家族ごっこ
私は父からの性的虐待を告白してもなお、父と暮らさなければならなかった。
幸いあれから再び被害にあうことはなかった。
母は弟の代わりに一緒に寝てくれるようになった。私の部屋のドアには鍵を付けてくれた。
何も知らない弟は、自分の部屋ができて喜んでいた。
それから中学3年生くらいになるまでのことはあまり覚えていないが、一つだけ覚えているエピソードがある。
私はもうお父さんのことは平気だよ、と後ろから父の両肩に後ろから捕まってアピールしたことがあった。母に心配をさせてはいけないと思ったからだ。
だけどその夜、母に「お父さんのこともう大丈夫ってことかもしれないけど、あんなことしないで。お母さん辛いから。」と言われた。
私は混乱した。どうしていいかわからなくなった。
辛そうな顔は見せられない。
かと言って平気だよというアピールはしてはいけないらしい。
親戚の家に集まった時でも、父も母も私も、何もなかったかのように振る舞う。お酒を飲むと饒舌になる父は、以前と変わらない。
何もなかったかのように「家族ごっこ」は続いていった。
外から見れば仲の良い家族に見えただろう。
でも私は何年も自分を押し殺して過ごしていた。
最初は意識的に自分の感情を消していた。何も感じないようにしなければ父と暮らしていくことはできなかった。
そうしていつの間にか父に対して何も感じなくなっていった。
それをおかしいとも思わなかった。
人生をやり直せたら。
最近流行りの転生ものの漫画を読んでそう思う。
そんなチャンスがあったら、私は虐待される前に戻って自室の部屋に鍵をつけてもらうのだ。
そうして高校卒業と同時に家を出て就職する。今とは違った出会いがあったかもしれない。
両親に負の感情を抱くこともなかったかもしれない。
弟も、自分をいらない子だと思わずに成長できたかもしれない。
叶うことのないタラレバを何度も繰り返し空想する。
そしてそんなことはあり得ないのだと思い直す。
現実に目を向けると、私を虐待した父がいて、それを知っていながら離婚しなかった母がまだ生きている。当時何も知らなかった弟は今になって過去を知り、鬱病になってしまった。
30年にも渡って家族ごっこをしてきた歪みが、今になって現れてきたのだ。
私の家族はもうバラバラだ。
本当に仲が良かった小学生時代にはもう戻れない。
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