月組公演『Eternal Voice 消え残る想い』

間もなく東京宝塚劇場での上演が始まる月組公演『Eternal Voice 消え残る想い』
今作は月組トップスター月城かなとさんとトップ娘役海乃美月さんの退団公演となる。

舞台はヴィクトリア女王統治下のイギリス。月城かなとさん演じるユリウスは考古学に傾倒し、アンティークハンターとして各地に赴く日々の中、ある首飾りを見る。それはメアリー・スチュアートの遺品とされ、ユリウスはその首飾りから自分を呼ぶ声を感じとる。そんな中、ユリウスは超常現象を研究する友人の元を訪れ、海乃美月さん演じるアデーラと出会う。彼女もまたユリウスと同じように首飾りに残された想いを感じとる。その声が届いたのは、自分たちに与えられた使命だと思ったユリウスはアデーラと協力し、メアリーの想いを果たすべく立ち上がる。

今作品は、舞台上に死者の声や呪い、超常現象など不思議な現象がさまざまに交錯し合う。それらの力を信じる人たちが大勢登場する中、ユリウスとアデーラだけが聞き取ることのできる声がある。アデーラはそれに恐怖を覚え、ユリウスはそれを使命だと感じる。同じ力を持ち、二人だけが分かち合える世界の中、互いを支え合い信じあう姿は、数々の作品をこなしてきた月城さんと海乃さんの信頼関係そのもののようである。

ミュージカルでありながら、今作品には音楽がとても少ない印象だ。登場人物が会話をしている間、舞台上では音楽が止まり、静寂が感じられる。本来、音楽にのり、歌として交わされるであろう登場人物の会話もすべて台詞として届けられる。ストレートプレイに近いような台詞量でありながら、観客を飽きさせない見事なテンポ感と掛け合いが見ごたえのある舞台だった。

今回の作品において、ユリウスとアデーラは分かりやすい恋人同士ではない。メアリーの想いを果たすという同じ使命に立ち上がる、いわば同志のような存在だ。しかし、自分の力を恐れるアデーラと、同じ力を持つからこそ心から励ますことのできるユリウスの関係性は他の誰にも邪魔できない絶対的な存在感を持つ。どんなときにでもアデーラを助けるために動くユリウスとその手を取りながら懸命に立ち向かうアデーラの間には、確かな信頼と安心が宿っている。それらの描写は、集大成にふさわしい貫禄を持ち、月城さんと海乃さんでしか演じることのできない役どころと関係性であった。

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