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楽しくて面白い農業を次世代に伝えたい「産直倶楽部てんとうむし山下農場」

農薬を使わずに米や野菜を育て、養鶏をはじめたくさんの動物を飼っている「産直倶楽部てんとうむし山下農場」。

実際に農場に行ってみると、ワンちゃんが元気に迎えてくれ、山羊のリンちゃんが顔を出し、ウサギもピョンピョンとお出迎え。

体格の良い元気な鶏が、ゆとりのある鶏舎の中で動きまわっている。
畑の緑は濃く、しなやかに育っている。

気が付くと自然と笑顔になり、こちらまで元気になっていることに気が付きます。
なんだこのワクワクする感覚は?

農場のオーナーの山下進さんに、じっくりお話しを伺いました!

農業=苦労は刷り込みだ!

農薬を使わずに、農作物を育てるというとまず頭に浮かぶのが「大変な作業!」ということ。
わたしの実家でも隣の畑でたくさんの野菜を作っており、昔から害虫は家族がぜんぶ手で取り除いていました。農薬を使わないことは徹底していたのです。
そのときによく言っていたのが、「家で食べる分には、こうやって丁寧に作ることができるけど、売るほどたくさん作ろうとしたら到底無理。」ということ。

子供ながらに、農業は外仕事で大変、さらに農薬を使わないのはもっと大変だというのが記憶に残りました。

他にも、学校で行われる農業体験を通じて「農家の人が苦労して作ったもの」だから一粒残さず感謝して食べ物を大切にということを学びます。

こういう体験や教育に山下さんは、異議を唱えています。

本来農業は楽しいもので、工夫によってとても楽になるものだからだそうです。

そうは言っても、その工夫が大変なんだろうと思いきや、山下さんの農業の実情を聞いていくと、農薬を使わない方がかえって合理的で効率がよさそうです。

例えば、田んぼの草取りに除草剤を使うとき、田んぼに水を張る必要があります。するとジャンボタニシが現れて、稲を食べてしまいます。ジャンボタニシの餌になる草は除草剤によりなくなっているから、稲がもろにやられてしまうのです。そうして、ジャンボタニシは悪者とみなされ、別の薬で駆除しなければいけなくなるのです。

一方、ジャンボタニシを味方にして薬を使わない方法もあります。しかるべきときに水抜きをして、草だけをジャンボタニシに食べてもらうことができるのです。そうすると除草剤もジャンボタニシの駆除剤も不要になります。

そんな工夫ができると、薬を買う必要がなくなりその分だけ生産コストも下がります。その結果農業だけで食べていくという可能性も増えるとのこと。

好きなことを仕事にすることの難しさは、農業だけではなくどの分野でも同じです。
「好きなことを仕事にする」
それは、多くの人が一度は夢を見るのではないでしょうか。

山下さんは農業の分野で見事にそれを成し遂げられました。人生をかけて試行錯誤を繰り返して答えを出してきた果実だと言えそうです。

自然界に任せていれば農薬が不要になる

大規模農業で、一つの農作物を大量に生産すれば効率よく利益を上げることができます。
徹底した温度管理や、肥料、農薬を散布し、まるで工業製品のようにサイズも揃い、店頭に並べやすく、流通にのせやすい商品(農作物)の出来上がりです。

ブロイラーたちも、ウィンドレスの鶏舎に所狭しと閉じ込められ、朝から夜まで餌を食べさせられ続け、速く肥えて出荷されるように管理されています。

このように効率よく、安価で安定して食料が作られる現代社会では、言わずもがなたくさんのメリットを享受できます。

けれど、山下農場の平飼いの元気な鶏を見ていると、今の食生活で本当によいのだろうか。命をいただいていることを忘れ、簡単に規格品が手に入るライフスタイルで、わたしたちは本当に幸せなのだろうか。
そんな問いが、心に浮かんできました。

放ったらかしでもいい

単一栽培にするよりも複数の植物を混ぜて植える方が、害虫や病気を防ぐこともできます。

てんとうむしがアブラムシを食べてくれるように、虫を味方に野菜を守ることができるので、農薬散布が不要になります。

また、田んぼにいるジャンボタニシやカブトエビは、草取りをしてくれるのです。農薬を使い続けているとそれら大切な虫がいなくなってしまいます。除草剤以上に草取りをがんばってくれる虫は、農家にとって大切なパートナーです。


養鶏を中心に据えて循環型農業に転向

1990年代に相次いだ巨大台風や豪雨の影響を受けた後、山下さんは養鶏の規模を拡大し、平飼い卵の販売を中心にした、天候に左右されない農業経営に転向しました。

その結果、鶏糞の肥料を得ることができ、肥料の購入費用が浮くことに。
米と野菜作りで出てくる、屑米と屑野菜が鳥たちの餌になり、その餌を食べた糞が肥料になり戻ってくる。

循環型農業を始めたのは、理にかなっており必然の流れのように感じられます。

農薬不使用の米や野菜を食べた平飼いの元気な鳥たちが産む卵で、山下さんの収入は安定しました。
そしてそんな健康な鳥から発生する肥料で、また土地が元気になっていく。

こうして、一般に食べていくことが難しいと言われる農業で、十分に生活していけるようになったのです。

農薬不使用の農作物を産地直販で売る

子育て中のご家庭や、健康意識の高い人たちの間では、こうした農法で作られた農作物や卵は、とてもニーズが高いです。

採れる量に限りがある分、希少性が高く価値も高いので、直接お客様から購入いただく機会に恵まれます。

山下さんは多いときで160セットの野菜の詰め合わせの受注を受けて、生産が間に合わなくなったことがありました。

現在でも安全な食品に対する需要の高まり、さらに後継者不足が問題になっていることもあり、ますます供給に対する需要は高くなっているようです。

だからこそ山下さんの農業スタイルは、受け継がれていかなければ大変もったいないことだと思います。

山下さんの宝物

山下農場では、過去20年以上にわたり、地域の子供や大人に門戸を開き、地域農業や食について考えてもらうために様々なイベントを開催してきました。

子供をはじめ大人も一体感を感じることができた「れんげ畑祭り」は、盛り上がりを見せた。
レンゲソウが咲き誇る農場の傍で、ステージイベントやフリーマーケット、耕作体験、ヤギとのふれあいなど、たくさんのブースで賑わいました。

また、地元の園児や保護者を対象にした田植え体験を実施し、泥だらけになりながら、農業を楽しみました。
また、収穫の季節には、稲刈り体験をし、カエルやバッタなどの生き物探しに夢中になった園児たち。

秋の実りに感謝して味わう「収穫祭」では、炊き立ての新米に加えて、町特産のにんにくを使った焼うどん「こんぴっぴ焼き」が振舞われ、多くの家族が舌鼓を打ちました。

約15年の間、小学5年生の総合学習として稲作りを行い、れんげによる土づくりから生き物を活用した除草法などを実践しました。

中学生の職場体験を山下農場で受け入れたこともありました。

これらのひとつひとつの思い出が、山下さんの大きな宝物です。
この経験をした子供や大人が食や日本の農業のこれからについて再考するきっかけとなったに違いありません。

土地も機械も全部譲ります!

山下さんは、後継者を探しています。
これまでに培ったノウハウに加えて、30年以上にわたり、農薬を使わずにきた土地と、新しい農業機械や、家畜など全部受け継いでくれる人が必要なのです。

もし志と意欲があり、本気で挑戦したい人がいれば、お譲りしますとのこと。

一定期間をかけて丁寧に、山下さんが一生を賭けて研究し培ってきた農薬を使わずに楽しく食べていける農業を伝承します。

肥料や農薬の価格が高騰している現在は、このスタイルの農業で助けられる人が多いことでしょう。

いまの農業のあり方に疑問をもっていたり、食に対する姿勢を変えたい方など、一度山下さんに直接会いに来てください。

山下さんの詳しい活動や連絡先はこちらから

https://www.niji.or.jp/home/daikyo/renge/yamasita.html


文・写真:松原

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