だった。勉強するか絵を描いてばかりでずっと教室の隅で地味に生きてきた私には、彼女とは住む世界が違うと思ったし、もし中学校で出会っていたら今みたいに仲良くはならなかったと思う。

高校卒業後、他の女子3人は関東とかちょっと遠くの学校に進学したので、唯一地元に残った私と親友は、大学に行ってからも何度も飲みに行ってそれぞれの近況報告をしたり愚痴を言いあったりしていた。

私は就職を機に地元からバスで1時間ほどの都市で1人暮らしを始めたから以前より会う頻度は減ったけれど、私が地元に帰った時はまた一緒に飲みにいったりもしている。

 

ところで、彼女は時間にめちゃくちゃルーズである。

私との約束の時間に1時間も2時間も遅刻したことは数知れず。学校に遅刻したことは無かったと思うが、心を許している故なのか私との約束には随分とだらしなかった。

「ごめん遅刻しそう!」「もう少しまってて!」「あとちょっとで着くから!」などなど、何度か連絡をくれるのだが、いくら私でも2時間も待たされればだんだん腹が立ってくる。それでもようやく到着した彼女に「ごめんね~」とあっけらかんとした様子で言われると、不思議とそれまでの苛立ちがスッと収まるものだった。

そしてもう1つ、本人はきっと忘れているだろうけど、彼女にまつわる出来事で忘れられない思い出がある。

高2の秋、とあることで悩んでいた私は、ある日教室のロッカーの前で突然泣き出してしまったことがあった。何の前触れもなく泣き出した私に彼女は驚いた様子だったが、私の前にしゃがむと何も聞かずににただ抱きしめて、そっと背中を撫でてくれた。

この時私は、あぁ、何があっても私はこの人を嫌いにならないだろうな、と思ったのである。

昔なにかの本で読んだかテレビで聞いたか詳細は忘れたのだが、人生の節目節目でよく頭に浮かんでくる話がある。

「世界中の2割の人はあなたがどんな行動をとってもあなたの事を嫌いになる。6割の人は行動によって好き嫌いが分かれる。 でも残りの2割の人はあなたがどんなヘマをしてもあなたの事を好いてくれる。世界はそういう比率でできてるらしい。」

この「あなた」を彼女だとしたとき、最後の2割の中には間違いなく私がいると思う。

彼女がどんなヘマをしても、どんなに腹が立つようなことをされても、彼女を嫌いにならない謎の自信が私にはある。なぜだかわからないけど。

この前地元で2人で飲みにいったとき、彼女は今の旦那さんの話をして「ことちゃんに似てるんだよ」と言っていた。私に似てるならきっと大丈夫だ。何があっても彼女の味方でいてくれるに違いないから。

 

私は彼女のことをずっと苗字で○○さん、と呼んでいたけれど、もうその呼び方は使えなくなってしまった。

下の名前で○○ちゃん、なんて呼ぶのを想像してはなんだかむず痒い気持ちになるのを何度も繰り返している。

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