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子供の旅支度は、親の旅支度。 〜コチラ側の素直な気持ち〜

夜の10時過ぎ。
家族グループのLINEに、写真が送られてきた。

「今日の晩ご飯」
そんなメッセージの後に、送られた写真は、ごはんとおかず一品の光景。
長女からだった。


7月3日から、仕事の関係で25歳の長女が東京でひとり暮らしを始めた。
地元京都で、彼女がアルバイトしていた飲食店が東京に新店舗を出店するということになり、彼女はそのオープニングスタッフとして声をかけられたことがきっかけだった。
そして、このタイミングで、彼女はアルバイトから正社員となった。
オーナーさんや店長さんとも仲良くさせもらいながら、2年半バイトし続けていたこともあったからだろうか、アルバイトの身でありながら、そのようなお声掛けはなかなか貴重なことだと、彼女からこの東京行きの話を聞いたときそう思った。
彼女もそう思ったらしく、家族と離れることに寂しさを感じながらも、このような機会もないと感じ、東京行きを決意した。

就職に関して、長女は過去にちょっと辛い思いをしている。
エステティシャンを目指して美容系の専門学校を卒業し、憧れを持ちつつ入社したは会社は、残念ながら彼女の肌感覚と合わなかった。
「肌感が合わないのは自分のせいなのか、どうなのか?」
彼女なりに相当に葛藤し、思い悩んでいたことを知っている。
結果として、彼女は3ヶ月ほどでエステの会社をやめた。
私も家内も、それでいいと思っている。
何も自分を押し殺してまで無理する必要なんてない、と思うからだ。

7月2日夜、引っ越しの荷物を車に積み、家内と長女と東京へと向かった。

東京で、娘がひとり暮らしをするということに、寂しさもさることながら、実はちょっとだけ不安もあった。
「ひとりで大丈夫かな?」
今までずっと一緒にいたから、そんな気持ちがときとして心にモワモワと浮かんでくる。
もちろん、そんな気持ちは表には出さないけど、親バカな感情のカケラが心の奥底に張りつていることは否めない。

だけど、娘が初めてひとり暮らしをする街に訪れ、その不安はなくなった。
私自身が、この街の魅力に取り憑かれたからだろう。


彼女が一人暮らしする場所は、東京都内の西北部に位置するあたり。
都心に向かう路線の駅も歩いて5分ほどで、住まいに面している道路もバス通りと、交通の便はとてもいい。
そして、何よりも魅力を感じたのは、最寄駅の周辺に広がる商店街だった。規模も大きく、なんとも昭和感が思いっきり漂う雰囲気がたまらなかった。

商店街というと、最近ではシャッターを降ろした店が多くなっているという話をよく耳にする。しかし、ここの商店街には、そんな空気がまったく感じられない。
むしろシャッターが閉じっぱなしになっているような店はない。
「ザ・昭和」といった構えのお店が、どこもかしこも軒先に売り物を並べ、元気よく商売が営まれている。若い人から、家族連れ、お年寄りまで、行き交う人々も多い。いかにもこの商店街に集ってきている感じだ。

「活気あふれる」「人情」

一般的な表現だけど、いまではちょっとあまり口にしないかもしれないそんな言葉が頭に浮かぶ。まさにこんな言葉がふさわしい商店街だ。
古めかしいスーパーマーケット、青果店、お持ち帰り専門の焼き鳥屋台、雑貨屋、金物屋、数々の飲食店…、それぞれのお店が持つ個性的な佇まいに好奇心が駆り立てられ、ワクワク感が止まらない。

ためしに、その古めかしいスーパーマーケットにも入ってみる。
所狭しとものが置かれている売り場は、ちょっと雑多な感じがして、いかにも昔ながらといった雰囲気だ。だけど店内は、今日の晩ご飯のおかずを買いに来ました、といった感じのお客さんであふれ、とても活気がある。
そんなことを感じながら、あれこれと売り場に並んでいる品物の値段を見てみる。

安い!

「東京は物価が高い」なんて誰が言ってるんだろう? といいたくなるほど、野菜や肉、魚が安い、そして、これがまた新鮮な感じなのだ。
地元で買い物するよりも安いように思えた。
これは、ちょっとした驚きだった。
このほかにも、同じようなスーパーや、食材店にも覗いてみたが、どこも同じような感じだった。
こんな商店街が近くにあったら生活が楽しくなるやろなぁ、としみじみ思ってしまった。

そして、こんなにも活気があって楽しそうな街で暮らしていけるんだな、と思ったとき、離れ離れにる寂しさや不安に思う気持ちは薄れ、なんかホッとした気持ちになった。
「あぁ、この街だったらなんか安心だな」
そんなつぶやきが、心のなかで自然ともれる。

新しい仕事、元気な街での新しい暮らし。
なんとも素晴らしいお膳立てやんか。
全てが前に向かって動いている、自分でどんどん楽しい世界を創れる、そんな感じがしてたまらない。
そう感じたら、長女の境遇が急に羨ましくなってきた。

「仕事も暮らしも新しいものづくしやし、これから楽しみちゃう?」
「ホンマ、せやねんな。離れ離れになってすごく寂しさはあるんやけど、仕事も全く新しことするし、これから先のことを考えたら、すごく楽しみやなと思うー」
そう答えた長女の姿は、すでに意識が先へ先へとフォーカスしている雰囲気が感じられた。


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「今日はお肉と長芋をあえてみた」
それからもLINEグループには、彼女のその日の晩餐の写真が、ちょくちょく送られてくる。
新しいお店を立ち上げるということで、やれ採用面接や、店舗器具の設置やらなんやらと、忙しく立ち回っているみたいだけど、晩ご飯はほぼ毎日自炊を頑張っているようだ。
メッセージとともに送られてくる写真を見れば、自炊も無理せず楽しみながらやっていることが伝わってくる。
話を聞けば、食材の買い物は、駅前の商店街を積極的に活用しているという。
いい感じやん。
新しい街での生活をしっかり楽しんでいるではないか。
生活を楽しんでいるということは、無理せず自分のペースでちゃんとやっていけてる証だな、と思う。

過去には、思い悩んだり、葛藤して壁にぶち当たったり、いろんな紆余曲折があったけど、その体験があったからこその「今」だ。
彼女のことを振り返ってみると、そのことがよくわかる。
もちろん、それは何も長女のことだけに限らず、自分もそうだし、ひとそれぞれみんな同じこと。

離れ離れとなる寂しさ…。
これも、まぁ、確かにね、辛いところだなと我ながらも思う。
でも、この体験があるから、次に会うときがまた楽しみにつながるわけだし、お互いの存在の大切さ、ありがたさというのもまたわかるというもの。
結局、辛いことも楽しいことも全部セットというわけやね、ということだ。

さて、これからがどんな流れ、展開にになっていくのか。
それこそ本人だけなく、コチラ側としてもホンマに楽しみやなと思っている。

そして「これからの流れ」ということについては、まさに自分自身も、だ。


〜この物語には、ちょっと前段があります〜
長女が、就職したてのころに思い悩んでいた頃のことから、東京に行くことが決まるまでのことについて、こちらで詳しく触れています。
今回の物語は、下記のこの物語の続きとして描いてみました。


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